淡い雪のような初恋

AYANA

第1話

初めての恋。初恋。それを知ったのは私がまだ十四歳の時だった。


「梓、部活行こう!」

「うん。」

 放課後のチャイムと共に私はかばんを持って、同じ部活の幼馴染、加奈と一緒に教室を出た。

 ひんやりとした廊下に出ると、私は肩を上げて、白い息を吐いた。

「今日寒くない?」

「寒いよね。何か、今週、雪降るかもって。」

「えぇ~・・・そうなんだ。寒いわけだ。」

「もう少しでクリスマスだもんね。」

「そうだね・・・。」

 私達は何てことない会話を交わしながら、野外にある部室に向かって歩いて行った。

「う~寒い。」

 ジャージに着替えると、いつものようにテニスのラケットを持って、部室を出た。

 

今年の夏に先輩が引退してからは、私達二年生は最長学年になった。

 怖い先輩が居なくなって、急に自由を得た私達は文句を言いつつも部活を楽しんでいた。それに私には部活が好きな理由がもう一つある。そう・・・それは、一番近くで野球部を見ていられるという事だ。

「野球部、今日も張り切っているね。」

 校庭をまたいで、コートに行く途中、ジャージの袖に手を全部入れながら加奈が言った。

「本当だ。」

 私は横目で好きな人をちらっと見て言った。

「和樹いるじゃん。」

 加奈はニヤニヤして嬉しそうに言った。

「今日は一度も目合わなかったよ。」

 私は小さい声で言った。

「えぇ~?でもラインしているんでしょ?和樹だって絶対に梓の事好きだよ。」

「いやいやないって・・・。」

「まぁ・・・そろそろクリスマスだしね。」

「うん・・・。」

「何かあるといいね。」

「うん・・・。わっ・・・!」

 私はよそ見しながら歩いていたせいで、小枝に足を取られて転んでしまった。

「何してんの~!」

 加奈は転んだ私を見て、ケタケタと笑っていた。

「恥ずかしい~・・・。」

 私はすぐに立ち上がって、土を払ってすぐに歩き出した。



 いつからだろう。彼を目で追うようになったのは・・・。

 初めて同じクラスになったのは、中学一年生の時だった。それまでは私よりも身長が小さかった和樹。意識した事はなかった。でも、どんどん背が大きくなって、声も低くなって、まったく違う人になったように感じた去年の秋。私は和樹の事が好きだと気が付いた。それまでも仲の良い友達だった事もあってクラスが変わってしまった今でも会えば会話も交わすし、たまに意味のないラインも来る。何気ない事だけど、私にとっては特別で、和樹との関わり方次第で一日が平凡にでもハッピーにでもなる。目が合っただけで、もう嬉しくて、嬉しくて、声を上げたくなる。会話を交わせた日なんてもう夜も眠れないほどだ。和樹が好き・・・。もう本当にそれだけ。私の初恋・・・。恋ってなんて素敵なんだろう。和樹を好きになれただけで・・・こんなにも毎日が楽しくなるなんて、思ってもみなかった。


「お前、今日転んだろう。」

 夜、塾から帰ってくると和樹からラインが来ていた。

「わっ・・・やば!和樹からだ。」

私はお気に入りのスマホを持ったまま、顔がにやけてしまったのを自分でも分かった。

「見てた?」

 私はドキドキしながらすぐにラインを返した。

「皆見てたよ。笑ってた。」

 すぐに返信が来ると私はまたニタニタしながら返事を返した。

「はず!」

 送信・・・。

「今日寒かったよな。」

 和樹からラインが来た。急に話題が変わった事にビックリしたけど、またラインが来た事が嬉しかった。

「寒かった!ジャージだけとか凍えるわ。今週雪降るらしいよ。」

 送信・・・。

「マジで?俺、雪好き。」

 和樹からのライン。私は和樹が雪を好きな事が知れて嬉しかった。

「私も好き。寒いけど、あの雪が降りそうな曇り空。テンション上がる。」

 送信・・・。

「めっちゃ分かる。空気がひんやりしていて降りそうって分かるよな。」

 私は和樹からのラインが嬉しくて、にやにやしながら画面を見つめた。

 あぁ・・・嬉しい。嬉しいし・・・好き。好きすぎる。何だろうこの気持ち。どこから湧いてくるんだろう。

「今年のクリスマスは雪降るといいね。」

 送信・・・。

「そうだな。俺もそろそろ彼女用意しなくちゃ。」

 和樹のラインに・・・私は胸がドキッとした。これって・・・どういう事・・・?誰か好きな人でもいるの?それとも・・・?

 私は和樹のラインに少しの期待と恐怖を感じた。

 和樹に彼女が出来たら・・・どうしよう。そしたら私の片思い・・・終わっちゃうのかな。そんな事になったら・・・。

 

 そう・・・あれは去年の夏。まだ和樹の事が好きって事に気が付いていなくて・・・部活に一生懸命だった頃。同じ部活の裕子が野球部の和樹と両想いだって噂が流れた。裕子は否定していたし、その後二人が付き合ったという事もなかった。だから、和樹を好きって気が付く前までは忘れていたけど・・・。和樹を好きな今・・・その噂を思い出すと今でも胸が苦しくなった。


「用意するって!言い方よ。じゃあ、明日も早いからまたね。おやすみ。」

 送信・・・。

「ふぅ~・・・。」

 私は和樹からのラインの真意を聞くのが怖くて、足早にラインを終わらせた。

 本当はもっと喋っていたかったけど、それでも何かに気が付いてしまうのが怖くて、私は瞳を閉じた。

 あぁ・・・こんなにも好きなのに、臆病な私・・・。恋って幸せだけど、時々すごく苦しくなる。そう・・・こうして和樹に彼女が出来てしまう可能性を考えてしまう時とか、怖くて堪らなくなるよ・・・。


「おはよう!」

「おはよう!今日も寒いね!」

 翌朝、登校中の加奈と合流して一緒に学校まで向かった。

 ここ最近は本当に朝が寒い。コートを着ていても足元が冷えて、息も真っ白だった。

「昨日ね、和樹とラインしたよ。」

 私は幼馴染の加奈相手だとなんでも喋ってしまう。

「良かったじゃん!それで?なんてやり取りしたの?」

「そろそろクリスマスだねって。」

「へぇ・・・そしたら?」

「うん。彼女用意しなくちゃって・・・。」

「えっ?それって梓に彼女になってって意味じゃないの?」

「えっ?そうなの?」

 私は加奈の言葉に驚いて目を見開いた。

「う~ん・・・そうじゃないかな?私だったらそう解釈しちゃう。」

 加奈は嬉しそうに言った。

「そうなのかな?私、期待しちゃっていいのかな?」

「いいんじゃない?だって、周りに和樹とラインしている人いないよね?梓の事、特別だと思うけどな。」

「そっか・・・うん。そうかな。」

「あっ・・・でも裕子がラインしているって言っていたかな。ずいぶん前の話だけど。」

「そう・・・なの?」

 私は加奈の言葉に全身の血の気が引くのを感じた。

 やっぱり・・・。そうなんだ。和樹と裕子。何かあるんだ・・・。

「でもさ、付き合っているわけじゃないし、分からないよ。前の話だし。ねっ?」

「うん・・・。」

 私は急に開けた道がまた、パタッと消えてしまったように感じた。

 寒い朝・・・。ひんやりした空気。まだまだ冬は始まったばかりだった。


「ねぇ!聞いた?」

 放課後、同じ部活の里奈が走って私の元へとやってきた。

「どうしたの?」

「さっきね、野球部の男子が話している所、聞いちゃったんだけど、誰だっけあの・・・ほら、梓の好きな人・・・。」

「和樹?」

「そうそう。和樹君、誰かに告るとか話していたよ。」

「・・・えっ?」

 私は里奈の言葉に目の前が真っ暗になった。

「それって梓の事じゃないの?」

 話を聞いていた加奈が嬉しそうに言った。

「だよね!私もそう思ったの。」

 里奈も嬉しそうに言った。

「・・・そんな事ないと思うよ。」

 私はドキドキしながら言った。でも本当は私であって欲しいと心から願っていた。

「だってね、昨日の夜、彼女用意しなくちゃって、梓に言っていたんだよ。もうさ、決定だよね。」

「マジで?絶対にそうじゃん。いやぁ、梓も彼氏持ちか。彼氏はいいよ。」

 彼氏持ちの里奈は嬉しそうに言った。

「いいなぁ~・・・私も欲しい。超欲しい。」

 里奈と加奈は二人でわいわいとそんな事を話していた。

 でも正直私は笑えなくて・・・和樹が誰かに告る。その事が何だか怖いような気がした。


「部活行こうか。」

「そうだね。」

 一通りお喋りを終えると、私達の気持ちは落ち着いて、部室へと向かって寒い、寒い廊下を歩き出した。

「・・・あっ・・・。」

 私はふと、外を見つめて声を出した。

「うん?どうしたの?」

 加奈が不思議そうに私を見た。

「なんか・・・雪の降りそうな空気。」

 私はひんやりとした空気を吸い込むと、雪の匂いを感じた。

「えっ~今日は降らないでしょ?天気予報、曇りマークだったよ。」

「いや・・・降るよ。多分。」

 そう言うと、昨日の和樹とのラインを思い出した。和樹も感じているかな?雪の降る前の空気・・・。


「お疲れ様でした。」

「お疲れ様でした。」

 寒空の下、一時間の部活はあっという間に終わり、部室で着替えを終えた私達は部活仲間と一緒に校門へと向かって歩き始めた。

「冬は寒いけど、あっという間に暗くなるから部活が早く終わっていいよね。」

 加奈は嬉しそうに言った。

「そうだね。あぁ、早く帰ってこたつでゴロゴロしたい。」

「最高だね。」

「・・・あれ?和樹君じゃない?」

 校門までやってくると、同じく部活を終えた野球部が屯していた。

「・・・まさか、梓の事待っていたんじゃないの?」

 加奈は私の耳元で嬉しそうに言った。

「いやいや・・・ないでしょ。」

 私はそう言いながらもドキドキしながら、野球部の方へと歩いて行った。

 すると・・・。

「あの・・・近藤さん、ちょっといい?」

 和樹が私の後ろを歩く、裕子に声を掛けた。

「あっ・・・うん。」

 すると、後ろを歩いていたテニス部の女子も立ち止まって、

「裕子、待ってようか?」と声を掛けた。

「あっ・・・うん。」

 裕子はそう言うと、和樹と一緒に体育館の方へと歩いて行った。

 その姿を見た、私達も足を止めて、誰も何も声を出さなかった。

 だって・・・その行動でもう・・・分かるから。和樹の好きな人が誰だったか。和樹が告白する人は誰だったか・・・。

 私が立ち止まったままでいると加奈が気まずそうに声を発した。

「あの・・・梓?」

「あっ・・・ごめん。私、今日お母さんに早く帰って来いって言われていたんだ。」

 私は加奈の言葉を遮るようにそう言うと、苦笑いしながら手を振って方向転換をした。

そして、すぐに駆け出した。


 やっぱり・・・やっぱりそうだった。そうだったんだよ。分かっていた事じゃないか。・・・でも。

 私は走りながら、どんどん涙が溢れてくるのを自分で感じた。あぁ・・・あの時に、声を掛けられたのが私だったらどんなに良かっただろう。和樹に告白されるのが自分だったら・・・。どうして裕子なの?そして・・・裕子もきっと和樹が好きだ。

 悲しい・・・悲しい・・・悲しいよ。辛いよ。苦しいよ・・・。

 私は真っ暗な帰り道、皆からだいぶ離れた所まで走り切ると、少しずつ足を緩めて、とぼとぼと歩き始めた。

 どうしよう・・・涙が止まらない。苦しい。苦しいよ・・・。

 ねぇ・・・こんなにも好きなのに。こんなにも大好きだったのに・・・。今でもこんなに好きなのに・・・。私の気持ちは全然届かなくて・・・。

 和樹を見られるだけで幸せだった。喋れただけで寝られなかった。笑顔を見るだけで息さえ出来ないほどに愛おしくて・・・ラインが来た日は顔がにやけて止まらなかった。

 和樹が居るだけで幸せだった日々・・・。もう終わりなの?

 実らなかった私の片思い・・・。これからどうしたらいいのかな・・・。

 

「ただいま~・・・。」

 私は必死に笑顔を作っていつも通りに帰宅した。

「お帰り。」

 お母さんは私の顔も見ずに何やらパソコンをいじりながらいつも通りにそう言った。

「着替えてくる。」

「うん。ご飯もうすぐだから。」

「分かった。」

 私は階段を上がっていつも通りに自分の部屋に入ると、そっとかばんを置いて制服のままベッドに倒れ込んだ。

「・・・はぁ・・・。」

 私は一人になるとまたどんどんと涙が溢れてきた。

さっき・・・いっぱい泣いたのに。まだ涙が出てくるよ・・・ねぇ・・・和樹。和樹・・・。和樹。

 好きだった。大好きだった。本当は彼女になりたかった。

 和樹と一緒に校門から堂々と帰ったり、日曜日は公園でデートしたり、夜中に電話したりしてみたかった。

 和樹の隣で笑って、何気ない事でふざけあって・・・好きだよって言ったり、廊下で帰る約束したり・・・してみたかった。和樹の特別として、一緒に過ごしてみたかった。

 初めて好きになった人・・・。私に初めてをたくさんくれた人。こんなに好きなのに。こんなにも好きなのに・・・。

 ただ好きになってもらう事が・・・叶わない今・・・私、本当にただただ苦しいよ。だからきっと・・・この気持ちがある以上、涙はきっと止まらないのかもしれない。


「梓、ご飯出来たよ。」

 一時間後、お母さんが声を掛けるまで、泣いたり、目を瞑ったり、和樹を想ったりしていた。そうだ・・・まだ制服のままだった。

「今行く。」

 私は大きい声でそう言うと、部屋着に着替えて、リビングへと急いだ。


 リビングに着くと、家族はもうご飯を食べていて、私の事なんてどうでもいいように、テレビを見ていた。

お父さんとお母さん、そして弟。私は小さく頂きますと言って、なるべく顔を隠しながらご飯を食べた。

 あぁ・・・こんな時でもお腹が減るって、何だかなぁ・・・。 

 私はカレーをきちんと平らげると、部屋に戻って携帯を開いた。


「うん・・・?ライン来ている。」

 私は加奈からのラインを見て、すぐに顔を上げた。

「梓、ごめんね。あの・・・今から行っていい?」

 数分前に来ていたラインだった。

 私は時計を見ると、七時半を差していた。

「今から・・・。」

 私は自分の部屋の窓を開けると、今にも雪が降りそうなどんよりとした雲が広がっていた。

「うん。大丈夫だよ。でも家族がいるから、外でもいい?近所の公園で待っている。」

 私は加奈にラインを送ると、すぐにコートとマフラー、手袋をして階段を降りた。


「寒い・・・。」

 近所の公園のベンチに座ると私は、すぐに空を見上げた。

 今にも雪が降りだしそうな空・・・。

「雪・・・降るかな。」

 私は白い息でそう呟くと、マフラーを口の上まで巻き直して加奈を待った。


「梓!」

「加奈!」

 加奈は私を見つけると嬉しそうに、笑いながらそばに来た。

「飲む?」

 そう言うと、私に温かいコンスープの缶を渡してくれた。

「ありがとう。」

 私はそれを受け取ると、手袋越しにも温かさを感じた。

「ごめんね。こんな時間に。」

 加奈はそう言うと、そっと土を払ってベンチに座った。

「うん・・・。私も今日は先に帰っちゃってごめんね。」

「全然だよ。あのさ・・・。」

「うん・・・。」

「・・・二人、付き合ったみたい。」

「・・・だよね。」

 私は加奈の言葉に驚きもなかった。だって、あんな姿見たら分かるよね。和樹が裕子を好きだって事・・・。

「裕子もずっと好きだったんだって。」

「一年生の頃から噂あったもんね。二人が両想いだって・・・。」

「そうだったんだ。私は知らなかった。あの・・・梓、本当にごめんね。」

「・・・なんで?」

「私、無責任な事ばかり言って・・・。きっと梓の事傷つけたと思うの。本当にごめん。」

「ううん・・・。加奈は何も悪くない。」

 私は本心でそう言った。そう・・・加奈が頻繁に和樹が私を好きだって言ってくれた事で期待してしまった事もあったけど、その事と今回の事は全然関係ない事だから。

「私ね・・・私もね・・・好きな人がいたの。」

「・・・えっ?」

 初耳だった。加奈に好きな人がいたなんて。

「・・・里奈の彼氏、滝沢君。」

「そうだったんだ・・・。」

「二人が付き合った時、本当に辛かった。苦しかった。だから分かるの。梓の気持ち。」

「うん・・・。」

「たくさん泣いて、たくさん後悔した。あぁ・・・告白しておけば良かったって。」

「・・・そっか・・・。」

「だから、梓と和樹が上手くいってほしかった。私みたいに辛い想いして欲しくなくて、必要以上に期待持たせるような事とか言っちゃって・・・。本当にごめんね。」

「大丈夫だよ。そっか・・・でも加奈も一緒だったんだね。」

 私は涙を堪えて言った。

 確かに相手が滝沢君じゃ誰にも言えないよね。だって里奈は片思いしていた時からずっと彼が好きだって言っていたもんね。

「辛かったね。」

「・・・うん。でもね、今一番辛いのは梓だよ。」

「・・・うん。」

「好きな人が辛い人になっちゃうって、本当に辛いと思うの。」

 好きな人が辛い人・・・。私は加奈の言葉をかみ砕いた。そっか・・・だから私は今、どうしたらいいのか分からくなったんだ。そして、加奈の言葉をその通りだと思った。

「本当だね。私ね・・・和樹を想うと嬉しくて、楽しくて。幸せで・・・いっぱい温かい気持ちになれた。部活の時、和樹を見られる事が嬉しくて部活に行くのも辛くなかった。」

 私は半分泣きながら言った。

「うん・・・うん。」

「ただ見ているだけで良かった。見ているだけで心が満たされた。想うだけで嬉しかった。」

「うん・・・。」

「それが・・・今は想うだけで苦しくて、悲しくなるの・・・。」

「分かる・・・分かるよ。」

「・・・あぁ・・・恋って辛いね。本当、加奈の言う通り、好きな人が辛い人になっちゃうのが一番辛いのかもしれないね。」

「・・・うん。でもね・・・。」

「・・・うん?」

「・・・今は考えらえないかもしれないけど、また必ず誰かを好きになれるよ。」

「・・・加奈。」

「私も辛かった。苦しかった。二人が帰っている姿なんて、見た日なんてずっと心が落ち込んでいた。でもね、時間が私を楽にしてくれた。」

「時間が・・・?」

「うん・・・。時間が経つほどにどんどん二人を見る事にも慣れてきてね・・・今はもう全然大丈夫なんだよ。」

「・・・そっか・・・。」

「だから、梓・・・絶対に大丈夫だよ。今は心のままに泣いて、苦しんで、悲しんで。でもこの苦しみは永遠じゃない。絶対にいつか光が見えるから。いつか、和樹が辛い人じゃなくて・・・たくさん幸せをくれた人に変わるから。大丈夫だから。」

 加奈は泣きながらそう言うと、私もポロポロと涙が溢れ出してきた。

「うん・・・うん・・・。そう信じる。そう信じて頑張るよ。」

 私は必死に声を出した。加奈の言葉に答えるように必死に。

「大丈夫。私、ずっとそばにいるからね。何かあったら何でも話して。一緒に乗り越えて行こう。」

 加奈も必死でそう言うと、二人でわんわんと泣いた。



「あぁ・・・泣いた・・・。」

「泣いたね。」

 気持ちが落ち着くと、二人共真っ赤な鼻で笑いあった。

「あっ・・・雪。」

 気が付くと空から綺麗な雪がふわふわと舞い降りてきた。

「やっぱり降ったね。」

 私は本当の笑顔になると、手袋越しに雪を拾った。

「梓の勘は当たるね。」

 加奈もそう言って笑うと、二人の間に温かい空気が流れた。

「帰ろうか。」

「うん。」

 私達は立ち上がると、笑顔で見つめ合って歩き出した。

 私は不思議とさっきまでの悲しみが少しだけ薄れている事に気が付いた。

 それが誰のおかげかは、もちろん考えなくて分かる事だった。



 ねぇ・・・和樹・・・雪が降ったね。あなたも今日、雪が降るって感じていましたか?

 そんな事ももう・・・聞くことが出来ないかもしれないけど、いつか私の気持ちが、落ち着いたらまた・・・他愛のない話をしようね。そうなるまでは・・・少し時間がかかるかもしれないけど、いつか必ず・・・加奈の言う通り、あなたが幸せをくれた人になる事を信じて進んでいきます。

 そして・・・私の初恋。楽しくて、幸せで温かくて・・・それでいて辛くて、悲しくて、苦しい思いをたくさん知る事が出来た恋。私の初恋は淡い雪のように解けてしまったけど・・・この想いがいつか、また温かいものに変わる日が来る事を祈って、私は明日からも笑顔で生きていきます。

 

終わり

 

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