年寄りの熱湯

白川津 中々

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まったく酷い話で、年金受給額が大幅減額、あるいは0となってしまった者が大量発生し、老体に鞭打ち働きに出なければならない年寄りが続出していった。


政府は年金政策の失敗を認めるも「しゃあないやんか」で済ます無責任会見を実施。「労働の喜び」などとまるで共産圏のようなスローガンを掲げて老人プロレタリアートの実現を目指す方向へ転換し、積極的に老人を採用した企業には助成金を支援していった。その金を年金として渡せばいいのではという意見も当然出たが事はそう簡単ではない。件の政策は経済産業省、年金は厚生労働省、そして財源管理は財務省と、三つの省庁が絡んでいるため、連携が困難なのである。それをやるのが政府だろうという至極真っ当な意見は昔からあるわけだが聞き入れられることはない。政治家先生、並びに官僚の皆様方は大変お忙しいのである。


そうして老人達はしゃあなしにフルタイムで働き出すようになったのだが、これが予想外にポジティブな影響を及ぼす。単純な労働力が増えたため供給面が需要に追いつき市場が健全となって経済が潤ったのだ。これに伴って老人向け娯楽が発展していき、おじいちゃんおばあちゃんは第二の春を享受していった。労働と娯楽により精神的な若さを取り戻していった老人達は「まだまだいけるんじゃね?」と自信をつける。その自信によって精力を取り戻し、年甲斐もなくこぞって子作りをする者が増えていき出生率が増加したのだが、ここで人体の奇跡が起こった。どれだけ気持ちが若くなっても体は衰退真っ只中。なんとしてでもここで優良な子孫を残さねばならないと体中の細胞が叫んだのか、精子、卵子ともに活性化が見られ、老人同士でいちゃいちゃした場合、着床率は脅威の100%を叩き出した。しかも生まれてくる子供は心身知能の発育があまりに高く、1年で10年分の成長を遂げるのだった。原因は解明されていないが、死に体となった体の記憶が遺伝子に溶け出したのではないかと奇想天外な仮説が立てられ、現在でも研究が進められている。


しかし、そうして生まれてくる子供たちはいずれも短命であり、平均寿命は30年ほどであった。過剰な速さで成長していくため遺伝子分裂の回数が多く、すぐに上限へ達してしまうのである。逆に若さを取り戻した老人達の寿命は伸び、100歳、200歳は当たり前となって元気に働き子供を作り続けていた。歪な人口ピラミッドの完成である。短命と長寿、二分化した社会はこの先どうなっていくのか。それは、未来ある老人達の手にかかっている。


人間30年か200年、下天の内を比ぶれば、夢幻のごとくなり……

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