第33話 魔力の欠片
あれから私たちは、時間さえあれば体を繋げて。
確かに私はここにいると、ユーグが信じたかっているようだった。
私もその不安を受け入れて。
2人で、今の想いを確かめあっていた。
そして……。
そんな穏やかな日々が続き、1 週間たった頃。
教室に入ると、フォートと、目が合って。
「えっと……久しぶりだね、フォート……」
「……そうだな。アリセアは元気にしてた?」
本当に、久しぶりだ。
彼と話そうと試みようとしたのに、また、あの日から彼が休んでしまったから。
「それは、……こっちのセリフだよ。フォートが、……休んでたから心配してたのよ」
アリセアは、フォートの顔を、そっと見つめる。
しかし、アリセアの行動とは裏腹に、フォートは少し視線を逸らし、曖昧に笑った。
「……ありがとな。ちょっと、いろいろあって。帰ってきたばかりなんだ」
「帰ってきた、って……」
気になったけど、それ以上は聞けなかった。
彼の雰囲気が、どこかいつもと違っていて。
「……でも、元気そうでよかった」
本当に。
あんな変な別れ方をして……ろくに話もできずに、
それから時間が経ってしまっていたから。
ずっと、フォートの事を、傷つけてしまっていないかと、気がかりだったのだ。
「そっちこそ。……ユーグスト殿下とは、うまくやれてるのか?」
「え?」
突然、彼からその名前を出されて、……戸惑った。
「いや……なんでもない」
なんでもないって……。
そんな顔には、見えないのだけど。
そうは言ってもアリセアも、どうしたらいいの分からず黙りこくる。
二人の間に、変な空気が流れてることだけは分かる。
だけど……。
「アリセア、ちょっと良い?」
昼休みに入ると、すぐにフォートから話しかけられた。
多分、あの時の件、だよね?
「う、うん!」
彼に続いて、歩いていく。
周りには生徒がいるけど、話までは聞こえない、そんな距離。
奥の廊下で、フォートが、立ち止まる。
その途端。
その、彼の足元から。
パキッーー
鉱石のような透明な結界が
一瞬で周りに展開ーー構築され。
オーロラのような虹色に輝く薄い壁に、
気がついたら2人は包まれていた。
「え……」
驚きで結界を見渡す。
「これ……貴方がしたの?」
魔力レベルが相当高くないと出来ない、……静影結界。
一部の教師や、学園長にしか出来ない。
「ある一定の空間と、音を隠すーーエリア結界?」
アリセアはびっくりして声にならなかった。
初めて……みた、と思う。
元々フォートは、魔法センスも良いとは思っていたけど……もうすでにこのレベルを習得しているーー?
未だに衝撃から立ち直れていない中、フォートが話し始めた。
「……アリセアの中にさ」
「……え?」
そのせいで反応に遅れる。
「……ユーグスト殿下の、魔力のカケラが……あるよな?」
私に背中を向けた彼が、ふいに、言いにくそうに、口を開いた。
「魔力……?ユーグの?」
私の中に?
……どういうことだろう。
魔力を貰うなんて、今の私のように、
おそらくそんな事、簡単に出来るはずない。
……と思ったのだけど。
カケラ……?
「あ……もしかして」
サッと顔が赤らむのが自分でも分かった。
ユーグスト殿下と、身体を重ねたことで、
彼の魔力が私の中に……?
……そんな事ってあるの?
無意識に、下腹部に手がいく。
「ちゃんと。お前の意思?」
ふいに、フォートが、身体ごとこちらに振り返る。
……なんで。
そんなに貴方が傷ついた顔してるの?
「っ、……フォート……に、それは関係あるの?」
何を言われたのか自覚した途端、アリセアは急に顔が熱くなり、手がほんの少し震えた。
目を伏せ、呼吸も少し乱れる。
恥ずかしさとほんの少しの苛立ちーー誤魔化すために、今度はアリセアが下を向いた。
でも。
本当は、こんなに酷いこと、……彼に言いたくない。
ぎゅっと。
無意識にスカートを握りしめる。
「関係……!は、……もちろんないだろうけど。アリセアのことが、心配なんだ」
切なそうなその声に、私の手が震える。
心配……。
そうだ、ずっとフォートは私を心配してくれていて。
それなのに私は彼に何も言えなくて。
今も、彼が私に問いかけてくれている。
歩み寄ってくれているのに。
私も。ちゃんと、向き合わなきゃいけない。
今、ユーグストの魔力が、私の中に入ってるって、フォートは言ったよね?
ということは……。
「フォート。私の魔力の変化に、やっぱり最初から気がついてたの??」
意を決して顔を上げる。
頬は依然として真っ赤だとは思う。
けれど、恥ずかしさはまだあるけど、これだけは確かめておきたい。
余程私が強く見つめていたのか、フォートが苦く笑いながら髪をかきあげた。
「そうだよ。初めて会った時から……
アリセア嬢の魔力の状態はなんとなく見えて分かっていた」
「フォート……」
私の声、かすれていないだろうか。
「だから、アリセアが学校を休んで、復帰してきた時。すぐに違和感を感じた」
「すぐに……?」
やはり、ユーグが推測した事は、正しかったのだ。
覚悟していたとはいえ、彼の口から直接聞くと、やはり驚きが勝ってしまう。
「ただ、俺の場合、対象者に接触しないと、
確実には分からない、朧気のようなもの」
「おぼろげ……はっきり、分からないの?」
アリセアが、戸惑いつつも、問いかける。
「あぁ、すりガラスのようなものだと思ってくれればいい。向こう側がなんとなく見えるけど……
はっきりと見えない、だろ?」
フォートが、首を傾げ、ふっと不敵に笑う。
「……っ」
「アリセア、俺はね。
これでも、アリセアの"友達”……として、
君がもし何か困っていて、俺を頼ってくれたらーー
助けるつもりではいるんだ。できる範囲でね」
その深い眼差しに心が揺れ動かされる。
フォートは……今まで私に対して違和感を感じていたのに。
それでも、変わらず傍にいてくれてたってこと、だよね?
それがどんなに難しいことか、私でも分かる。
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