第9話 同じ気持ち
「いやぁ、偶然アリセア様もここに来ようとしていたとは。お二人ならいつでも大歓迎。これからもよろしくお願いします」
喜色満面の市長に、迎えられ、アリセアもカフェへ案内されることになった。
奥の、隔離された落ち着いた席にユーグスト殿下と腰を下ろす。
市長は「お食事の時はよろしかったらおふたりでどうぞ」そう言って気を利かせてくれ。
「あの……ユーグ?」
「ん?何かなアリセア」
「えっと、……怒ってますよね?勝手に出てきたこと」
先程から殿下はいつも通り穏やかに話しかけてくれるのだが、私は何だか気まづい思いをしていた。
ユーグスト殿下が心配してくれていたのに、勝手に外に出たことに加え、呑気に食事をしに来たのである。
「申し訳ありません、心配してくれてたのに」
「それはいいんだよ、ヤールとの通信手段を伝え忘れていたのは私の落ち度だからね」
困ったように笑うユーグだったが、アリセアには罪悪感が募った。
(フォートにも、申し訳無かったな)
あの時、気がつけばフォートが消えていて。
おそらく殿下や私に配慮してくれたんだろう。
どこかでお昼ご飯食べてるといいのだけど。
ユーグにはフォートの事について何も言われなかったので、もしかして気が付かなかった?
彼が私を勝手に連れ出したことによって罰せられても申し訳ないので、私も敢えてユーグにその事を伝えたなかったのだけど。
でも、実は気がついていたとしたら?
もしかしてフォートの存在に気が付いていたけど、ユーグもその事について触れないようにしてくれてるのかもしれない。
そうだったとしたら、フォートにもユーグストにも気を使わせてしまうなんて……。
自分の軽率さに、信じられない思いだ。
「アリセア、公務で今しか一緒に入れないけど、折角だから楽しもう」
励ますように、優しく背中にポンとふれられ、私はハッと意識が浮上し、ユーグを見つめた。
穏やかな優しい目でみてくれる彼は、もうこの話はお終い。
そう言ってるかのようだった。
「はい」
なんとか私も気を取り直し、ユーグから受け取ったカフェメニューを見たのだった。
********
「え?……美味しい」
薔薇のアップルパイ。
その名の通り、美しい薔薇のお花の形を林檎で表現した……小さめのアップルパイ。
フォークとナイフで切り分け、口の中に一口頬張ると。
林檎の瑞々しさと、ふんわりとした優しい香りや甘さが口いっぱいに広がり。
それが口の中でほどけていった。
「幸せそうだね?」
「はい!もう、美味しくて、幸せすぎます」
この美味しさは自然と笑みが浮かんでしまう。
ユーグが口に運ぶのは、先程市長がおすすめしていた"山あか”さくらんぼを使ったクッキー、そしてフィナンシェである。
さくりと口の中へいれると、山あかの香りが広がり、こちらは甘さが控えめで食べやすいらしい。
「これは美味しいな。弟達にも買っていこうかな」
「弟君と妹君が、確かいらっしゃいましたよね?」
貴族名鑑を思い出すと、確かユーグストの双子の弟、妹がいた。
ユーグは18歳、弟君と妹君は14歳だったはず。
私より2つ下なのよね。
「そう。まだ彼らにはアリセアの事を伝えてなくてね。私以上に心配性だし、何をやらかすかわからないから」
「やらかすって」
ユーグの言葉に、私はついつい吹き出して笑ってしまう。
彼はそんな私を見て、目を細めて微笑した。
「アリセアが笑うところを見ると、幸せな気持ちになるよ」
「ユーグ」
「君がいつまでも笑っていれるためにも、どんどん街を良くしていかないとね」
「そう言って下さってありがとうございます。……でも」
私の言いかけた言葉に、ユーグは優しい瞳で続きを促す。
この言葉を言うのは恥ずかしかったが、自然と湧き上がる気持ちを、伝えたい。
そう思ったのだ。
優しい眼差しに、背中を押され、私も勇気を出さなくては。
「ユーグスト殿下も幸せになれるように、私も一緒に、お手伝い……いえ、私も私の全力で頑張りますから」
彼は一瞬ぽかんとしたあと、目を細めて優しく笑った。
まるで、思いがけず花が咲いたような表情で、私をじっと見つめる。
「ありがとう、アリセア。その気持ちが嬉しいよ」
ユーグの言葉に、私も温かい気持ちになった。
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