記憶喪失の私と魔法学園の君~甘やかしてくるのはあの方です~

@hikarinosakie

第1話光り輝く魔法陣の上

~巡る願いは動き出す~


「もう一度、逢いたい」




「今度こそ、あの手を離さない」




願いは巡りーー






運命の輪が再び回り始める。






**








「……あれ、私」




眩しい光が目に刺さる。




気づけば私は、青白く光る魔法陣の中心で倒れていた。






「魔法陣……?っ......どうして、私がここに」






痛む頭を押さえながら、なんとか周りを見渡す。




目の前に広がるのは、静かな白い回廊に、図書館。






周囲には木々がざわめき、空は夕暮れから夜に差し掛かろうとしている。




ここは……。






「魔法学園トリバス……」




それだけは分かる、だけど……。




私は……だれ?




頭に霧がかかったようで、何も思い出せない。




自分が、どんな存在だったのかも。




名前も、過去も。






立ち上がろうとするも、左肩に痛みが走った。




「……痛っ……」




体の動きに沿って、茶色の長い髪が、さらりと揺れ視界に入る。




肩の痛みも頭の痛みも、倒れた時に打ったのかもしれない。




誰に助けを求めたらいいのかも分からず、途方に暮れる。




「どうしよう……」


まるで、世界に取り残されたように感じて、私の心に不安な気持ちが広がっていった。




と、その時。




「アリセア!大丈夫か?!」




誰かが走ってくる音。


夕日に照らされて、輝くプラチナの髪をもつ青年が、息を切らせて心配そうな顔で駆け寄ってくる。




「何があった?この魔法陣は……?」




そう言いながらも、優しく私の背中をささえてくれて。




彼の背後には、見たところ、数名の男性達も一緒だ。




魔法学園の制服とは違う白のジャケットに身を包んでいた。






その青年の澄んだ碧い瞳が、私をじっと見つめる。




(アリセア……?)




その名前が、どこか懐かしいような気もして、思わず口にした。




「それが……私の名前?」




青年の顔が一瞬、驚きに変わる。




そして、訝しげに眉をひそめて言った。




「アリセア? まさか、記憶を失っているのか?」




記憶を取り戻そうと必死に思考をめぐらすも、何も浮かばない。




戸惑いながら頷くと、彼の困惑と悲しみの色が深まった。




申し訳なさが、胸にひとしお込み上げてくる。






ふと。脳裏に、誰かに話しかけられた映像が映るも、




その誰かを認識する間もなく……消失した。




「今のは……?」






あぁ、駄目だ、身体が、瞼が。


どんどん重くなっていく。




鉛のように、身体が重い…。




「アリセア?!」


必死に私を呼んでくれる彼の声に、答えようとしたが、意識が途絶えた。










*************




「アリセア!?」


青年が、華奢な彼女の身体を咄嗟に支える。


支えがなければ、頭から完全に崩れ落ちるところだった。




どうやら彼女は完全に気を失ってしまったらしい。




身体が酷く冷えている。




一体いつから……。




「ユーグスト殿下、一体何があったのでしょうか」




己の配下、護衛の1人が戸惑いの声をあげる。




魔法陣は、ここにいる皆に見えるほどの輝きだったが、ユーグストがアリセアに触れた途端、輝きを失い完全に消失した。




「分からない、ただ、何かが彼女に……」




血の気の引いた唇に、いつもの美しい透明感のある茶色の瞳は、今はすっかり閉じてしまっている。




「来るのが遅くなってすまない」




顔にかかった髪を、耳にかけてやる。




頬をそっと触ると、やはり冷たくて。




「彼女を安全な場所に運ぶ。……この件は内密にせよ」


「承知いたしました」






護衛らは、この状況に難しい顔をしながらも頷いてみせた。


ユーグストは自らの白いジャケットを脱ぎ、優しく彼女に被せる。




そして、まるで守るべき宝物のように、大切に抱きかかえた。




「殿下、私たちが運びましょうか」


「いや、大丈夫だ。彼女は私が運ぶ」






腕の中の彼女は、胸を上下させ、静かに呼吸を繰り返していた。




一旦は、安堵の息を吐く。




記憶を、なくしてしまったのだろうか。




ユーグストは、焦燥感にかられるのが分かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る