口づけ



「これなら、おれでもやってける……!」


 有刺鉄線を――鉄条網を使った戦術は成功した。


 ローズは鉄条網に絡まって死んだ魔物の死体を解体し始めた。


 解体中も油断せず鉄条網を展開しておき、震え続ける手で魔物を解体した。


 すると――。


「金だ!!」


 魔物の身体の中から、一欠片の金が出てきた。


 魔物の身体の中には、時折、金が紛れている事があった。冒険者の雑用係をしていく中で、魔物の解体も行ってきたローズは久々の輝きにうっとりした。


 他人が倒した魔物ではなく、自分で倒した魔物から金が手に入った。


 彼は金だけではなく、「自分で魔物を倒した」という大きな自信を手に入れた。


 初めての成果としては大成功と言っても過言ではないそれを――金の欠片を手に入れたローズは、ひとまず街へ帰る事にした。


 興奮で身体が火照り、「まだ戦える」という気持ちもあった。しかしローズは理性の手綱を握り、「無理は禁物」と結論づけた。この判断は正しいものだった。


 彼は迷宮街に戻り、金の欠片を商人に見せつけた。


 商人は「盗んで来たのか?」という考えが過ったが、返り血塗れのローズをよく見て――にわかには信じがたいものの、少年が魔物を倒したのかも――という考えに改めた。


 ただ、相場より少し安く買い叩いてきた。


 相手は子供と甘く見て、足下を見てきたのだ。


 それでもローズにとっては当面の生活費となるため、内心歓喜しながら取引を終えた。


 ローズはくたくたの身体を引きずり、宿屋に行った。


 直ぐベッドで休みたかったのだが、宿屋の主人はそれを許してくれなかった。


「水浴びしてこい。水浴び! ウチのベッドを赤く染める気か?」


 返り血塗れのローズは面倒くさがりながらも身体を洗った後、久しぶりに屋根の下で眠った。


 そのまま生死の境を彷徨う事となった。


 有刺鉄線で出来た傷口から、魔物の持っていた細菌が入り込んだのだ。


 元々弱っていた幼い身体は高熱に襲われてしまった。



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