静かな怒り

ひろ・トマト

第1話

私は思い悩んでいる。

というのもデートで着ていく服を選んでいるためだ。


服を一通り並べ、30分にらめっこ。決まったのはズボンだけ。

選んだズボンは黒のワイドパンツ。私の勝負服ともいうべきもので、気に入っているものだ。


しかし、これにあうコーデなどを考えると、なかなかに難しい。

いつも着ている服はあるのだが、いまいち地味だ。


だから決めきれない。


おしゃれ系のインフルエンサーのSNSを見たり、さらに普段なら絶対に見ないであろうファッション系のユーチューバーを見たり……。


そうして時間をかけ、ついにコーデが決まった。

白いインナーシャツに、青いふんわりとしたカーディガン。

これならばいいだろう。ふとスマホの時間を見ればもう一時間もたっている。

果たして結果はどうだろうか




後日。


彼がやってきた。いつものように朗らかな笑顔を見せて。

どうだろうか。どんな感想をくれるだろうか。


「腹減ったから飯食いに行かね」



……は?

思わずこぼれそうになった言葉をぐっと飲み込む。

私は平静を装い彼の言葉に頷いた。


いや、なんなんこいつ。人が一生懸命選んだのに感想もなしかい。



私は彼の様子をみながらそう思った。

しばらくは怒りを抑え続けなければなさそうだ。


私の気持ちなど一ミリもわかっていない無神経な彼に、そしてそんな彼にどこか安心感を覚えてしまっている自分自身に。

失望と悲しみと、不思議な安堵の想いを添えて。

デートはまだ始まったばかりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

静かな怒り ひろ・トマト @hiro3021

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ