時価一〇〇億の幸福
君島翠
第1話
残っている記憶の中で最も古いものは、二つの目玉だ。
白目のところがまだらに黄ばんでいて、キュッと細く瞳孔が縮んでいる。
それが不気味に路地裏からコチラを覗くようにポッカリと浮いているのだ。
当時どうしてそんな状態にいたのかはすっかり覚えてないけど、お腹が空いて、眠たくて、寒くてだとか。たぶん、どうせそんな理由でそこらへんに転がっていた。そんなオレをソイツは薄暗いところからジッと見ていたのだ。
野良犬か猛禽類か人間か。とにかく、人間を食べれるなんかがオレが死ぬのをただ待っている。
ただ浮いた二つは、オレにはやく死ねとしつこく言ってくるようにも見えたし、ただ弱いヤツが勝手に死んでいくのを観察しているようにも見えた。
この目玉はオレがふと正気を戻した時、いつもこちらを見ている。
始めはまだしぶとく自分を食べようと後を付け回してるのかと思っていた。けれども、どうやら他の人はその目玉のことが全く見えていないようなのである。
自分にだけ見える目玉。
ポッカリ浮いた二つの目玉。
ソイツは生涯オレの側を離れることは終ぞなかった。
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