第5話 司法試験昭和62年論文式刑法

※取扱い注意 過去問の難問の解答例です。中学2年に大学院レベルのものをみせています。

 中学2年に数学の青チャート、赤チャートの応用問題部分をみせている、といった具合でしょうか。


自招危難は違法性のなかのすこしマニアックな問題ではあるが、百選判例があること、公務執行妨害罪成立の際によくでてきたむかしのこととかもあるので、予備試験合格のためには、おさえておく必要はある。


司法試験論文式 昭和62年・刑法第1問

平成7年改正後刑法によって2020年段階を基準に参考答案があるわ。


2005年くらいまでは、司法試験に口述試験もあり、学説をかなり細かくしらないとだめな問題がでる時代だったようね。


試験委員はこのへんの試験問題まではみた世代だから対策しておいたほうがいいわ。


1時間で手書きでこれくらいかければ合格。

上位1割にいけたことでしょう。


(緊急避難)

第37条1.自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

2. 前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。


問題文

 自ら招いた危難を避けるためにした行為は緊急避難として認められるか。


 参考答案

1 問題の所在

刑法37条1項本文は自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。と規定しており、現在の危難をさけるため、やむをえずしたという緊急性・法益の均衡を要件に罰しないとしており、自招危難については直接の定めはない。旧規定では自招危難を認めない旨規程されていたが削除された。

 大審院判例は、自招危難は緊急避難にあたらないとしたものがあるが、最高裁判例はなく、下級審判例では自招危難が緊急避難にあたらないとしたが事実認定として認めていないものがある。

そこで、緊急避難で処罰されない理由を考察し、自招危難について学説を検討する。

2 緊急避難の本質

 わたしは緊急避難の本質は構成要件該当・違法・有責の犯罪要件中の違法性阻却であると解する。法益の均衡がある以上違法性がないと思料されるからである。法益が均衡な場合は責任阻却とする説も有力ではあるが、条文上ひとつの文言に二重の意味を付与する点で技巧的にすぎる解釈と思料する。

 違法性の本質については行為の無価値性とともに結果の無価値を考慮する行為無価値二元論がとる。例えば窃盗罪と器物損壊など同じ財産権侵害でも行為態様によって区別していること、行為は主観と客観の共同体だからである。

 そうなると、危難を自招したことについて行為無価値として考慮可能ということになる。

 自招危難について自招性を考慮する説もとりうる立場である。

3 自招危難の処理に関する説

 自招危難について緊急避難成立については全面否定説・全面肯定説・折衷説があるが、折衷説のなかで対立しているのが現状である。徹底した結果無価値からは全面肯定説になりそうであるが、それではそもそも緊急避難が緊急時に限られていることの理由がつかない。全面否定説については自招危難についても危難の程度が違う場合不当な結論が導かれることになるという批判がある。例えば過失により堤防を壊してしまい、鉄砲水がおきて命の危険があるため、他人の住宅の門を壊して避難したような場合に緊急避難成立を認めないのは不当であろう。

 わたしは、折衷説のうち、社会的相当か否か、自招性により保護利益が減少したうえで、補充性を判断し、さらに利用する意思があった場合は原因において違法な行為として処罰されうると解する。

予測可能な場合は、自招した危難を利用する意思がある場合は緊急避難を否定する説、自招危難に故意があるかないかで分ける説は、この点実質的に妥当でない解決をもたらすので採用しない。

4 原因において違法な行為論について

 避難行為以前にさかのぼり危難の自招性と併せて、なお最終的な法益侵害を決しようとする原因において違法な行為論と呼ばれる考えかたがある。これは原因において自由な行為と同様、原因行為にさかのぼってみるものであるが、自分の正当行為を利用した犯罪とみうる場合には一理あるが、これは間接正犯とみればいいのであって、構成要件と違法が同時存在すべきである違法性に関する総則規定にそこまで技巧をもちこむべきか疑問である。

5 (※加点されるかどうかは微妙 一行)

 自招危難でも第三者がからむ場合がある。

1 行為者Xが被害者Vへの侵害を招致したあとVを救助する場合

2 被害者Vが侵害を招致したあと行為者XがVを救助する場合

この場合はわたしの行為無価値結果無価値を考慮する立場からは行為無価値的に侵害招致の度合いを個別に法益の減少を判断すべきことになる。


参考 『刑法の争点』有斐閣2007年 52~53頁


参考判例 大阪地裁昭和32年

住居侵入、公務執行妨害、建造物損壊致傷、傷害被告事件


被告人の大阪府議会突入の際に相手方の反撃にさらに反撃したことについて自招危難への反撃は許されるのではないという控訴理由について理由なしてしている。


【事件番号】 大阪高等裁判所判決/昭和31年(う)第1605号

【判決日付】 昭和32年2月22日

【判示事項】 自ら招いた危難と緊急避難

【判決要旨】 自ら招いた危難を避けるためにする緊急避難は許されない。

【掲載誌】  刑事裁判資料148号278頁


       主   文


 本件各控訴を棄却する。


       理   由


 被告人等両名の弁護人坪野米男の控訴趣意第一点(被告人A関係)について。

 原判示第一(一)の事実は、その挙示の証拠により、これを認めるに十分であつて、原判決の事実認定には何等誤の点はない。所論は徒らに原審の採証を非難し、単に原判決が証拠に基き認定した被告人Aの暴行行為の否定を前提としているに過ぎないばかりではなく、本件は何等府会議場入場の資格のない被告人等教職員組合員及び自由労働者組合員等が不法にも府会本会議を中止させんがため、開会中の本会議場にちん入しようとしたものであるから、素より正当な団体交渉権又は団体行動権に基く、ないしは正当な目的を以てする適法な行為とは到底目し得ないことは、論を俟たないところであり、しかも同議場の秩序保持のため、議場出入口の整理の任に当つていた府会事務局議事課職員が、被告人等のちん入を阻止しようとして、内部から強力に押していた議場西出入口扉を、外部から押し又は突いた上右職員数名の顔面を順次手で突き上げる等した行為は、社会通念上も暴行に当ること、従つて公務執行妨害罪を構成すること、並びにかようにして強いて議場に入場することが住居侵入罪を構成すること多言を要しないところである。所論は理由がない。

 同第二点(被告人B関係)について。

 原判示第一(二)の事実は、その判示の証拠により、優にこれを認めるに足る。所論は被告人Bの本件行為はCの生命身体に対する現在の危難(同女が扉に足を挾まれたこと)を避けるため、己むを得ざるに出てた行為で、典型的な緊急避難行為である。原判決はCが足を挾まれた原因は自ら招いた危難だから緊急避難を許すべきではないと判示しているが自招危難と雖も緊急避難を認むべきものである。しかも本件の場合は自招避難(自ら招いた危難を自ら避けるための法益侵害)にも該当しない。即ち被告人が他人であるCの自ら招いた同人の危難を避けるため、己むを得ざるに出てた行為であるからであるというのであるが、原判決挙示の証拠によれば、Cが扉に左足を挾まれた原因は何等入場資格のない被告人等組合員が結集して、府会本会議場に殺到し西出入口より開会中の議場に押し入ろうとするのを阻止するため内側より府会事務局議事課職員数名が協力して同入口の扇を外側に向つて、強力に押していたのに、同扉外側から突き又は押し、かようにして内外から互に扉を押し合つていた際に、被告人等と行動を共にしていたCの左足が右扉に挾まれたものであることが認められるから、Cが扉に足を挾まれたのは、同女の独り自ら招いた危難ではなく、被告人等の共同行為に因り招いた危難と認めるほかはなく、全然被告人の招いた危難ではないとはいゝ得ないものである。従つて自招危難ではないという論旨は採用できない。しこうして、かような事態(危難)の発生は前叙のように被告人等において右扉を排して強いて議場に押し入ろうとし、議事課職員等においては、これを阻止しようとして、内外から互に強力に該扉を押し合つていたのであるから、被告人等としても、全く予想できなかつた事柄でもない事が容易に推認できる。さすればかような情況の下において、なされた被告人の本件行為、即ち被告人がCの前示危難を救うためとはいえ、右扉はめ込みの硝子を強打してこれを損壊し、その硝子の破片により、内部において、被告人等のちん入を阻止していた府会事務局議事課職員等に傷害を加えるに至つた行為を以て、これを己むことを得ざるに出でた緊急避難行為として、その刑罰責任の阻却を認めることは社会通念に照らし許されないものと解すべきを相当とする。蓋し、刑法第三七条において緊急避難として、刑罰を科せない行為を規定したのは、公平正義の観念に立脚し、他人の正当な利益を侵害して、なお自己の利益を保つことを得させようとするにあるのだから、同条はその危難が行為者の有責行為に因り生じたものであつて、社会通念に照らし、己む得ないものとし、その避難行為を是認することができない場合においては、これを適用することができないものと解すべきであるからである。(大正一三、一二、一二、言渡大審院判例参照)従つてこれと同趣旨に出た原判決の法律解釈にも誤りの点なく、所論は理由がない。

 よつて刑事訴訟法第三九六条により、本件各控訴を棄却すべきものとし、当審における被告人Bの国選弁護人に支給した訴訟費用の負担免除につき、同法第一八一条第一項但し書を適用して主文のとおり判決する。

 (裁判長判事 万歳規矩楼、判事 山本武、判事 小川武夫)


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