第21話 第六試合
七右衛門の目的は、寺蔵の刀。そして、寺蔵を倒し、名声を得ることだった。すでにその腕前は噂によって広まっており、ここ東の都にも寺蔵の名は少なからず、轟いていたのだった。
「あんた、"友殺し"の左思野寺蔵だな?」
寺蔵は、苛立ちを抑え、聞き返す。
「···貴様は誰だ?」
「俺は、東の七右衛門。ここらじゃ有名よ」
「ふん。知らぬな、邪魔だ。其処を退いてくれ」
「おっと。···その刀を置いていけ。さもなくば、俺を倒してから、な」
七右衛門の眼光が鋭く変わっていく。
七右衛門の言葉に、寺蔵の顔に侮蔑の色が浮かんだ。
「拙者を倒してから、だと? ずいぶんと威勢がいいじゃねェか、東の七右衛門よ」
寺蔵はゆっくりと刀の柄に手をかけた。鞘鳴りが静かな通りに響き、張り詰めた空気を切り裂く。七右衛門は表情を変えず、ただ静かに寺蔵の動きを見据えている。その眼光は獲物を狙う鷹のように鋭く、微動だにしなかった。
「この刀は、拙者が命を懸けて守ってきたもんだ。お前のような小物にくれてやる義理はねェぜ」
寺蔵の声には、かすかな苛立ちと、それを上回る冷たい響きが混じっていた。彼は一歩、また一歩と七右衛門に近づく。地面を踏みしめる音が、二人だけの空間に響く。七右衛門は、その場で仁王立ちのまま、まるで根が生えたかのように動かない。
「命を懸けるのは、俺も同じだ」
七右衛門の声は、低く、しかし確かな響きを持っていた。
「俺には、その刀が必要なんだ。そして、あんたの首もな」
刹那、寺蔵の刀が鞘から放たれた。切っ先が風を切り、七右衛門の顔面を狙う。だが、七右衛門は寸前のところでそれを躱した。紙一重のところで顔を掠めた刀の風圧が、彼の頬の産毛を逆立てる。
寺蔵は舌打ちをした。
「やるじゃねえか。噂通りの腕前ってわけか」
七右衛門は無言で、懐から取り出した手裏剣を投擲した。それは真っ直ぐに寺蔵の胸元へ向かう。寺蔵はそれを紙一重で避け、刀を逆手に構え直した。彼の額には、じっとりとした汗が滲んでいる。七右衛門の技量は、彼が想像していた以上だった。
「どうした? その程度か、友殺しさんよ」
七右衛門は挑発するように呟いた。彼の目は、寺蔵の動きのすべてを見切っているかのようだった。
寺蔵の脳裏に、かつての戦いの記憶がフラッシュバックする。仲間を斬り捨ててきた修羅の道。その先に、今の自分がいる。しかし、この男は、自分をはるかに凌駕する存在なのかもしれない。
寺蔵は一瞬、ためらった。その一瞬の隙を、七右衛門は見逃さなかった。七右衛門の体が、まるで影のように寺蔵の懐に飛び込んだ。同時に、彼の右手が寺蔵の喉元を狙う。
「もらったぜ、友殺しさんよ、大会の恨み晴らさせてもらうぜ·········」
七右右衛門の声が、寺蔵の耳元で冷たく響いた。
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