第25話 怨念の吸血桜
草木の妖怪やモンスター、あるいは種族についての伝説は世界各地に存在する。
ゲームやエンタメに出てくるもので一番有名なのはマンドラゴラやアルラウネといったもの。マニアックなもので言えばマダガスカル・デビルツリーやヤ=テ=ベオ、オテサーネクや
RPGゲーム黎明期の代表としてよく名の上がるダンジョン&ドラゴンズなどでは樹人としてトレントなる種族や、指輪物語ではエントという木に似た巨人が登場する。
さて『
戦場に生える樹が多くの血と怨念を根から吸い上げた結果妖怪に成り果てたもので、普通は見分けがつかないが生きた生物が接近すると鋭い枝や根を突き刺しその生き血を啜るという。
近代創作に登場したもので実際の民話や伝承には登場しないはずだが、この世界では古くより戦にまつわる伝承として語り継がれる妖魔という設定だそうだ。
なんでそんなに設定について詳細に覚えているかと言えば、そういうのが好きなんだよね俺。
まあ少なからず和風ファンタジーに手を出す人は、世界観背景に何が元ネタになっているかは興味があるのだと思う。
話を戻して『
この世界ではボスとして登場して、木のくせに多彩かつ苛烈な攻撃を仕掛けてくる難敵だった。
「ウォァァァアアアアアアア!!」
耳障りな今際の際のような叫び声を上げた『
果実は急速に膨らみそして熟れると、次々に妖魔軍団へ落下する。
妖魔達がそれを食べるや否や霊力が倍増。目を血走らせてこちらへと突撃してきた。
両サイドの石垣の上にいた弓師や銃士、陰陽師達が遠距離攻撃を開始するも、『
「なんだあの木は。実を食わせたかと思ったら妖魔達が狂ったように突っ込んできやがった」
「あれは『
「ふーんやっぱり物知りだなシオンは。ま、だからっつってウチらがやることは変わんねえ……
カツミは目の色が完全に反転して、今にも爆発しそうな霊力を滾らせていた。
「うむ! カツミ、一番槍を任せたぞ!」
「うるああああああああああ!」
ドヒュン、と。
カツミが踏み込んだかと思えば、狂ったように突撃してくる妖魔のど真ん中に突っ込んでいく。
「くらいやがれええええ!」
彼女の愛槍『
「お前らもあのセーメーだかなんだかの息かかってんだろ? な? そうだろう! ぶっ殺してやらああああ!」
カツミの大立ち回りが始まる。あんまりにも大暴れするので後続が突っ込んでいいかどうか悩むほどだ。
「姉ちゃん張り切りすぎだって!」
「ホムラァ! 1匹も逃すなよッ!」
『あの二人に続け! 第一陣突撃じゃ!』
シラタマの拡声妖術による号令によって、待ってましたかとばかりに冥狩人達の第一陣が突っ込んでいく。段々と皆慣れてきたのか、第一陣の皆はカツミとホムラの攻撃範囲を上手に避けて妖魔達と戦っていた。
「う、うわぁ。お姉ちゃん達すごいことになってる」
側にいるリンネが思わずそうこぼしていた。同感だ。いつも最終戦までの余力を蓄えるように戦うはずなのに、今回は最初から全力で暴れ回っているように見える。
その甲斐あってか、妖魔達の前線が驚くほど早く後退している。ホムラとカツミだけじゃない。他の冥狩人達も今回は気合が入っているようだ。
「ほほ。ホムラもカツミも凄まじいものじゃが……相手も一筋縄ではいかぬか」
横で床几に座るシラタマがパチン、と扇子を閉じる。視線の先は暴れているホムラとカツミではなく、その後ろだ。
何やら『
「ここでリンネとヨシミツ、ゲンゴロウを投入しようかと思うんじゃがの。どう思うシオン?」
「いい案です。けれど、もう一手間加えたいですね」
「一手間とな?」
「ええ――出てこい二
札を掴んで霊力を流し込み、そして宙に放り出す。
ズン、と落ちてきたのは陸亀ほどの大きさの三匹の甲虫。西洋盾のようなシルエットのそれは、日常生活でも見かける
「カメムシ……さん?」
リンネが不思議そうにそう言うと、【
「
「俺も同じこと考えたぜヨシミツよ。こいつァ俺もガキの時にやられた事があるんだが、式神となると――」
「まあ見てなよ」
全力でカマしてこい。そう念じてみると「任せろ」とばかりに腹をテーンと叩く【
「あぁん? なんだありゃ? シオンの式神か?」
「おーい最前線のみんな! ちょっと下がってくれ!」
「何言ってんだ! 今いいところだろ! もうすぐあのバケモノの木までいけるんだゾ!?」
俺の式神には気づきはするものの、もっとやらせろと暴れ回る前線の皆様。仕方ないと咳払いをしてもう一度説得を試みる。
「その式神はカメムシの式神だ。
カメムシ、と聞いてビクリと震えて止まるホムラとカツミ。他の冥狩人も気づいたらしい。
「カメムシ……お前まさか!」
「ちょ! ふっざけんな!」
「君たちの考えている通りのことが起きる。だから早く戻ってきてくれ!」
「た、退避だ! 全員下がれ!」
ホムラの声に半ば悲鳴をあげて下がっていく冥狩人達。後退に後退を重ねていた妖魔達がその素早い撤退に動揺していた。
その間にもぷーんとマイペースに飛んでいく【
やがて『
シュゴオオオオオオオオオ!!!
上空の【
――ギャアアアアア!
――ウガアアアアア!
――ギィィィイイイ!
阿鼻叫喚の地獄絵図とはこの事を言うのだろうか。【
それだけにとどまらず、中にはそのまま血を吐き出すもの、痺れて動けなるもの、明らかに行動がおかしくなるもの、石化するものや味方同士で殴り合うものと様々な症状が引き起こされていた。
流石の『
「う、うわあ……シオンさん……」
「ううむ……流石にコレは人としてどうなんじゃ?」
ジッと見つめてくるリンネとシラタマ。言いたいことはわかるけど……残念これって戦争なのよね。
「シオン様あれは……」
ずっと後ろに控えていたレンマが耐えかねたように聞いてきた。俺は何も言わずに百識の窓を彼女に見せると、リンネ達も興味津々と言った様子で覗き込んできた。
▼二
複数展開:可(最大三体まで)
この【
これを覚えるくらいの段位だと敵1〜2体くらいを巻き込むのがせいぜいだが、終盤の段位四〇あたりを超えてくると遭遇した敵全てを状態異常にする。俺の段位ともなれば百鬼夜行の密集した妖魔達に甚大な被害を与えることも可能だ。
ただし味方に直撃するとフレンドリーファイアがない分何もないが、戦闘中に思いっきり罵倒されるというオマケがついている。この世界だと多分味方も巻き込んでしまうので、こうして事前に退避を促さなければならない。
「くおらああ! シオン!」
ふと見るとホムラとカツミが一直線にこちらに向かってきた。二人とも妖魔の返り血で染まりすごい顔になっている。
「おまっ! この鬼畜野郎! 匂いついたらどうすんだ!」
「乙女の目の前で! 屁こき虫使うナ!」
その乙女が返り血でお召し物真っ赤なんですがね。どこから突っ込んだら良いのやら。
「まあまあ落ち着いて。見てよほら、後続が崩れてるよ」
「いや崩れてるけどよ! 突っ込めねえじゃねえか! 臭くてよ!」
「安心してくれ。すぐそれも吹き飛ばす」
パチンと指を鳴らすと、上空で待機していた【
「蛍ちゃんですか。でもいつもより少ない数で吹き飛ばせるんですか?」
「百識の窓にも書いてある通り、あの毒霧には引火性がある。つまりあそこに火を投げ入れれば――」
爆ぜろ、と念じた瞬間。
【
「ぴゃ!」
「んなあああ!?」
ここまで来る熱波と衝撃に、リンネとシラタマがステーンと後ろに転んでいる。敵の方を見てみると、『
その背後の妖魔達はというと、爆発に巻き込まれて木っ端微塵。辛うじて爆発範囲を避けた妖魔達も火炎に飲み込まれて悶えていた。
「ウォォオオオオオオオンンンンン!!」
一瞬にして業火に巻き込まれた事に腹を立てたのか、『
「むっ!
「おいおい何でえありゃあ。樹が歩き始めたぞ」
バキバキバキと広場に轟く音と共に、『
さらに咆哮を上げたかと思えば、妖樹がこちらへと歩き始めた。
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