第17話 お館様のお館様がご立派様
おちんちん見られた。死にたい。
ちゃんと隠していたのに、立ち上がった瞬間腰の手拭いがはだけた。側から見れば完全に見せつけているように見える。
このまま静かに座れば事は済むかなと思いきや、クロミツとヒビキがキャーなんて叫ぶものだから皆の注目が一斉に集まった。
「ちょっと何してるんですかあああこんなところでえええ!」
顔を真っ赤にしてごくごく真っ当な反応をしたのはリンネだけ。
「おー、大胆だなアイツ……見た目に反してエグい
ヒュウと口笛を吹くのはホムラ。
「け、けっこうあるナ……」
とポソっと言ってそのまま恥ずかしそうに口までお湯に浸かるのはカツミ。顔を真っ赤にしてぶくぶく泡を立てている。
「はっはっはやるなあ兄ちゃん。オジサンもいっちょ……ダメだギンが怖え。酒飲もう」
一人で勝手にビビっているのはゲンゴロウだった。そうか風魔衆の女の子に手を出さないと思ったら嫁さんが怖いのか。
「…………………………」
未だ温泉にガチ集中しているのはヨシミツ。多分この騒ぎに気づいていない。
「あれぇシオン様〜何をお立ちにおばぶっ!」
「お館様のお館様がばばばば」
驚いて溺れそうになっているのは浮かんでいたトヨとコマだった。急に顔を上げたものだからひっくり返っていた。アホの子だ……。
よく見れば他の
「しっしししシオン様ままこれをどどどどっどうすれば良いのですか。え、いやそのそういうのは知識はありますががが皆の前ではそのののの」
手で顔を覆うレンマがテンパりまくり変なことを口走っている。ただ君、覆った手の間からガッツリ見てるね。
『うくくっ……』
脳内に天照の押し殺した笑い声が聞こえてくる。こいつ……良い性格してやがるな……。
収拾がつかなくなってきたのでクロミツたちにレンマを任せ退散する。温泉はあとで浸かるとしよう。天照に聞くこともあるし。
逃げるようにして脱衣所に向かい、急いで体を拭いて服を着る。その途中、
「頭領の鼻血が止まらないだよ」
「コマちゃん〜岩場の影でクロミツさんが痙攣していますけど〜?」
「……ほっといてあげてトヨちゃん。僕にはどうすることもできない」
だの
「リンネなに顔赤くしてんだ。風呂なんだから男の
「そう言うホムラさんもちょっと顔赤くなってません?」
「ぶくぶくぶく……お腹まで届きそう……」
「カツミちゃん茹で上がりそうなくらい顔真っ赤だけど大丈夫? お酒飲む?」
「むぅ騒がしいな…………こ、この有様は……まさか敵襲か?」
だの
「お館様のお館様がご立派様」
「上の口も下の口も練習必須やもしれない」
「すごく……大きいです……」
だの聞こえてくる。最後の風魔衆達は何を言っているんだ。恥ずかしいだろ!
「お兄さんお兄さん」
暖簾をくぐるとデコられまくった番頭席に座るヒスイがニヤニヤしながら話しかけてきた。温泉は彼女の一部みたいなものだから、何があったのか全部理解しているんだろう。
「見かけによらず……いや見かけ通りエグいことすんのな」
「不可抗力だよ!」
「まあ龍的には? 子宝は最高の徳積みだから
「何の話してるんだ」
「ナニの話だよイヒヒ。まあほら、上も下も火照ってるなら休憩室行きなよ。風魔ちゃん達がすげーの作ってくれたからさ」
色々ツッコミどころしかないギャル龍。ただ彼女の言う通り顔の火照りが止まらない。ここは黙って彼女の厚意に甘えておこう。
ヒスイの言う通り、見事な景観の休憩室だった。畳が敷かれた広い部屋で、開放された障子戸の奥には露天風呂と同じく豪華な日本庭園がある。
部屋には心地よい風が吹いている。ヒスイの力なのだろうか、『玉藻の湯』と書かれた大きな団扇が天井近くに浮いていてバサバサと仰いでいた。
「はぁ……もう最悪だ」
思っていた混浴どころかレンマに
畳に寝転んで天井を仰ぐ。ぼーっとしていると不意に浮かんでくるのはレンマのこと。思春期の高校生のように彼女のあられのない姿が浮かんでは消えていく。
生前は青春らしい青春もしなかったし、異性との会話もほとんどなかった。当然年齢イコール彼女歴なし。
そんな中で異世界転生したのち、一番最初に出会ったのがレンマだ。特別な感情を抱かないはずもないし、最初の新月の夜を超えてその想いはもっと強くなった。
加えてあの美貌とプロポーションだ。魅かれないわけがない。膝枕は毎日のようにしてもらっているけれど――やはりというかなんというか、もし一線を越えてしまったならば彼女に溺れてしまいそうだ。
「聞いたぞシオン。なかなか大胆じゃな?」
ペタペタと近づいてくる音がする。声からしてシラタマだろうか。さてはからかいに来たな?
「
「言わんでも何が起きたか知っておる。まあおヌシが焦るのもわからんでもない。忍びの女とはそういうもの。嫌でも男がそそる身体をしているからのう」
「いや――ああ、はい。そうです……」
「でもまあレンマの方を見るに、忍びの女も人の子だったと見える。好いた男を前にして乙女のようになるとは――横に座ってよいか?」
「どうぞ……わっぷ」
起き上がりながらそう答えた瞬間モフんと顔に尻尾があたる。やけに近いところに座るなと思ったが横を見てギョッとした。
そこには知らない美女が座っていた。真っ白な長髪に上へ伸びた狐耳。その顔は思わず見惚れてしまうほどの美人だ。
着ている服はシラタマのそれだがサイズアップしていて、胸もホムラやヒビキに匹敵するほど大きい。そして極め付けは尻尾だ。もっふもふの九本の尾が俺の体にまとわりついてくる。
シラタマの母です、いつもお世話になっておりますと言われたら信じてしまいそうだが――まさか。
「驚いたじゃろ。ワシじゃ。シラタマじゃ」
にっひっひっひと笑うシラタマ大人ヴァージョン。知らなければひっくり返るほど驚いただろうけれども、実はゲームでちょいちょい体を変えるのは知っていた。
彼女は物語の中盤から後半にかけて本気の本気を出す時や、いざという時に彼女はこの形態をとる。
ただこの体は疲れるらしく、普段は省エネバージョンの幼女姿になっている……と設定にはあった。
今は温泉で霊力がみなぎっているので余分な分を発散させるためにこの姿になっているのだろう。
「わ、わぁびっくりしたーすごい美人ー」
「んむ? 何じゃその反応は。もうちと驚くかと思うたが」
「……なっ何となくそうだと思っていたんですよ。千年も生きてる貴方が幼女のままじゃないってね」
既に俺の事は紫苑であってシオンではない事を知っているわけだが、この物語の結末まで知っているとは言っていない。ボロが出ないように誤魔化しておいた。
「ほぉ〜流石じゃな。その身体に入る前のオヌシは、推理に長けていたのかのう?」
「そういうわけじゃないんですけどね」
「別に言いたくなければよい。人には1つや2つ、3つや4つや5つや6つは隠し事はある」
「多すぎじゃないですかね」
「ぬっふっふ。オヌシも宮中に来るとよいぞ。隠し事だらけの
「遠慮します……わぷ」
わさささ〜と尻尾が絡みついてきた。幼女バージョンとは違って長い上に彼女の意のままに動くようでさっきからくすぐったい。
「
肩をガッと掴まれるかと思いきや、顎につーっと指を這わされて顔を近づけられる。
ヤバい。気がおかしくなるくらいの美人だ。さすが、俺の世界だと傾国の美女と謳われるだけある。
そのまま何をされるのかと思いきや、ごくごく自然に膝枕に促された。
「ふぇぇ……」
変な声が出た。幼女バージョンの時もそうになったが、大人バージョンの場合は身も心も蕩けそうな心地良さだ。
「ご褒美じゃ。海のむこうで王の心を溶かしたふとももぞ。堪能するがよい」
「ふぁぁ……ご、ご褒美って……」
「オヌシのお陰で温泉街が出来た。ワシは今とても幸せじゃ。奈落の中に拠点を作るという点でも大きな前進じゃ」
「……………………
「うむ? もしかして晴明の事か?」
成人バージョンのお披露目よりもこっちの方が驚いた。まさかシラタマから切り出してくるとは。
「既に察知しておる。奴の鼻がひん曲がりそうな霊力は何年経っても忘れられぬからな」
「怒らないんですね。トヨの時は神殿を壊しかねない勢いだったのに」
「何百年ぶりじゃったからのう……じゃが、あの時点で出現は予測していた。そも彼奴が老衰で死んだと言うのも信じてはおらなかった。必ずどこかで対立するとは思っておったが……まさか奈落とはな」
一瞬だけシラタマは何かを思い出して怒りのあまり目を獣の目にしたが、すぐにフッと微笑んで涼しげな顔になった。
報告するならこのタイミングだろうなと思い、第三階層で起きた事をシラタマに伝えてみた。
シラタマは黙って聞いていたが、最後には「ヤツらしい」とため息をついていた。
「俺の予想ですが……奴はこの奈落に深くかかわっていると思います。トヨの一件もね」
「同意見じゃな。ワシの見立てだと
そこに本来現れない筈の
ここからはあくまで俺の独自の考え、仮定の話だけど――天照の「段階的に」「然るべき時に」というタイミングがこの安倍晴明の討伐が条件だとするなら、俺はアイツを全力で追う必要がある。それが生き残るための条件というのなら尚更だ。
頭を切り替える。
「
「ワシもそう考えたがな、無理じゃった」
「無理?」
「黙っておったのだが……奴は獄中で死んだ。自死じゃと」
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