第26話 もうリンフォン関係なくね?
……………
黒幕と目された男による演説はこの揺れ動く館によってその説得力を増し、法水の違法建築と言うべき推理牙城を揺るがし始め、人々の注目を集める。
法水はこの趨勢に対していつも通りの
「なるほど、それが君の語る事件の動機か。
だが、
「無論、君が導き出した魔導書。
法水はその言葉にすかさず隙を見つけてつつきだす。
「リンフォンはどうしたんだい、君」
「アレは副産物に過ぎない。恐らくは『儀式』に近しい場所にいた
「では主産物は別のモノ。まあ恐らくはウィチグス呪法典のことだろう。そしてそれを利用し君はこの事件を『制御』した。パロディによってね」
その事件の核心を突く言葉に、厳しい表情をしていた
「パロディ……。フッ……。どうやら私はキミを侮っていたようだな。キミも知ってるのだな『黒死館殺人事件』を」
「ああ、『思い出した』というべきだがね。この私の名、支倉君、熊城君……。全員最初から事件に取り込まれていたということ」
「「「なっ、なんだってー!」」」
全員に衝撃走る。
支倉は口をついて質問を投げかける。
「私や、熊城さん、法水まで被疑者の人たちと同じように事件に取り込まれていたっていう事!? わたしたちの名前も被疑者とされた人たちみたいに、『変わった後』だというの?」
「その通り。我々はそれぞれ役割として与えられた名によってこの物語を進める演者でしかない。解釈者はこの私、筋書きを書く脚本家だ。君たちは物語という構造物の中でその自在性を発揮している様な動きを私の思惑通り果たしてくれた。
古今東西のミステリー同様、この事件もまた犯人、黒幕であるこの私の制御下にあり、探偵というのはその私が創り上げた筋を辿り、そして犯人つまりはこの私の動揺を狙ってその筋を一つ一つ大げさに語るだけの『役割』に過ぎない。
そして今、全ての筋道は交わった。もうパロディも終焉だ。より強い主導権を握るべく私はここでまた一つ演説を打たせてもらおうか、キミたちミステリー気取りの登場人物たちを終焉させる『真実の回答』それの最後にはふさわしいものだ」
彼はそう言うとまたしても険しい表情を見せ、髪を後ろへ撫でつける。オールバックとなった金の髪、彼の姿はどこかカリスマ性があり、見ているだけで高揚感を覚えさせる不思議な魅力があった。
彼は毅然として語る。
「この建物、
私が理事会、すなわち学院運営の自治権を要求したとき、父讃栄は何もしなかった!
そしてその理事一党は学院自治をかたり、教授陣に予算の折半をしかけたのである!
その結果は諸君らが知ってるとおり理事会の腐敗に終わった!
それはいい!
しかしその結果教授陣は増長し!
理事会の内部は腐敗し!
リンフォンのような危険物品を生み!
実証主義をかたる
これが事件を生んだ歴史である!
ここに至って私は学院が今後、絶対に腐敗を繰り返さないようにすべきだと確信したのである!
それが旧館を学院に落とす作戦の真の目的である!
これによって理事会の腐敗の源である新館に居続ける人々を粛清する!
諸君、自らの道を拓くため、学院のための政治を手に入れるために、あと一息、諸君らの力を私に貸していただきたい!
そして私は……父祖、パスツールの元に召されるであろう!」
その演説と共に彼の背後に移る開いた玄関の先にあった景色が虚空から突如として形と色彩ある景色へと変貌する。それは現実世界、この館とは別にある私立パスツール女学院『新館』を真上、上空から見た景色であった。
熊城は慄くように言う。
「落とすって、マジかよ!?」
決意に満ちた語気で安綱は言う。
「これが『無貌の神』の力を得た我が権能。今までの全ては我が筋書き、それによってこの結末が導き出されたのだ。法水くんをはじめとした演者たちが導いた結果である。つまりは探偵諸君らの頑張り過ぎだ!」
意趣返しと言わんばかりの宣言。法水は立ち尽くして黙する。
その時、支倉がその安綱へと飛び掛かっていく。
「館を落とすのをやめなさい! さもないと!」
彼女はそう叫びながら安綱の身体を持ち上げようと掴む。
しかし、開け放たれた玄関に巨大な赤い影が映る。
巨大なる手によって安綱は連れ去られ、声だけが響き渡る。
「赤い彗星の名を侮ってもらっては困る。所詮は生物の力。機械には勝てんさ」
玄関の先にある新館の建物は刻一刻と迫る。奇妙なことに重力に反したこの館は揺らぎ続け、気絶した被疑者たちと刑事たち、そして支倉の心すらも揺るがしている。
彼女は初めて自らの力が及ばぬ事態に陥り、すがるような思いで法水の方を見た。さしもの法水も、このように『推理』が失われ、『結果』が残る場面にはたじろいでしまうだろうか。
だとすれば法水の態度そして推理は全て事態を悪化させていたということだろうか。
既に犯人も黒幕も暴かれ、『真実』だけがここに示されている。これ以上の推理はやりようがない。
だが、揺らぐ地に毅然と直立する法水は不敵な笑みを浮かべていた。
「『真実の回答』……? くくくく……」
次回、法水の『推理』が炸裂する……!
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