最終章 逆襲とガンダムによりて城は崩れ去る

第25話 逆襲のガンダム

     ……………


 異常な物理条件で存在していると思しき玄関内部の空気を、弩矢は切り裂いて進む。それは赤い彗星の如く、光る『尾』を持っていた。

 そこにいる全員の意識の外より飛来したそれはhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%AC https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%86の首の後ろをかすめ、正確に彼女の髪を捉える。三つ編みの黒髪を射抜いた弩矢はそのまま柱へ飛び、彼女を柱に吊るさんとする。


「危ない!」


『ビャッガシィッ』


 支倉が異常な脚力に物を言わせ床を蹴り壊すほどの跳躍を行い飛行する弩矢に追いついた挙句、浮き上がったhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%AC https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%86を抱え上げて着地するという凡そ人間業ではない動きを披露した。

 イァクタ・アレァ・エスト賽は投げられた博士や熊城と言った面々は彼女が残像を生むほどの雷光の如き動きに呆気にとられ信じられぬものを見た様子であったが、法水は一人、別の懸念のために専一にある場所を凝視していた。

 動揺した様子のhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%AC https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%86を床に下ろし、支倉は周囲の安全を確認する中でその法水を見て言う。


「麟音、何を……。まさか、さっき言っていた黒幕に繋がる証拠?」


「さぁどうだろうか。君、これをどう思う? 赤い彗星より放たれし矢、長さからして弩矢クロスボウ・ボルトで間違いない。そしてこの『紋章』だ」


 彼女が指さす開かれた玄関扉には焼け焦げた痕がでかでかとマークが示されている。それは両端に上向きに伸びる角のようなデザインがある円に下向きの矢が突き刺さっている様なマークである。

 だが、そのマークの形状は何か違和感を覚えさせるものがあった。見たものすべてが各々、一抹の異物感を覚えているのだ。

 そんな中、熊城が感嘆の声を上げる。


「こ、これは……!? まさか……。いやそれよりも、何か、違和感が……?」


「ジオン公国。このマークには派生形が多数存在するためか、目を離すたびに見えるマークの形状が若干変化しているねぇ。

 ともあれ、これで黒幕のお膳立てはすんだわけだ。物語には伏線が要るという考えがある。そして物語のそうした演出はより多くの観客オーディエンスがために明確にあるべきとの考えも。恐らく黒幕はそうした立場をとる人物なのだろう。

 わざわざこんな大仰な事をしなくともこれが宇宙世紀的犯罪ガンダミッシュ・クライムであることを私は言ってあげているというのにね。

 一度、部隊から退場したこの事件で最もスポットライトが当たるべきだった人物にして、宇宙世紀的要素ガンダム・エッセンスを持つ唯一の人物。タイトルに関わること多数。この物語の序盤における外連味を一身に背負っていた『魅宗櫓城ミゾロギ 白摩RX78-2ガンダム』。彼こそが黒幕、『赤い彗星』だということだよ」


「なに!? 魅宗櫓城ミゾロギ 白摩RX78-2ガンダム!? しかし、彼は」


魅宗櫓城讃詠みぞろぎ さんえい以外で初めての『犠牲者』。それがおかしな話だ。何故、この異常な事件が始まって以来この二人だけが死んだ? 同じ苗字を持つものだから?

 もっと考察の発展性があるのはこの二人のうち片方が黒幕であるという点だ。

 そうすればさっき言ったように『この事件で最もスポットライトが当たるべきだった人物にして、宇宙世紀的要素ガンダム・エッセンスを持つ唯一の人物』という要素とこの事件の『パロディ性』との合致により『魅宗櫓城ミゾロギ 白摩RX78-2ガンダム』のキャラクター性がガンダムではなく『シャア・アズナブル』もとい『キャスバル・レム・ダイクン』であることを導き出し、この事件、『逆襲』の黒幕足り得るというわけだ。シャア・アズナブルは姿や名前を偽ることや姿を消す事にキャラクター的説得力がある。

 犯人は自らをシャアになぞらえ、赤い彗星として暗躍したのだよ。この逆襲劇を完遂するために」


 イァクタ・アレァ・エスト賽は投げられた博士はその人を嘲るような、しかし筋の通った推理に動揺しつつも諫めるように話す。


「しかし……。この事件はアニメじゃない! そのような推理をしたとて、犯人から逃れることは……」


「彼は今、ここに現れる。この物語はそうでなくては盛り上がりもクライマックスも逸してしまう。ここで彼がどんでん返しをしなくては、単なるスクラップブック。名作の切り貼りをしているだけだと批判されてしまうよ。私はそのスクラップブックこそが全ての創作の本質であると思っているが世間と『彼』はそうでないようだからねぇ」


 彼女の言葉が終わると同時に、館は大きく揺れる。


『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』


 熊城刑事は気絶した状態の希死念寺♤デスウィッシュでら スペードをはじめとした少女たちをしっかりとした机などで守るように動かしながら言う。


「地震だ! 倒れているものの頭を守れ!」


 部下の刑事もその指示に従い動く。

 そして、そのせわしない動きの中で廊下の方から一人の男が走ってきた。

 その男はスーツを身に纏い、柔らかな金髪を持ったサングラスで瞳を隠しているが見覚えのある顔。


「解決するな! この席を借りたい!」


 それは魅宗櫓城ミゾロギ白摩RX78-2ガンダムの声であった。


「被疑者の方と、この私を見ている警察の方には、突然の無礼を許して頂きたい」


 彼はサングラスを取り、その青い瞳を晒す。


「私は私立パスツール女学院の魅宗櫓城ミゾロギ白摩RX78-2ガンダムであります。話の前に、もう一つ知っておいてもらいたい事があります。私はかつて安綱紗赤アヅナ・シャアという名で呼ばれた事もある男だ。

 私はこの場を借りて、パスツールの遺志を継ぐ者として語りたい。もちろん、パスツール女学院理事のシャアとしてではなく、パスツール氏の子孫としてである。

 パスツールの遺志は、魅宗櫓城家のような欲望に根差したものではない。パスツールがパスツール女学院を作ったのでは無い。

 現在、イァクタ・アレァ・エスト賽は投げられた博士をはじめとした教授陣が学院の予算を我が物にしている事実は、魅宗櫓城家のやり方より悪質であると気付く。

 人が学問といを始めたのは、知が人間の愚で萎むのを避ける為だった。そして、学問といを始めた人類が、その知識圏を拡大した事によって、人類そのものの力を身に付けたと誤解をして、魅宗櫓城家のような勢力をのさばらせてしまった歴史を持つ。それは不幸だ。もうその歴史を繰り返してはならない。

 学問といを続けることによって、人間はその能力を広げる事が出来ると、何故信じられないのか?

 我々は学院を人の手で汚すなと言っている。イァクタ・アレァ・エスト賽は投げられた博士は知識欲に魂を引かれた人々の集まりで、学院を食い潰そうとしているのだ。

 博士たちは長い間、この学院図書館と言う揺り籠の中で戯れてきた。しかし!

 時は既に彼らをこの場所から巣立たせる時が来たのだ!

 その後に至って何故教授同士が戦い、学院を汚染しなければならないのだ!

 学院図書館を学生の揺り籠の中に戻し、教授陣は学問といで自立しなければ、学院は名門では無くなるのだ!

 この玄関さえ汚損に飲み込まれようとしている!

 それほどに学院予算は疲れ切っている!

 今、誰もがこの美しい学院を残したいと考えている。

 ならば自分の欲求を果たす為だけに、学院図書館に寄生虫のようにへばりついていて、良い訳がない。

 現に教授陣は、このような時にも戦闘を仕掛けてくる。見るが良い!」


 その時、館が大きく揺れる。玄関扉が揺れの中自然と開く先に見えるのは奇妙な光り輝く文字列と紋章。何らかの呪文のような声。

 『外部』から何らかの儀式が為されているというのか?

 彼の演説が真実であるというのか?

 動揺の拡がる中で、安綱紗赤を名乗る彼は熱を帯びた演説を続ける。


「この暴虐な行為を。彼らはかつての教師たちから膨れ上がり、逆らう者は全てを悪と称しているが、それこそ悪であり、学校を衰退させていると言い切れる!

 事件を御覧の方々はお分かりになる筈だ!

 これが教授陣のやり方なのです!

 私が事件を武力で制圧したのも悪いのです。しかし教授陣はこの事件に自分達の味方となる博士がいるにも関わらず破壊しようとしている!」

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