第23話 戦いは突然に

     ……………


 動き出す無数の刃。

 法水へと無慈悲な攻撃が降りかかる。

 その一つがジョエル・ジョーゼット・ジョット・ジョック・ジョーズ・ジョン・ジョー・ジョネス・ジョヴィ・びっくりドンキー・ジョルジュ・ジョイ・ジョーンズ・ジョーラ・ジョゼ・ジョマ・ジョッシュ・ジョーメイン・ジョッテン・ジョッシュア・ジョム・ジョロウ・ジョブ・ジョメイ・ジョセフ・ジョロン・ジョブズ・ジョロン・ジョーヘンの帽子に突き立てられる!


『ガキィイイン!』


「危ない危ない……。意外とやれるね、白刃取り」


 支倉は額に汗をかきながらもその両手の指の間に全てのナイフを挟みこみ、法水への攻撃を全て処理した。

 ジョエル・ジョーゼット・ジョット・ジョック・ジョーズ・ジョン・ジョー・ジョネス・ジョヴィ・びっくりドンキー・ジョルジュ・ジョイ・ジョーンズ・ジョーラ・ジョゼ・ジョマ・ジョッシュ・ジョーメイン・ジョッテン・ジョッシュア・ジョム・ジョロウ・ジョブ・ジョメイ・ジョセフ・ジョロン・ジョブズ・ジョロン・ジョーヘンの帽子を傷つけたナイフすらもその常人の三倍以上の身体能力によって彼女の手の内に納められたのだ。


「や、野郎……。なんて速さだ……。超スピードなんてちゃちなもんじゃあねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……!」


 二つに割かれた帽子を目深にかぶり、額のかすり傷から血を流しながらジョエル・ジョーゼット・ジョット・ジョック・ジョーズ・ジョン・ジョー・ジョネス・ジョヴィ・ドン引き・ジョルジュ・ジョイ・ジョーンズ・ジョーラ・ジョゼ・ジョマ・ジョッシュ・ジョーメイン・ジョッテン・ジョッシュア・ジョム・ジョロウ・ジョブ・ジョメイ・ジョセフ・ジョロン・ジョブズ・ジョロン・ジョーヘンはそう語った。

 法水は生存の感想を言う間もなく、すぐにナイフを投げた犯人が居るはずの階段の影へと走り出したがそこに犯人の姿はない。


「……。フム。まあいいさ。どうせすぐ会える。

 それよりも、支倉クン。キミのおかげで我々はいつもの如く助かったようだ。礼を言うよ、ありがとう」

 

「え? あ、いや、いいよ礼なんて。それより予言によると次は……」


 支倉は後ろを振り返ってhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%AC https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%86を見る。

 当の彼女は他の者同様に支倉を信じられないものを見る様子で見ていた。

 法水はその動揺した様子の彼女に訊く。


「さあて、そろそろ物語も大詰めに近づいている。ここいらでドカンとどんでん返しが欲しいものだ。クリフハンガーもそろそろ飽きてくる頃合いだからね。この物語の犯人がマクガフィンになったりしないように私も犯人の尾を掴まなくてはならない。

 だからそのために、この物語の鍵を握るキミの話を本腰を入れて聞かなくてはならないのだよ」


「なに!? https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%AC https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%86が物語の鍵を!? どういうことだ?」


 支倉の半神的身体能力、その現実を目の当たりにした衝撃に当てられる他の者たちと異なり熊城刑事は法水の発言に驚愕していた。


「そのためには彼女の話を聞く必要があるんだってば。まったく、現実に対する衝撃リアリティ・ショックのせいで放心しているよ。おーい、 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%AC https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%86クン、おーい。こんなに長ったらしいヨミガナなんだから一回で応じておくれよ。おーい、 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%AC https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%86クン」


 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%AC https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%86はハッとした様子で我に返ると、首を振ったのち、返答する。


「な、なんですか……。物語の鍵? 私が? 私は何も知りません。今まで貴女の推理に苦言を呈して来たというのに現実は全く逆の結果を示してきたでしょう?

 それとも推理に対する批判者の間違いをここに来て再びつるし上げたくなったのでしょうか」


「批判は当然さ。肯定意見だらけじゃあ世界は面白くない。私のような推理が為されるということには、キミのように筋の通った批判はあって当然なんだよ。それが無くては私の論は完成していかない。それに、何も石を投げているわけじゃあないんだからネガティブな意見はいくらだってあっていい。それくらいの暴力は寛容の範囲内だ。

 それはさておき、正にキミが物語の鍵を握っているのはその『逆の結果を示してきたこと』に由来するのだよ。

 キミは事あるごとに私の理論に批判してきたわけだが、どういうわけか数奇な事象はその直後、ちょうどキミの信念と思われる『現実的科学主義』の牙城が私の言葉によって揺らめいた時に発生している。

 思えばキミは他の者たちと比べ精神的な揺らぎが多かったように見える。あの不安定というべき背子秋風まんようしゅう まきのはち ふじわらのうまかい せんごひゃくさんじゅうごばんうたでさえ、不安定という安定性を持っていたとみることができるとすれば、キミは非常に薄弱な基盤の上に建つ不安定な積み木のような精神であるという偏見で以て私はキミを判別している」


「不安定。……。あの背子秋風まんようしゅう まきのはち ふじわらのうまかい せんごひゃくさんじゅうごばんうたや貴方の推理によれば自死しかけた希死念寺♤デスウィッシュでら スペードよりも?」


「ああその通り。キミはあまりにも明確な科学的根拠を求める過ぎることによってこの空間内において最も自己崩壊危機アイデンティティ・クライシスに陥りやすい状態となっている。突き詰めればキミのそれも強固な自己となろうが、キミは私の弁舌によってこの中でも特に惑いを強めているように思うがねえ。

 背子秋風まんようしゅう まきのはち ふじわらのうまかい せんごひゃくさんじゅうごばんうたクンは私に惑わされるどころか、あるヒントを与えてくれたほどだ。

 そしてそのヒントが今、私を救う一縷の希望としてこの脳細胞に刺激を与え続けている。

 また、希死念寺♤デスウィッシュでら スペードクンは私が彼女に巻き込まれ、その世界に同調しなくてはいけないほどに強烈な個性を放っていた。

 まあ、キミにとってしてみれば希死念寺♤デスウィッシュでら スペードクンは特に私が言うよりもキミの方がよくそのことを知っているのではないかい?

 そしてだからこそキミはやや薄弱な自己アイデンティティに悩みを抱えていた……。容易に想像できる、何せあの強烈なる個性を昔から浴びていれば自己アイデンティティを規定するほどに自己という問題に対して真摯に向き合っている者ほど、個性とは何かについて考えざるを得ない」


「ほとんどは貴女の想像です」


「ほとんどじゃあない、全てだよ。

 だが、この因果が崩壊し物理法則が踊りだす世界においてこの想像力こそが唯一の導となるのだ。何故ならばここの創造主はこの中の誰よりも想像力に乏しいからね」


「何? 何だと!」


 イァクタ・アレァ・エスト賽は投げられた博士がゆっくりと起き上がり、法水に向き直る。病み上がりの血走った目と、胸に走る少々の傷が痛々しい姿として映る。


「お前……。お前も見ただろうあの、無貌の神の姿を! ココはあのニャルラトホテプによる世界。そうでなくてはこのような……」


「先程から言っているでしょう、そうであれば、その無貌の神ニャルラトホテプは自らの宣言した予言すらも成就できないというのかね?

 この世界はパロディで構成されている。だが、そのパロディは表面を撫でるようなものだ。予言の登場以降その状態も甚だしくなってきている。先程に至っては丸まんまを登場させたというのに何の物語的必然性も持ち得ていない。いや、物語的必然性は私という探偵役によってようやっと引き出されていると言って良い。

 つまり、この空間の創造主はこの空間の支配権すらも私に奪われつつあるのだ。

 ニャルラトホテプや赤い彗星の着ぐるみを着ているだけの存在、それがこの事件の犯人さ。

 わたしはねぇ、この犯罪には美学が欠如しているのだと考える。この『美学』とは学術的な意味合いでの美学でもあり、意匠や意図といった意味での美学でもある。つまりは、こういった寓意的殺人事件アレゴリカル・マーダーケィスにおいては美術史や批評史についての知識が必要だと言っているのだ。

 特に今回はそれをする殺人的必然性マーダラス・ネセサリティがあるのだよ。この『魔術オカルト・アーツ』というべき事件において、寓意アレゴリーが力を持っているのだから。

 キミたちもわかっているだろう?

 今までに起きた事件は全て寓意アレゴリー伏線フォースシャドウによって構成されていた。それらは類感呪術的意義シンパセティック・マジカル・ミーンズがあるワケだ。つまりは象徴シムボルとの共通性。それが魔術的効能をもたらすという人類の根幹にある発想。ジェイムズ・フレイザー卿の提唱した呪術分類の片割れでも説明されている。

 そして今回の事件ケースが正に魔術オカルト・アーツによる事件だというのは皆サマのご想像通り、ウィチグス呪法典、死霊秘法ネクロノミコン、そしてこの事件の最も主要なる存在『リンフォン』。これらの存在が寓意アレゴリーに力を与え、この館に籠められた六芒星の魔術を発現し、数々の殺人的事件を起こした。

 だがその成果も不十分な形で結実している。

 建物ごと次元を超越し、論理を超越したこの大魔法が人を殺すという比較的簡単な事象を、いつもいつも一歩足らずに仕損じる。これは異常だ。

 そこから導かれる答えは一つ、この事件の犯人は取るに足らない存在であるということだよ。

 自らの力を結実させる能力の無い。弱い存在だ。まあ、殺人なんてことをしようと最初に思う輩なんてのは大抵その程度のとるに足らない存在だが。今度の犯人は輪をかけて酷い。自分の大いなる力を以てしてなお人を殺めることが敵わないのだからねぇ」


 多岐にわたる高説の着地点は犯人への限りない罵倒。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%AC https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%86によってもたらされた推理によって、法水は犯人の尻尾を遂に掴み、高らかに勝利宣言をしようというのか。

 それともイァクタ・アレァ・エスト賽は投げられた博士にやったように、犯人の心を揺さぶり、失敗ミスを誘う手口だろうか。

 あるいは、これすらも犯人の筋書き通りか。

 法水の手口をよく知る支倉や熊城は固唾をのんで行末を見守る。

 

 一抹の静寂。それは永久にも感じられる。

 それは達人同士の間合いの如く、法水と見えざる犯人の間での無数の攻防戦が繰り広げられているのだった。その証拠というべきか、全員に言い知れない緊張感が走り、この場の空気感は戦場のように張りつめている。


 その静寂を破るのはhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%AC https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%86だった。

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