第21話 神の”世界“
―――――
「ウオオオオオオオオオ!!」
二人の
世界法則たる物理現象、その速度は当然、支倉の動くスピードを凌駕。
間に合わない。
「JOJOクン! 紙か何かで……隔てるんだ、
法水の一声。それに呼応する
その行動の素早さはまるで止まった時の中を一人動いたかのように恐るべき勢いを持っていた。
「やれやれだぜ……。ひさしぶりに……。
実に10年ぶりに
0.5秒だけ
『時を止』」
「隔てるだけじゃそのうちくっつくぞ!
それを聞いた
「やれやれだぜ」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」
腕組をした
紙に包まれた
「フン……。これで一件落着ということか」
不可解に空中に浮遊していた
だが、法水は口早にそれを否定し始めた。
「いや、全然何も解決していないねぇ。第一、さっきのリンフォンによって生み出された鷹の象徴はこれ以外にもたくさんあるじゃないか。第二にそもそも
法水の意味深長な言葉に支倉は察したように言葉を紡ぐ。
「まさか……」
「支倉クン! 壊すんだ! キミならできる!」
法水のその言葉に、支倉は即座に動き出し、たった今
その
「
1対10。
当然、大きく重い方へと引力は働く。
法水はそれに一言。
「まさに、えげつない、ね」
「えい!!」
『ズキュウウウウウウウウンン!!』
支倉は10人もの人間が押し合いながら出現しかけている
その悍ましい光景はこの世のものでは当然なく、悪魔の儀式でもなければ神による奇跡でもない。人間の最もありふれ、あらゆる行為の根幹にある本質、常人の三倍以上の膂力によってもたらされる圧倒的な『暴力』である。
「あ、意外と行ける」
地図によって包み込まれるほどに小さくなった
法水はゆったりと拍手しながら語る。
「やればできるもんだねぇ。その調子で他のも頼むよ、もう何十人か出て来てるけど」
「え」
支倉が振り返ると既に周囲は無数の
「
こちらの世界の
「つっかえているんだよ」
そう言って法水が語り始める。
「どうやら彼らの出現には際限がないようだねえ。全方位にJOJOクンの
この異様な光景に際して、熊城たちは唖然としていたが、
「アナタの先程までの推論では
法水はそれに対して淀みなく即座に答える。
「それだよ、それが実に興味深い。なぜ彼らは同一人物……。いや、並行世界のJOJOクンだというのに消滅を起こさないのは何故か……。そこから考えられる理論は幾つかあるが、今のところ主要な理論は三つかな。一つずつ見ていこうか。
まず一つに彼らは現在進行形で消滅しているということだ」
「何を」
「皆も見ての通り、この平行世界のJOJOクンを出現させ、それらが交わることで消滅するというのは
交わる筈のない同一の個体が同時に世界に存在することによって起きる消滅現象。これは反物質と物質が交わることで発生するという対消滅現象になぞらえたものだとする見方もあるね。
とかく、こうしたJOJOに繋がる文脈の下にある現象なのだよこれは。
そして、そのSBRのD4Cによる消滅現象は重なり合う物体が、かの有名な体積ゼロの
少なくとも台詞を語る時間はある。ことJOJOにおいてはその時間経過も一秒未満である可能性が存在するが、それでも一秒未満の時間は存在する。人間の意識、つまりは無数のシナプスを駆け巡る電気信号が脳を一巡する程度の時間は存在するのだよ。
つまり、その時間を猶予としてしまうほどの加速度で平行世界のJOJOクンが出現していたとしたら?
いずれはこのように部屋にギチギチに詰まった状態を見せるわけだ」
「ギチギチに詰め込まれている彼らは見たところ動きも痙攣程度のようですが」
「一秒以下の速度で複数の人体がこの部屋ギチギチになるまで詰め込まれるような事が起きているということはその生産速度は我々の動体視力を遥かに凌駕する亜光速であることは考えるに難くない」
「亜光速!?
「そもそもここに十二分な空気が満たされているという物理条件が成立しているのかが疑わしいと私は見ているよ。
外の無限の虚空を見たのかい? あれに空気が満たされているだろうか? あのような宇宙の如き虚無に? それこそ一体どんな質量になろうか。その質量を支えるのは? そもそも、この場所の気圧条件は?
異常な状況だ、異常な数値が出ていてもおかしくない、いや寧ろ異常な数値が出ない事のほうが大問題だ。この場所は上空に一体何キロメートル大気層がある? 下方に何キロメートルある?
そんな空間を仮想したところで、この建物が何もない虚空に浮かんでいる事はちっともわかりやしない。ならば我々にできることは無数の『有り得ない』とされてきたわずかな可能性を一つ一つ拾い上げて検証することだけなのだよ。
ということで第二の理論を展開させてもらうが、これはもっと刺激的にこの物語の文脈を追いかけるものだ。」
「物語? 前から思っていましたが、アナタはこの現実の事象をどこか物語のように、それこそ物語論を適用して語っていますよ」
「その通りだよ。
シニカルな文学者にとって物語とは全て現実のパロディに過ぎないという見方がある。だが私は逆、つまりは現実こそが物語のパロディだという見方を提唱する。物語において議論の俎上に挙がるのは物語に対する解釈とその意義、それは現実に対する我々人類のスタンスそのものであり、科学とはつまり現実に対する解釈をより懐疑的に検証するための道具だ。そして私はありとあらゆる道具を操っていく。
そこにこだわりがあるとすれば一つ、全てが信頼に足ることのない道具であるということだけだ」
法水の鬼気迫るその宣言はまたしても
「さて、本題に戻らせてもらうが、今までの状況がJOJOのまさしく『パロディ』によって構成されていたことは言うまでも無かろう、第三部、第四部とSBRを中心とした台詞の正確な引用と状況の再現。能力の再現。
だが、JOJOクンは何故にあんなスタンド能力を持っていたのに今まで使用してこなかったのか。
その疑問が現在、存在するワケだが。それについてはまあ、推論を展開するよりも本人に訊くのが早い。
おうい、JOJOクン、なんで今までスタンドを使わなかったんだい?」
その突然の質問に、八つ裂き刑の如き状況にある
「クソッ……。そんな事は……。使う必要が無かったからだろ……!」
「キミはスタンドを使いこなすのが苦手なのかい?」
「そんなワケ……。あるか……! スタンド発現は十年近く前に……。DIOが……」
「じゃあなんでそんな慣れているスタンド能力を使って、
「このアマ……! おれがそんな外道を……! するわけが……」
「とまあ、このように彼の行動に矛盾が生まれている。あんな土壇場で時止めからのオラオララッシュが繰り出せるほどスタンドに慣れたJOJOクンがとっさに助けようとしてスタンドを出さないはず無いのに出さなかった。その答えとして考えれられるのは名前の時同様に『
「またしても、一貫性のない、便利な存在を引き合いに出して……!」
「一貫性ならばある。そしてそれはこの世界の不可解な状況を簡単に説明し得るものだよ。この大いなる理論は先ほどの理論とは打って変わり、一挙に全体、つまりはこの事件全体へと広がるものなのだ」
「「「なに、事件全体!?」」」
思わぬ形で提示された事件解決の糸口。熊城をはじめとした全員が驚きを隠せぬこの事態に法水は無数の
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