第五章 城は高く積み上がり
第19話 真実、それは赤い彗星、あるいは無貌の神
……………
「アバババババババババババババババ!!!!」
腹の底から湧き上がるような奇妙な叫び。
法水の言葉を唯一遮ったその音は、入り口の開放された扉を背にした法水を正面に見るただひとりの人物。
彼女は直立不動のままその悲鳴と共に白目を剝き、首を両手で抑え始める。
全員がその光景に驚く中、法水はすぐさま何かを覚って背後を見る。
「!? まずいッ!」
法水はその言葉と共に玄関扉へ駆け出す。彼女はどうしたことか、目を瞑った状態で玄関扉に向かうと、急ぎその扉を閉めた。
その法水の行動にいち早く気付き、目線を向けていた支倉は玄関扉の先、虚空の空間が広がる外に何か奇妙なモノ。尾を引いて虚無に輝く赤い閃光のような何かを認めた。
「他に見た人は!?」
法水が叫ぶ。
その声に反応してか、
「真実。真実。真実。法水さんの触れた真実。私の導いた真実。私が受信した真実。疑うという真実。疑いは晴れないという真実。疑いと真実。それは対極? それとも同一? 融解する、反発する、融合する、離反する。それは真実の猜疑。真実は疑い。疑いは真実。流れ込む真実。真実とはコンクリートのように流れ込み、固まり、重く私を沈み込ませる。水底で手を振っている。真実は手を振っている。真実に手はなく、四肢はなく、実体はなく、そして手があり、四肢があり、実体があり、全てが在る。有と無のジレンマ。二面性。ここは二次元ではないのなら。真実は一体。真実は二面。真実は三者。ああ反対、反射、反発、反目。それは真実。真実は嘘。嘘は真実。きれいはきたない。きたないはきれい。ああ」
「
法水が口走る謎の言葉の意味を熊城たちが訊き返す。
「どういう意味だ? 何があったんだ、一体……。彼女は一体どうした!?」
「あの扉の外に……。何が居たの……? 麟音。」
支倉の問に法水は被疑者たちを見ながら語る。
「キミも見たのか? あの『赤い彗星』の中にうごめく、『貌の無い存在』を」
支倉はその言葉に首を振る。
「あ、赤い光だけが……」
法水は支倉へ口早に説明を行う。
「古来、彗星は狂気と凶兆を示すものだった。天候を星を見て占った時代の話だが、日本においては近代化渦中の明治末期、青森などで発生したハレー彗星騒乱が記憶に新しい。あれはデマの流布が原因とされるが星の運航について恐怖を感じるのは人間の文化的な遺伝子に刻み込まれた古い記憶なのだろうね。
そして赤い彗星。一年戦争初期のルウム戦役において通常の三倍以上の速度を誇り、数々の戦艦を屠ったことから地球連邦のみならずジオン公国においてもその二つ名が語られた、シャア・アズナブル、あるいはキャスバル・レム・ダイクンのこと。
その二つの符号は我々にとって、『RX78-2ガンダム』の名によって卑近な現象として見過ごせない存在となるのだ。異常な変貌を遂げ、空間を揺るがした謎の存在、ガンダム……。
更に私はその赤い彗星の中に、恐るべき存在を見た! 貌無く、不定形に捻じ曲がり、潜在的恐怖を招く悍ましき存在、あれはおそらく……。『ナイアラトテップ』」
「なに、ナイアラトテップ!」
その声は
「
ナイアラトテップ……!
それがこの事件の根幹にかかわり、ガンダム、そして赤い彗星との繋がりを持つ。
驚くべき意味連結を見せた事件が浮かび上がる中、
「揺らいだ真実をここに知らしめよ。遠のいた真実をここに顕せよ。三つのものを二つに、二つのものを一つに、狂気をこの真実によって統一せよ。空舞う鷹よ、ここに来たれり」
彼女はそう語ると、自らの首に爪を立て、そのまま引き裂こうと動く。
だが、その動きを筋肉の機微によって事前に察知した支倉が驚くべきスピードと握力によって制止。またしても予言は阻止される。
「一体どうしたの!?」
「揺らいだ真実をここに知らしめよ。遠のいた真実をここに顕せよ。三つのものを二つに、二つのものを一つに、狂気をこの真実によって統一せよ。空舞う鷹よ、ここに来たれり揺らいだ真実をここに知らしめよ。遠のいた真実をここに顕せよ。三つのものを二つに、二つのものを一つに、狂気をこの真実によって統一せよ。空舞う鷹よ、ここに来たれり揺らいだ真実をここに知らしめよ。遠のいた真実をここに顕せよ。三つのものを二つに、二つのものを一つに、狂気をこの真実によって統一せよ。空舞う鷹よ、ここに来たれりり鷹りりりゆゆゆゆ揺らゆらここに来たれいだ嘘誠虚真恵実をここここ鷹空舞う鷹空舞う鷹ここここに知らしめよ。。。。。とおと揺らいだととおとと遠のい二つた真実をここに顕顕鷹顕顕顕せよ。三三三三つのものを二つにを一つに三つを一つにを二つに二つを空舞う鷹二つに一つを三つに、狂気を空舞う鷹よこの真空舞う鷹実によって統一せよ。狂気狂気狂気狂気狂気空狂気舞う鷹よ狂気、こ空舞うこに来昨日た鷹れ明日り鷹鷹鷹鷹鷹鷹」
痙攣するように言動が崩れ、しかしそれはどこか本来の、先程までの彼女をほうふつとさせる動揺の仕方であり支倉にはその奇妙な動きが何かへの抵抗に感じられた。
流石の彼女もこれにはどう動けばいいかわからず、
法水はその光景を見て決断する。
「致し方ない、眠っていてもらおう」
その言葉の直後、数秒も立たず支倉の正確無比な神業によって
「――鷹。つまりは、もう始まっているということだね」
法水は
「え?」
支倉は
だが、その言葉を彼女が再び聞く必要はなかった。
「にゃるしゅたん、にゃるがしゃんな、にゃるしゅたん、にゃるがしゃんな……」
それは近くに居たはずの熊城や
だが、その言葉の真意を法水は分かっている。
そして、次に起こる出来事に、彼女は最大限の警戒をして、叫んだ。
「支倉クン、博士のもとへ!」
支倉は思考よりも早く動く。
そのリンフォンは形を変え、『熊』、そして『鷹』へ。支倉の電光石火の動きよりも速く変形した。
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