第2話 My favorite hero is right in front of me

目の前に勇者アリアがいる。


いやいやいやいやそんなわけがない。いくらオタクの俺でも二次元キャラが現実世界にいるといった非現実的なことは信じない。

俺はどうにかしてこの状況に納得する答えを探していた。


「そうだコスプレイヤーだ。ここ秋葉原だし」


何でこんな簡単なことも浮かばなかったのだろう。ここはオタクの聖地秋葉原だ。コスプレイヤーがいたところで不思議ではない。それに今は外で事故が起っているはず、きっと助けか何かで訪ねてきたのだろう。俺はようやく納得する答えを見つけてことが出来た。


「凄い細かく再現されますね。鎧と剣は本物の言われても信じますよ」

「すみません。今はそれどころではなかったですね。外で事故起きたみたいですけど怪我人とかは~」


普段ならアリアオタク同士でアリアトークをしたいところではあるが今は外の様子の方が気になる。


「再現?何を言っている。それに鎧も剣も本物だ。」


シュパッ


パサッ


目も前で剣を振る女性。そして俺の前髪数本が床に落ちる。


あっ、この人やばい人だ。コスプレイヤーが再現性を求めるあまりに本物の剣を持ち歩いている。外の事故とかより今はこの頭がおかしい人をどうにかしないといけない。


「どうだ、信じたか。まだ何か疑うようなら北の国キャレストの国民にしか使うことが出来ない魔法を見せるぞ。」


はぁ何言っているこの人、魔法見せるとか言いやがった。コスプレイヤーというより厨二病だろ。AIとかが出始めた今の時代でも魔法なんてものは再現することは出来ない。俺もアリア好きな同士なら深くアリア話をしたいところではあるが頭がおかしい人は別だ。本物の剣を持ち歩いたり魔法を見せるとか言ったりする人とは絶対に関わりたくもない。


「はいはい。じゃあ見せてください。俺だってアリアオタクだから知っていますよ。北の国の寒い環境に住み慣れていないと使えない魔法Ice world」


勇者アリアの生まれた故郷である北の国キャレストは氷の国。そこの国民は寒さへの適性があり特殊な魔法が使える。Ice worldはその中でも基礎魔法。自分の周囲5メートルを凍らせる魔法だ。原作では主に雑魚敵や敵の数が多い時にアリアが使っていた魔法だ。


厨二病の遊びに付き合うのは終わりだ。どんなに再現性を求めたコスプレイヤーだろうと魔法まで再現することは出来るはずがない。


「Ice world」


そう呟くとお店の中が一瞬で凍った。


「寒い!!」

空調設備で温度調整されていたはずの店内が一瞬で氷の世界になる。


「安心しろ。お前には魔法が当たらないように調節した。どうだ?これで私がアリア・フォレストだと信じたか。」


女性は誇らしげに俺を見ている。


というより、まじか、目の前のことは現実なのか?

起こっていることは非現実的なことであるだろう。ただ自分の目で見たことを否定することは出来ない。つい数分前まで頭がおかしいコスプレイヤーと思っていた人が一瞬にして勇者アリアだと確信に至った。


そんな今の俺には店内が凍らされたことや凍えるほどの寒さを気にしている余裕はなかった。


「あなたは本当に勇者アリア・・様?」


「様も勇者も要らん。アリアで良い。だがようやく信じてくれたようだな」


そうか。本当にこの人が・・


「当たり前じゃないですか?Ice worldやはり素晴らしい魔法でした!!原作では強キャラの前には効果がなくネタ技みたいな扱いでしたが、俺は原作の中でも一番の魔法であると考えています。それに~」


「分かった。分かった。もう良い。」


アリアの声で正気に戻ることが出来た。

まさかアリア本人の前でアリアトークを熱弁するときが来るとは夢にも思っていなかった。


「最初の質問に戻ろう。ここはこの町のギルドか?」


そう言えばそんなことを聞いていたな。コンカフェを何と説明するべきかというより・・・



「寒い!!アリア、話は凍ってない場所でしましょう。」


アリアは鎧を着ているから大丈夫だろうが俺は上着を羽織っているぐらいだから寒すぎる。俺は急いでアリアを店の奥の凍らされてない席まで案内する。


「ここなら大丈夫。すみません。アリアこちらの席にお座りください」


「分かったが、この町は一体どんな魔法を使っている?私が知らないアイテムが数え切れないほどあるが。ここは本当にギルドなのか?」


そうなるよな。原作の世界はコンカフェにあるシャンパンもなければチェキもない。そもそも日本のなかでも特殊な街な秋葉原を別の次元から来た人に説明するなんて無理な話だ。


とりあえず今はその場しのぎでも良いからどうにか説明を。


「この町は楽園の町秋葉原。そしてここはギルドThe Brave Party。心が落ち込んでいる人に最高の時間と癒しを与えることが目的のギルドです」


その場しのぎとしては良い感じの説明だろう。まぁこれで納得するとも思えないが。


「なるほど。治癒専用ギルドという認識でよいのだな」


あれ⁇納得したぞ。

まぁとりあえず少しでも理解をしてくれていたら十分だ。令和の今の時代をアニメの世界から来た人に完璧に理解してもらうのは無理があるだろう。


「そういった認識で大丈夫です。今はギルドの対応時間外なので私以外はいませんがもう少し早い時間だと色んな、お客・・町の方やギルドメンバーもいます。」


今度は俺がアリアに質問する番だ。外で何かしらの事故が起こっているはずだし、そもそもどうしてアリアがここにいるのかも分からない。


「アリアはどうしてこの町に、それに外では何か事故が起きていると思うのですが」


アリアが目の前にいることで頭がいっぱいになっていたが、なぜアリアが令和の今の時代に来たのか原因を知ることが大事だ。


「私は死んだ、その後光に包まれて。光が消えたと思ったら得体の知れないものに飛ばされて道で倒れていた」


あ~じゃあ転生したってことか・・死んだ⁇


「アリアは死んだのですか?」


原作でもアリアが死ぬ場面はなかった。おいおいいきなり原作と違う状況はやめてくれよ。まぁ今の状況が既に原作とは違いすぎているのだけど。


「私にも寿命はあるからな。最後は仲間に見守られながら死ぬことができたよ」


良かった。ただ寿命を全うしただけか。原作は世界を平和にして終わったからその後の話だろう。


状況から考えて寿命を全うしたアリアがこの世界に転生してきたってことで間違いないだろう。この世界への登場のしかたが車に飛ばされるとかいう斬新すぎる方法だが。


「状況は理解しました。ただアリアにはこの世界で生活してもらうしか現状の解決方法はなく」


転生してきているわけなので元の世界に戻る手段はない。どうにかしてあげたいという気持ちはあるが今はこの世界で生活をしてもらうが一番の解決策だと思う。


「そうだな。何も分からない状況で迂闊に行動するのは危険だな。しばらくはこの町で生活をしていこうと思う。」


となると次は住む場所だが、家を借りるにもホテルに住んでもらうにしても金がかかりすぎるな・・しょうがない一旦はお店のVIPルームを使うか。あそこなら1人が寝るくらいのスペースはあるはずだろう。


「そうだ、聞きそびれていたことがあったな」


「何か気になることでもありましたか?」


「お前の名だ。この状況を理解することに必死で聞きそびれていたな」


しまった。偉そうに色々と話していたがまだ俺の名前を伝えていなかった。


「失礼しました。俺は大城雄大です」


まさかアニメの推しキャラに名前を名乗る時がくるとは・・

色々とわけがわからない状況ではあるが幸せな気分だ。


「オオシロ・ユウダイだな。ユウダイと呼ばせてもらう。よろしく頼むユウダイ」

グハッ。

推しに名前を呼ばれるだと。アイドルや声優を推していたりであればありえない話ではないが、アニメキャラに名前を呼ばれるとは。やばい幸せすぎる~


「ユウダイ。出会ったばかりでいきなり申し訳ないのだが私をギルドメンバーの仲間に入れてはくれないだろうか?ギルドの手伝いももちろんする。」


「はい!!喜んで」


ここギルドではなくコンカフェだけどね~

アリアと一緒にコンカフェで働けるなんてこんなに幸せなことがあって良いのだろうか。


あれ?


待て、待て、待て、ここはコンカフェ。ということは、俺はアリアがコンカフェ嬢になることを受け入れたということに・・


「感謝する。これからよろしく頼むユウダイ」


しまった!!


こうして俺は勇者がコンセプトのコンカフェを経営していたら推しの勇者が転生してきてコンカフェ嬢として働くという世界戦を生きていくことになるのだった。

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