転生勇者のレベル1から始まる世界再構築

@shirokaneyasyou

第1話【世界が静かに終わった日】

それは、終りというにはあまりに静かな出来事だった。


空が裂ける音も、大地が揺れる轟音もなかった。

風が止まり、光が消え、空がただ黒く染まった。

目を開けていても、もう何も見えなかった。


気づけば、独りだった。


仲間はいない。

魔王との最終決戦で共に戦った者たちの姿は消え、声も届かない。

大地も、空も、城や街も⋯消えていた。


「俺の選択は、間違っていた。」


世界は崩れた、魔王を討っても何も救えなかった。

神の裁き、人の欲、止まらなかった技術の暴走。

崩壊したのは魔王だけの責任じゃなかった。

人類全員の責任だった。


滅びは避けられなかった、。

人類は生き延びるために知恵を求め、力を求め、そして限界を超えた。

魔族もまた、自らの滅亡を恐れ最後の抵抗を続けた。

戦いは終わらず、和平は訪れず、ついには神の干渉を呼び込んだ。


世界のあらゆるものが消えていく中で最後に残ったのは。

勇者のひとつの願いだった。


「もう一度、やり直したい。」


そう願った瞬間、意識は深く沈んだ。


目が覚めると、風が吹いていた。

木々が揺れている、草の匂い、太陽の光。

肌寒さが、現実の痛覚を突きつけてくる。


身体を起こし、ベットから出て鏡を見ると。

手足が細く、小さな十代前半の少年の姿があった。


「俺は今、なんの夢を見ているんだ?」


今の出来事に疑問を抱きながら勇者は頬をつねった。

案の定、夢だと思っていたものは夢ではなく現実だった。

そして勇者はとあることに気づく。


「もしかして俺、転生した!?」


そう思い勇者はステータスを確認する。


「ステータス・オープン」


思考に反応し、青いウィンドウが視界に浮かぶ。

昔によく見ていた魔導システムの懐かしさが胸に刺さる。


【ステータス】

『名前』ハルト=グランゼル

『年齢』14

『職業』勇者(封印中)

『レベル』1

『スキル』記憶継承(唯一)/再構築因子(異常)


「やっぱりレベル1か、封印付きとは…厳しいな」


記憶はすべて残っている。

記憶継承という唯一のスキルがそれを証明している。

ハルト=グランゼルはあの週末の記憶を持ったまま、この世界に転生した。

そしてもう一つ、謎のスキル’’世界再構築因子’’。

このスキルが、ただの特性とは思えなかった。

おそらくはこの転生の力、そして世界をやり直すための鍵。


だとすれば、これは罰ではない。

希望だ。


「これが、あの時の願いの結果だろうか。」


「もう一度世界をやり直す、そういうことか。」


地面を見下ろすと、土の温もりが感じられた。

草は揺れ、虫の音が遠くから聞こえてくる。


崩壊した世界には、なかったものばかりだ。


「今度こそ守りたい、壊れる前に、間違う前に、俺が変える。」


ふらつく足取りで森の中を歩きだす。


「体が軽い、筋力も魔力も、何もかもが初期値。」


「だが、この命は借り物じゃない、俺自身のものだ。」


そんなことを呟いていると木々の向こうから一人の少女が現れた。


「あれ?君、大丈夫?」


栗色の髪を後ろでまとめ、年はハルト=グランゼルと同じくらい。

強くてまっすぐな瞳で、こちらを見つめていた。


「すごくフラフラしてるけど大丈夫?」


警戒心はなかった、ただ純粋な心配がその声に込められていた。


「ああ、大丈夫だ。」


「そっか、ならよかった、私の名前はレイナ。君の名前は?」


一瞬、答えを迷う。

’’ハルト=グランゼル’’は前世で名乗っていた勇者の名前。

けれど、今さら隠しても意味はない。


「ハルトって呼んでくれればいい」


レイナは笑った。

その笑顔に、どこか懐かしさを感じる。


「よろしくねハルト、じゃあ村まで戻ろう!!!お腹空いてるでしょ?」


差し出された手を取った、小さな手だが、温かく力強い。


これが、世界再構築の一歩。

世界が終わった、その先にある始まり。


ハルト=グランゼルは歩き出す。

今度は、誰かを犠牲にしないために。

レベル1の勇者として、もう一度。



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