ほら、配信ですよ
九戸政景
プロローグ
「うーん……なんか伸び悩んでるよな」
深夜の小さな一軒家のとある一室。その中で一人の男性が椅子の背もたれに体重を預けながら難しい顔をしていた。目の前にはデスクトップパソコンやマイクが置かれており、パソコンの画面には動画の編集画面が映っていた。
「流行りに乗って配信や動画撮影を始めてみたけど、世の中の人達みたいにすぐにうまくいくわけじゃないんだなあ。まあ簡単だと思ってたわけじゃないけど、ここまで苦戦するとは思ってなかったからそれはそれで困ったなあ……」
男性は小さくため息をつく。そして画面を見ながらボーッとしていた時、小さく息をついてからマウスに手を伸ばした。
「このまま悩んでてもしょうがない。気分転換にホラー系のサイトでも観よう。何か新しい怪談とかあるかもしれないし」
男性は編集画面を最小化してからインターネットにアクセスし、ブックマークの欄から一つのサイトを選択した。
「やっぱりここだよな、Mちゃんねる。昔からあるところだし、ホラー以外の掲示板を見たくなってもすぐに移動出来るからほんと便利だよな」
男性は上機嫌でマウスを動かし、検索窓を駆使しながら自分が見たいものを探し始めた。そしてホラーに関連したあらゆる掲示板が見つかったその時、男性は「ん?」と声をあげた。その視線の先ではとある掲示板の名前が表示されていた。
「なんだここ……『廃神の祠』? こんな掲示板聞いたことないけど、新しく出来たところなのかな?」
男性は疑問に思いながらその掲示板にアクセスする。開かれたページは黒い背景に赤い文字で掲示板の名前が書かれている他は青文字の箇条書きでスレッド名が表示されているだけであり、その簡素だがそれ故に異様さを醸し出す様子に男性の顔は恐怖で青白くなった。
「なんだよ、ここ……めっちゃ不気味だな。スレッド名は普通だけど、なんだか気味悪いし、ちゃちゃっと見て別のとこ行こ……」
男性は恐怖を感じながらも掲示板内を見始めた。そうして画面に釘付けになること数分、男性の目があるものを捉えた。
「ん……配信スレ? もしかして、廃神の祠って名前は何らかのホラー系の配信がメインになるからつけられたのかな? 結構多いし、スレッド自体も伸びてる方だし」
見慣れた単語を見つけた男性の表情は明るくなり、スレッドの一つを見ようとした瞬間に男性は何かを思い付いた様子で声をあげた。
「そうだ、ここで俺も配信してみよう! 前からホラー系の配信はしたかったし、スレッドを使った形の配信は初めてだからやってみたいかも。そうと決まれば、まずはここで使うハンドルネームと配信の内容を決めないと……」
男性は静かに考え始めた。そして数分後、男性の手はキーボードやマウスを操りながら忙しなく動きだし、やがて男性は満足そうな顔で頷いた。
「よし、出来た。ハンドルネームは今日麩の味噌汁で、スレッドを立てる時はこれを入力してトリップをつけよう。それで、配信内容はリスナーから送られてきた都市伝説や怪異の調査。これで決まりだな」
男性は満足そうに言っていたが、やがて眠たそうにアクビをした。
「ふあ……流石に眠いし、募集とか明日にしよう」
そして耐えきれなくなった男性は机に伏せる形ですやすやと眠り始めた。画面上にいつの間にか浮かび上がった白い仮面のようなものからの視線に気づかぬまま。
ほら、配信ですよ 九戸政景 @2012712
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ほら、配信ですよの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます