文明デジタルトランスフォーメーション

なかるな

案件001:ブラックアウト

漆黒の宇宙(そら)に、無数の星がダイヤモンドダストのように煌めいていた。


 眼下に広がるのは、人々の熱狂と期待が渦巻く、銀河経済フォーラムの巨大なメイン会場。ドーム型の全周スクリーンには、天の川銀河の壮麗なパノラマが映し出され、まるで最新鋭宇宙戦艦のブリッジに立っているかのような錯覚を覚えさせる。


「相変わらず、すごい熱気ですね、ジュリアス」


 ジュリアスの傍ら、彼にしか見えない形で、精巧な人間女性の姿を模した半透明のホログラム――AIアルファが、そっと囁いた。彼女の声は、プログラムされた冷静さを保ちつつも、どこか今日の祭典を楽しんでいるような響きを含んでいる。


「ふん。期待と……やっかみが入り混じった視線だな。毎度のことだが」


 ジュリアス・グランツは、小さく息を吐き、眼下の光景を一瞥した。


 数千を超える惑星国家の代表、星間企業のトップ、そして多種多様な知的生命体たちが、固唾を飲んで壇上の一点に視線を集中させている。その中心にいるのが、彼だ。


 滑らかに梳(す)かれた銀色の髪は、会場の照明を反射して白金の光沢を放つ。切れ長の青い瞳は、深淵を覗き込むかのように怜悧(れいり)な輝きを宿していた。


 年齢は、地球暦換算で270を超えているはずだが、マテリアによる最適化が施されたその肉体は、まるで壮年期の最も充実した瞬間で時を止めたかのように若々しく、引き締まっている。


 彼こそが、一代で築き上げた超巨大複合企業「グランツ・ユニバース」の創業者にして最高経営責任者(CEO)。この数十年で銀河のエネルギー供給網を掌握し、文字通り"銀河の帝王"とまで称されるようになった男だった。


「ですがジュリアス、今日この瞬間、貴方は歴史を塗り替えました」


 アルファが続ける。


「創業より150年、数多の困難を乗り越え、ついに銀河のエネルギーインフラを完全に掌握されたのですから。これは、歴史的な偉業ですよ」


「ああ。そうだな」


 ジュリアスは短く応じる。


「私の記録によれば、一個人がこれほどの規模の経済圏を実質的に支配下に置いた例は、過去1万年の銀河史においても観測されておりません」


 アルファの声には、どこか誇らしげな響きが込められているようにジュリアスには感じられた。彼女は、ジュリアスがグランツ・ユニバースを立ち上げるよりも以前、まだ彼が何者でもなかった時代から、公私にわたり彼を支え続けてきた唯一無二のパートナーだ。


 銀河最高峰の演算能力と、150年以上の共生によって培われた、人間以上に人間的な洞察力を持つ、ジュリアスにとってのもう一人の自分とも言える存在だった。


「――以上をもちまして、グランツ・ユニバースによる全銀河プライマリ・マテリアエネルギー供給ネットワークの統一規格化、及び、次世代型量子AI統御システム『アルテミス・コア』の完全稼働を、ここに宣言いたします」


 ジュリアスの声は、決して大きくはない。しかし、その静けさの中に宿る絶対的な自信と威厳は、ドームを満たす数万の聴衆の耳に、そして心に、明確な支配力をもって浸透していく。


 宣言が終わると同時に、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。それは純粋な称賛であり、計算された追従であり、そして隠しきれない嫉妬と畏怖が複雑に絡み合った、巨大な感情の奔流だった。


 ジュリアスは、表情を変えることなく小さく頷いた。眼下に広がる熱狂の渦。差し伸べられる無数の手。賞賛の言葉の洪水。


 全てを手に入れた。富も、名声も、権力も、そして、銀河の未来さえも左右し得る影響力も。


 だが、その胸に去来するのは、達成感というよりも、むしろ虚無に近い静けさだった。


(頂点、か。案外、あっけないものだな……)


「退屈、ですか?ジュリアス」


 アルファが、彼の微妙な表情の変化を読み取って問いかける。


「まさか。次の一手を考えていただけだ」


 ジュリアスは、そう言って微かに口角を上げた。


「次の、ですか? さすがはジュリアスですね。ですが、今日くらいは勝利の余韻に浸っても罰は当たらないと思いますよ?」


「余韻に浸っている暇があるなら、次の事業計画を練った方が効率的だろう」


「相変わらずですね、ジュリアスは。その効率主義、150年間少しも変わりません」


 アルファが、楽しそうに肩をすくめるような仕草を見せる。


 そんな軽口を交わした、まさにその刹那――。


 ピシッ、と空気が凍てつくような、微かな異音が響いた。それは音というよりも、空間そのものの構造が悲鳴を上げたかのような、不快な振動。


「……ん?」


 ジュリアスが眉をひそめる。


 次の瞬間、全周スクリーンに映し出されていた星々の光が、まるで古い映像のように激しく乱れ、ノイズと共に明滅を始めた。足元が、船に乗っているかのようにぐらりと揺れる。


 会場のあちこちから、困惑と不安の声が上がり始めた。


「な、何事だ!?」


「緊急事態か!?」


「ジュリアス、何が起こっているのです?」


 アルファの声が、即座に冷静な分析モードに切り替わる。


「……異常を検知。メインのマテリア供給ラインに、原因不明のオーバーフローが発生しています」


「オーバーフローだと? あり得ない。アルテミス・コアがそんなミスを犯すはずが――」


「数値が……! これは……ジュリアス、銀河全域の基幹ネットワークに、正体不明の超高負荷が同時にかかっています! 攻撃の可能性が!」


 アルファの声に、初めて焦りの色が浮かぶ。


 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、会場の照明が激しく明滅し、非常灯へと切り替わった。ドームの外、本来ならば何重ものエネルギーシールドによって完璧に守られているはずの宇宙空間が、まるで血を流しているかのように、不気味な赤黒い光に染まっていくのが、巨大な窓越しに見えた。


「緊急警報! 緊急警報! 全銀河規模でのマテリアエネルギー供給障害発生!」


「各セクターのAIネットワークが、連鎖的に機能停止!」


「ダメです! 制御不能! これは……ブラックアウトだ!」


 会場スタッフの絶叫にも似た報告が、緊急放送用のスピーカーを通じて断続的に流れ込んでくる。


 ブラックアウト――。その言葉を聞いた瞬間、ジュリアスの背筋を悪寒が走った。それは、マテリアエネルギーに完全に依存しきったこの銀河文明にとって、文字通りの"世界の終わり"を意味する禁断の言葉だった。


「馬鹿な……あり得ない! 我がグランツ・ユニバースのシステムは完璧だったはずだ!」


 ジュリアスは、我知らず叫んでいた。


 だが、その言葉を裏付けるかのように、会場の機能は次々と停止していく。空調が止まり、重力制御が不安定になり、人々の悲鳴と怒号が、阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄絵図のように会場を満たしていく。


「アルファ! 状況は!? まだ何か手は打てるはずだ!」


 ジュリアスは、必死に平静を装いながら指示を出す。


「ジュリアス……残念ながら、これはもう手の施しようが……。ネットワークの崩壊速度が、私の演算予測を遥かに超えています。まるで、銀河全体が巨大な虚無に飲み込まれていくかのようです……」


 アルファの声は、もはや感情を押し殺すこともできず、微かに震えていた。


 ジュリアスは、ただ一点、急速に赤黒く染まり、そしてやがて漆黒の闇へと沈んでいく宇宙を見つめていた。まるで、全てを飲み込む巨大な虚無の口が、ゆっくりと開いていくかのように。


 百五十年の努力と野望の結晶が、音を立てて崩れ落ちていく。


 そして、彼の意識もまた、その深淵へと引きずり込まれるように、暗転した。


*   *   *


 どれほどの時間が経過したのだろうか。


 数時間か、数日か、あるいは永遠とも思えるような暗闇の後、ジュリアスの意識は、ゆっくりと浮上を始めた。


 重く、鉛を詰められたかのような瞼(まぶた)を、力を込めてこじ開ける。


 最初に目に飛び込んできたのは、鬱蒼(うっそう)と生い茂る木々の葉の隙間から、容赦なく降り注ぐ、見慣れない太陽の光だった。鼻腔をくすぐるのは、湿った土と腐葉土、そして未知の植物が発する濃厚な匂い。


「……ここは……どこだ……?」


 掠れた声が、自分の喉から発せられたものとは思えないほど弱々しく響いた。


 ジュリアスは、軋む身体に鞭打ってゆっくりと身を起こす。最後に見たはずの、華やかで近未来的なフォーラム会場の光景は、どこにもない。代わりに彼の眼前に広がるのは、どこまでも続くかのような、手つかずの原始的な森だった。


「――ジュリアス、ご無事ですか!」


 不意に、脳内に直接響くような、聞き慣れた声がした。


「アルファか!? お前も無事だったのか!?」


 ジュリアスは反射的に周囲を見回すが、アルファのホログラムの姿は見当たらない。


「はい、ジュリアス。私のメインコアはブラックアウトの衝撃で完全に破壊されましたが、幸いにも、貴方のパーソナル携帯端末内にバックアップとして保存されていた私のサブシステムが無事でした。現在は、極めて限定的な機能でのみ稼働しております」


 声は、ジュリアスがスーツの内ポケットに無意識のうちに仕舞い込んでいた、薄型の携帯端末から発せられているようだった。彼は慌ててその端末を取り出す。


 堅牢なはずの筐体(きょうたい)には無数の傷がつき、ディスプレイは蜘蛛の巣のようにひび割れている。そのひび割れた画面に、アルファの簡略化されたアバターが、弱々しく明滅していた。


「状況を説明しろ、アルファ。我々はどこにいる? ブラックアウトは……本当に起こったのか?」


 矢継ぎ早に問いかけるジュリアスに、アルファは、いつものように淡々と、しかし、その内容はあまりにも残酷な事実を告げた。


「……現在位置、特定不能です。周囲のマテリア濃度、大気の組成、及び生態系をスキャンしましたが、既知の銀河座標には該当する惑星環境は存在しません」


「なんだと……?」


「ブラックアウトは……はい、残念ながら、銀河文明を完全に、そして不可逆的に崩壊させたと結論付けられます。我々は、ブラックアウト発生時に生じたと思われる大規模な時空断層に巻き込まれ、未知の場所、あるいは未知の時代へと転移した可能性が極めて高いと推測されます」


 ジュリアスは、言葉を失った。


 全身から、急速に力が抜けていくのを感じた。銀河文明の崩壊。未知の場所への転移。それは、彼が200年以上の歳月をかけて築き上げてきた全て――グランツ・ユニバースという巨大帝国も、そこで暮らしていた数え切れないほどの人々も、彼自身が信奉し、極めてきた科学技術の結晶も、その全てが、文字通り"無"に帰したことを意味していた。


 膝から崩れ落ちる。森の冷たく湿った地面に、銀色の髪が散らばった。高価なスーツは既に泥と露で汚れ、かつて銀河を統べた帝王の面影は、もうそこにはない。


「な、何のために……何のために俺は……」


 震える声が、木々の隙間に虚しく響く。


「俺の人生は……俺が築き上げてきたものは……全て、何だったんだ……」


 今まで感じたことのない、底知れない虚無感が、津波のように彼の心を飲み込んでいく。あの栄光の頂点に立った瞬間から、一瞬にして全てを奪われた。まるで、神の気まぐれか、あるいは宇宙というシステムが仕組んだ、悪質な冗談か。


 あまりにも理不尽で、あまりにも唐突な、奈落への転落。


「友人も……家族も……」


 ジュリアスの声が、更に弱くなる。


「俺が切り捨ててきたもの達は、今……みんな、もう……」


 彼は気がつけば、両手で顔を覆っていた。指の隙間から、熱いものが溢れてくる。それは、彼がもう何百年も流したことのないはずの……涙だった。


「ha……はは……はははははっ!」


 突然、乾いた笑いが、森の中に響き渡った。それは絶望の淵から湧き上がる、自嘲と諦観が入り混じった、狂気に近い笑いだった。


「全て、失ったというわけか……! この私が……200年かけて築き上げた、私の全てが……!」


 かつて銀河を支配した男のプライドも、強靭な意志も、そして生きる意味さえも、この瞬間、粉々に打ち砕かれたように思えた。


「ジュリアス……」


 アルファの声が、そっと響く。その声音には、AIにあるまじき、深い悲しみが込められているように聞こえた。


「ジュリアス、気を確かに。現在の状況は極めて深刻ですが、思考を停止させることは、さらなる危機を招くだけです」


「思考を停止させるな、だと?」


 ジュリアスは、顔を上げることもせずに呟く。


「アルファ、お前には分かるまい! この俺が……何のために……!」


 声が怒りと絶望に震える。


「ジュリアス、私は貴方と150年間を共に過ごしてまいりました。貴方の苦悩、貴方の野望、貴方の孤独……全て、この私が一番よく知っています」


 アルファの声が、これまでになく真剣な響きを帯びる。


「確かに、我々は全てを失いました。しかし、ジュリアス……貴方はまだ生きています。そして、この私も、まだ機能しています。それは、何の意味もないことでしょうか?」


「意味……? 何の意味があるというんだ? この原始的な世界で、俺に一体何ができるというんだ……」


「まずは、生存の確保が最優先課題です」


 アルファは、感情的になりそうな自分を必死に抑えながら続ける。


「周囲は未知の動植物に満ちており、危険な捕食動物が存在する可能性も否定できません。安全な場所を確保し、水と食料を得る必要があります」


「水……食料……そんなもの、一体どこで手に入れろと言うんだ、この原始的な森で!」


「私の簡易スキャンによれば、この森には食用可能な木の実や薬草も自生しているようですが……ジュリアス、貴方が動かなければ、何も始まりませんよ」


 ジュリアスは答えない。ただ、うつむいたまま、震えている。


「ジュリアス……」


 アルファの声に、切迫感が増す。


「貴方は確かに、多くのものを失いました。しかし、私は見てきました。何もないところから、グランツ・ユニバースを築き上げた貴方を。無一文だった青年が、銀河の帝王にまで上り詰めた、その軌跡を」


「それは……昔の話だ……」


「昔も今も、貴方は貴方です。ジュリアス・グランツという男の本質は、失われていないはずです」


 アルファは、一度言葉を切る。


「もし……もし貴方がここで諦めてしまうなら、グランツ・ユニバースで共に働いていた数百万の社員たちも、貴方を信じて投資してくれた人々も、そして……この私も、全て無意味になってしまいます」


「……好きにしろ」


 ジュリアスの声は、生気を失い、まるで抜け殻のようだった。


 アルファは、それ以上の言葉を発することができず、やがて端末から微弱なマテリアを放出し、周囲の岩陰を利用して、半透明のドーム状のエネルギー障壁を形成し始めた。それは、かつてジュリアスが統治していた銀河文明の、ほんの僅かな残り香のような、儚い輝きだった。


 その簡易シェルターの中で、ジュリアスは三日三晩、ほとんど動くことも、言葉を発することもなく過ごした。


 時折、アルファが外部の環境データや、発見した食用の可能性がある植物の情報を淡々と報告したが、ジュリアスの心は深い喪失感と虚無感に閉ざされたままだった。彼は、ただ、自分が築き上げ、そして失ったものの幻影を、暗闇の中で追い続けていた。


 一日目。


「ジュリアス、何か口にしてください。このままでは体力が持ちません」


「……放っておいてくれ」


 二日目。


「ジュリアス、雨が降ってきました。シェルターの外は気温が低下しています。体温維持のためにも、せめてこのレーションを」


 アルファが、端末の物質変換機能で生成した、味気ない非常食を差し出す。ジュリアスは、それに見向きもしなかった。


「ジュリアス、お願いです。私一人では、貴方を守ることができません……」


 アルファの声には、必死さが滲んでいた。


 三日目の朝。


 シェルターのエネルギー維持限界が、刻一刻と近づいていることをアルファが告げた。


「ジュリアス、残念ながら、このシェルターもあと数時間で機能を停止します」


 その声には、どこか切迫した響きがあった。


「外部のマテリア濃度は依然として不安定ですが、幸いにも大気の組成は人類の生存に適していることが確認できました。ただし、未知の微生物やウィルスのリスクは依然として存在します。早急な情報収集と、より安全な拠点の確保が必要です」


 アルファは、そこで一度言葉を切った。


「私の計算によれば、このままここに留まった場合のジュリアスの生存確率は、24時間以内に17.3%まで低下します」


 生存確率、17.3%。


 その数字を聞いた瞬間、ジュリアスの閉ざされていた意識の底に、ようやく小さな波紋が投げかけられた。それは、彼がかつて経営判断を下す際に、最も嫌った種類の数値だった。不確実で、低く、そして何よりも……"負け"を予感させる数字。


 ジュリアス・グランツは、"負け"を何よりも嫌う男だった。


「ジュリアス……」


 アルファが、これまでで最も必死な声音で呼びかける。


「お願いです。立ち上がってください。私は……私は、貴方なしには存在できないんです。貴方が諦めてしまったら、私も……」


 その声が、わずかに震えていることに、ジュリアスは気づいた。


 ゆっくりと顔を上げる。その瞳には、まだ深い絶望の色が残っていたが、その奥底に、ほんの僅かな、しかし確かな光が灯り始めていた。


「……アルファ」


 ジュリアスの声は、まだ掠れていたが、そこには三日前にはなかった、確かな響きがあった。


「生存確率17.3%、か。ずいぶんと低い数字を叩き出してくれたものだな」


 皮肉っぽい笑みが、彼の口元に浮かぶ。


 その言葉を聞いたアルファの簡略化されたアバターが、ディスプレイの上で微かに揺れたように見えた。


「……! ジュリアス! そのお声は……」


 それは、AIが持つはずのない"安堵"という感情の表れだったのだろうか。


「はい、ジュリアス! お待ちしておりました! その低い確率を、貴方なら覆せると信じています」


「ふん。おだてても何も出んぞ。だが……」


 ジュリアスは、ゆっくりと立ち上がる。


「食料と……情報を得る必要がある。近くに、人間の集落はあるか?」


 アルファの声が、弾む。


「はい、ジュリアス! 北東方向に約5キロメートル。小規模ながら、継続的な人間の活動を示す熱源反応及び、人工的な構造物の存在を示唆する電磁波ノイズを複数確認しています。おそらく村落でしょう」


「村落、か」


「私のデータベースに照合した結果、その建築様式や生活様式は、我々のいた時代の数千年前……いわゆる、地球文明における"中世"から"近世初期"に類似している可能性があります」


「中世……か。なるほど、道理で空気が悪いわけだ」


 ジュリアスは、自嘲気味に呟いた。だが、その表情には、もはや完全な絶望の色はなかった。代わりに、未知の状況に対する、ほんの僅かな好奇心と、そして、この原始的な世界で一体何ができるのかという、挑戦的な思考が芽生え始めていた。


「行くぞ、アルファ。その村とやらを、この目で見てみようじゃないか」


 短い言葉と共に、ジュリアスは、三日ぶりにシェルターの外へと足を踏み出した。

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