立ち止まる
「密航者を運んでるの?」私はローランドの背中を見ながら尋ねた。
そのことを口にしたとき、ローランドは驚くほど平然としていた。私としては、この世界でも密航者を運ぶのは違法な行為だろうと思う。でも、ローランドは隠すことなく私に話してくれた。
「その通りさ。商会からの給料や、君みたいな客を運ぶ金だけじゃ、とても生活できないよ。」
確かに、昨夜を思い返してみると、ローランドはたった3つの荷物を買うのに97金貨も使っていた。それを考えると、彼が密航者を運んで収入を補っている理由が分かった。1回の補給でそんな大金がかかり、しかも彼は客を乗せてあちこちを旅しているのだから、常に金を持ち歩く必要がある。正直、私が彼の立場でも、同じことをしていただろう。
それでも、彼の給料がどれくらいなのか、なぜ密航までしなければならないのか、気になった。私はその質問を頭で考えただけで、口に出すつもりはなかった。でも、いつものように口が勝手に動いてしまった。「給料ってどれくらいなの? なんで密航者を運ばなきゃいけないの?」
私の質問を聞いて、ローランドは突然大声で笑い、説明してくれた。要するに、彼の収入源は二つある。一つは商会からの給料で、半年ごとに1銀貨、つまり1年で2銀貨。もう一つは私のような客を運ぶ仕事で、これは旅ごとに金額が異なる。でも、ローランド曰く、それでもまだ足りないらしい。
「それでも足りないの?」私は驚いて尋ねた。
私の膝の上で話を聞いていたオウガも、驚いた顔を見せた。最初は、ローランドが密航をするのは給料が安いからだと思っていた。でも、彼の収入を聞いて、その考えは吹き飛んだ。
私の計算では、ローランドは1年で少なくとも20銀貨以上を稼いでいる。それは私にとって想像もつかない金額だ。それなのに、彼にとってはまだ足りないというのだ。
ローランドはまた大声で笑いながら言った。「足りないよ。ほら、君も見たろ? 補給物資を1回買うだけで、ほぼ1銀貨かかるんだ。それも、トラコの金が少し入ってるから抑えた方だよ。」
「じゃあ、密航の仕事で1回いくら稼げるの?」
「1回で最低でも50金貨だ。」
そのとんでもない金額を聞いて、私は思わず腰に下げた自分の金袋に手をやった。今の私の所持金は、わずか5金貨と50銀貨。それも、誰かにもらった金だ。この目の前の男に、ますます尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
この話題を続けたくないようで、ローランドは馬車を操りながら別の話に切り替えた。
「このペースなら、明日の昼にはエルデン市に着くよ。」
私はオウガの頭を撫でながら答えた。「じゃあ、フルトニコの闇市場は?」
「それはエルデン市の裏側にある。早く着くには裏門を通るよ。そこから闇市場に直行できる。正門を通ると、闇市場までさらに時間がかかるんだ。」
「そこにはもう行ったことあるよね?」
「その通りだ。気を付けてな。オウガちゃんをしっかり守って、財布もだ。闇市場に着いたら、まずはフィエラのところへ直行しろよ。」
「はい、はい。で、フィエラってどこにいるの?」
「闇市場に入れば、自然と分かるさ。心配するな。」
ローランドの言葉には何か含みがあるようだった。それを言い終えると、彼はそれ以上何も言わず、黙り込んでしまった。彼が話したくないと察した私は、オウガを撫でながら黙って従った。
オウガは昨夜の様子とはまるで別人のようだった。でも、そんなことはどうでもいい。彼女がここにいてくれるだけで十分だ。
私たちはそのまま夕方まで黙っていた。信じられないことに、ローランドは本当に一言も話さなかった。オウガもそのうち眠ってしまい、さすがに育ち盛りだなと起こさずにいた。私は馬車の縁に頭を預け、外を眺めた。
いつの間にか外はすっかり暗くなっていた。ローランドは広大な平原の真ん中にある遺跡で馬車を止めた。「ここは魔族抵抗戦争の時代の遺跡だよ。」ローランドがそう言った。私はこの世界の歴史に詳しくないから、彼の言葉を素直に信じた。
その後、ローランドは腰に巻いた小さな袋から、驚くほど大きなキャンプ用のテントを二つ取り出した。私はその光景に口をあんぐり。
私の反応を見て、隣にいたオウガがからかうような口調で言った。「レナ姉、知らなかったの? あれは『魔法の袋』だよ。なんでも入るんだから。種類によって値段は違うけど、だいたい高いよ。」
その話を聞いて、私は心の中で決めた。「いつか絶対にあんな袋を手に入れるぞ!」
ローランドがテントを設営している間、オウガは自分の魔法で明かりを灯していた。私は特にやることもなく、暇だったのでこの遺跡を探索することにした。
遺跡は石でできていて、かなり崩れていた。でも、私の推測では、ここはかつて小さな城か、それに似た建造物だったのだろう。石の壁には奇妙で理解できない文字や、異様な浮き彫りが刻まれていた。
歩いていると、四角い石板が目に留まった。それは明らかにこの遺跡の壁の一部ではなく、最初から綺麗に四角く削られたものだった。好奇心に駆られ、私は近づいてその石板に触れてみた。
石板には何か彫られていたが、暗すぎてよく見えなかった。そこで私は『火起こし』の魔法を使い、明かりを灯して石板を照らした。
光の下でよく見ると、石板には巨大で危険そうな怪物が刻まれていた。その口からは強力な力の奔流が放たれ、足元の全てを破壊していた。
これは魔王か、何かものすごく強い怪物かもしれないと思った。私はこの石板をローランドとオウガに見せようと考えたが、めっちゃ重い。『強化』の魔法を使っても、びくともしない。動かすどころか、わずかにずらすことすらできなかった。
ローランドとオウガを呼べば一緒に持ち上げられるかもしれないけど、迷惑をかけたくなかったから、その考えは捨てた。
「レナ姉ー!」
石板をどうやって持ち上げるか考えていると、オウガの声が聞こえてきた。私は仕方なく石板を置いて、キャンプ場に戻った。
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