トラヴェン村
のうちに急いで出発しようとしたとき、私はふと、名も知らぬ男の死体から拾ったあのペンダントのことを思い出した。もしかしたらロランドなら、中の家族のことを知っているかもしれないと思ったのだ。
私はポケットからそのペンダントを取り出し、忘れずに持ってきたことにほっと息をついた。そして馬を走らせようとしていたロランドの肩を強く引っ張ったせいで、彼は危うく後ろに倒れそうになった。
それから彼にペンダントを渡し、「あの……色んな所を旅しているあなたなら、このペンダントの中の家族をご存じないですか?」と尋ねた。
ロランドはしばらく中の写真を見つめたが、やがて肩を落として首を横に振った。「いや、無理だな。もし貴族とか、それなりの影響力のある家系じゃないなら、いくら旅していても知らないさ。」
私はペンダントを受け取りながら、ふとある名前を思い出し、思わず口にした。「じゃあ……メキーラ・デ・アスモディアって人は……」
しかし、私が言い終える前にロランドは被せるように「知らん! それにその名前は軽々しく口に出すな」と言った。
ロランドの顔ははっきりと恐怖に染まり、声も少し震えていた。まるでその名前はタブーであるかのように。そして彼は再び前を向き、馬を走らせた。
ロランドの様子を見て、私はそれ以上深く追及するのをやめた。もしまた強い反応をされたら怖かったからだ。
でも心の奥では、あのメキーラ・デ・アスモディアと名乗った女性は本当に本物なのか、それともクティのように偽名を使っただけなのか気になっていた。バーンもクティも、私がその名前を出したときにロランドほど強く反応したようには思えない。もしかしたら私が気づかなかっただけかもしれない。
きっとすべてはアバンベルンに再会したときに分かるはずだ。今はただ、一日も早く彼女に会いたいと願うばかりだった。
そんなことを考えていると、後ろにいたオーガが前に出てきて、私の膝の上にちょこんと座った。「ねぇレナお姉ちゃん、そのペンダント見せて?」
私はオーガにペンダントを手渡した。もしかしたら何か知っているかもしれないと思ったけれど、オーガはやはり首を横に振り、「わからない」と言ってペンダントを返してくれた。
「レナお姉ちゃんはこのペンダント、どこで手に入れたの?」
「あれ、まだ話してなかったっけ?」と言いながら、私はオーガの頭を撫でて笑った。
オーガがこくりと頷くのを見て、私は死体を見つけたときのことから、あの死の森のぼろ小屋でオーガと出会うまでの経緯を全部話した。少し声を大きめにして、前で御者台に座っているロランドにも聞こえるように。
話を聞き終えたロランドが、視線を前に向けたまま言った。「そういう経緯だったのか……なら、闇市で誰かに調べてもらうといい。もちろん、高くつくがな。」
「じゃあ自分で探すしかないね。」私は苦笑いを浮かべて言った。
オーガは私を見上げて微笑み、「大丈夫だよ、私も一緒に探すからね」と言ってくれた。
「ありがとうね。」
私は優しく礼を言い、同時にロランドも元の落ち着いた調子に戻ったので少し安心した。正直、朝のようにまた感情的になられたら怖いと思っていた。
そんな私の気持ちも知らずに、ロランドは再び口を開いた。「このままのペースで進めば、もうすぐ一つの村に着く。そこで補給をする。」
「村……?」私は気になって尋ねた。
「ああ、トラヴェン村だ。行商人や馬車乗りの中継地さ。」
そう言うと、ロランドはズボンのポケットから固そうな食料を取り出した。おそらく保存食だろう。
「お前ら二人は腹減ってないか? 床に小さい収納がある。開けて何本か乾パンでも取って食べろ。」と言いながら、自分の分をかじり始めた。
床を見下ろすと確かに小さな収納スペースがあり、左手で開けてみると、中には白い紙袋に入った乾パンが三本ほどあった。
私は三本とも取り出し、全部オーガに渡した。一つじゃ足りないと思ったからだ。私はあまりお腹が空いていなかったし、むしろ少し眠くなっていた。
乾パンを受け取ったオーガは目を輝かせ、すぐに紙を破って食べ始めた。その様子があまりに微笑ましくて、私は少し心が軽くなった。
ロランドは月を見上げながら「乾パンは喉が渇くぞ」と言った。
「大丈夫だよ。『水やり』のスキルがあるから。」私はそう言いながら手を見せたが、ロランドには見えないはずだった。
でも次の瞬間、私の掌から水が溢れ出してしまった。名前を口にしただけでスキルが発動するのか……。ちょっと不便だと思い、慌ててスキルを止めた。
ロランドはそれを見ても聞いてもいないのか黙ったままだった。疲れているのだろうと思い、私は余計なことは話さず、静かな馬車の音だけが夜道に響いた。
ふと見ると、オーガはすでに三本目の乾パンを半分以上食べ終えていて、その食べっぷりを見て私は微笑んだ。
こんなふうに心が穏やかになるのは久しぶりだった。窓の外に目をやると、二頭の馬は思ったより速く、それでいて振動も少なく走っている。道が平坦だからか、それともこの世界の馬が特別なのか。
再びオーガに目を戻すと、三本目の乾パンも食べ終えたようだった。しかし、まだ物足りなさそうに顔を上げ、「レナお姉ちゃん、まだお腹空いてる……」と寂しそうに言った。
「もうちょっと我慢してね。トラヴェン村に着いたら、ちゃんとしたご飯食べよう。」
そう言いながら、無表情な自分の顔で微笑もうとしたけれど、うまく笑えず、仕方なくオーガの頭を撫でた。
私の顔があまりに変だったのか、オーガは吹き出して「ふふっ、レナお姉ちゃん、その顔なに〜、面白すぎ〜!」と笑った。
本当にそうだから何も言えず、私は黙ってオーガの笑い声を聞いていた。
そのとき、馬車が止まり、ロランドがこちらを振り返って言った。「トラヴェン村に着いたぞ、レナ。降りるんだ。」
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