第4話 神社の面子とカオスな状況


「とにかく、この話は取り下げてくださいまし!」



「今更、何お言い出す桜花」



本殿にたどり着くと、いつもどっしり構えている神主様と、可憐で華やかな桜花様のイメージからは想像できないレベルで、激しく親子が罵り合いを繰り広げて取っ組み合いの一歩手前になっておりました。


ほんとは物陰から野次馬してやろうくらいにしか思ってなかった私たち兄妹でしたが、このままだと神社という神聖な場所に血が流れかねないので、大慌てで二人を抑え引き剥がしました。



「お、桜花様!落ち着いてくださいませ!一体何があったのです!?」



私の声が耳に入ると、桜花様はジタバタする手足を止め、ふと私の方を振り返ります。


控えめに言って可愛い。


そんな可愛らしい瞳を潤ませると桜花様は私に抱きついてきます。

入内前だというのに、何か嫌なことでもあったのだろうかと、僭越ながら後輩の自分が桜花様の頭を撫でていると……



「美緒〜もうヤダァ〜私と変わって〜」



という泣き言を言い出しました。

彼女らしくない口調と弱音を聞いた私は、兄と視線を合わせパチクリとしながら驚いて何が何だか分からず言葉を失っていると……



「うるさいですよ、父上姉上!なんの騒ぎですか!」



今度は神主の息子の凰月こうが様が拝殿の方からやってきて、兄が抑えている神主様の方にゆっくり近づいて行きました。


自分の息子の姿を見て感情が爆発したのか、神主様は取り押さえている兄の腕の中で、桜花様の方を指さしながらこう怒鳴りました。



「桜花が明日の入内を取りやめると言うんだ!!今になって突然!!」



予想外のその言葉に、その場には沈黙が流れた。

帝との婚姻だなんて、これ以上ないめでたい婚約を断るだなんて、理解が追いつかなかったからだ。



「お……桜花様!?それは本当ですか?」



私は頭を撫でていた手を止めて、抱きしめた腕の中にいる桜花様の顔を覗くようにしてそう質問を投げかけてみたところ



「あんな冷血漢の男に嫁ぐなど、耐えられません!」



とのお返事が。


どうやら本当のことらしい。


様子を見るに、マリッジブルーとかそういうことでもなさそうです。



「姉上、何を考えているのです?」



冗談ではないことを十分理解した凰月こうが様は、姉である桜花様に詰め寄ります。

しかし、桜花様も少々興奮気味で、素直に相手の言うことを聞くような状態にはありませんでした。



「好きでもない殿方に嫁ぐくらいでしたら、斎王にでもなった方がマシですわ!」



「お前……、マシだなんて……有難い職業になんてことを!」



なりふり構わず言葉を選ばない桜花様に対して、神主様は唖然としています。

無理もない、だって、手塩にかけてどこに出しても恥ずかしくない娘を育て上げたと言うのに、最後の最後、仕上げの段階というところでしっぺ返しを受けたのだから。



「お前のために持ってきた縁談だぞ!幼き頃より交流もあっただろ?それを入内前日になって取りやめたいとは何事だ!」



「幼い頃にお会いしたことがあるだけで、回数を数えたらたかが知れてますわ!心が冷たい方で、言葉を交わそうという意志を感じませんでしたし、しまいには邪険に扱われましたわ!いわば犬猿の仲!きっと向こうは私の顔も覚えてないですわ!」



「子供みたいなことを言うんじゃない!桜花らしくもない。仮に神社の未来のために頑張てくれないか!?」



神主様にそう怒鳴られた桜花様でしたが、どうやら決意は硬いようで



「こればかりは絶対に嫌です、入内は致しません!」



と言い返すと、再び私の胸の中に顔を埋め不貞腐れてしまいました。

そういえば、帝ルートって、出会いは最悪でお互いに印象悪いところからスタートするんだっけ?


だから入内ルートでも、他キャラと恋愛に発展するルートがあるわけだし。

私もこれが受け付けなくて、帝ルートの攻略踏み切れなかったわけだし。


入内ルート確定前だったら、逃げ道はいくらでもあったのに…確定後にこの口論を続けたところで、桜花様が入内を逃れるのは難しいかな。



「頼む、お前が帝に嫁げばうちの神社も名を上げられるのだ!」



「嫌なものは嫌です!この神社で世継ぎを生みます!!」



と思ったのですが、桜花様意外にあがきます。


よくよく考えたら、今の現状はあまりにもおかしい。


主人公の桜花様は入内前日。

つまり、当然のことながら現在すでにゲーム開始後の範囲のはず…。


でも、こんなシーン、プレイした記憶はない。

こんな口調の桜花のテキストを見たこともない。


それに、桜花様は売り言葉に買い言葉とはいえ『世継ぎを産む』とか言ってるけど、まだ攻略キャラも出そろっていない今、そんな相手はいないはず。



「世継ぎを産むだと!?帝以外に誰と結婚すると言うのだ!相手もいないだろ!!」



だから神主様のこの問はもっともなのだ。


それでも、桜花様は神主様に、こんな返事をします。



「意中の相手はおりますわ!」



桜花様はそういうと、抱きついていた私からふっと離れました。

流石に、売り言葉に買い言葉のはったりかと思ったのですが……


桜花様は神主様を取り押さえている兄のそばまで近づくと、兄の右側の腕をがっしりと掴み、「え?」声を漏らした兄を無視してこう言いました。






「私はこの方と番になります!」






桜花様による兄へのまさかの大胆告白がなされました。



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