第3話 ほんのちょっとの後悔。
「……お兄ちゃんごめんね」
「何だい急に」
なんの脈絡もなく突然謝罪をする私に驚いたのか、キョトンとした表情で私を見つめる兄。
それでも、やっぱりこの世界がゲームの世界だということを思い出すと、謝罪せずにはいられないのだ。
「だって、死ぬ前に私がこのゲームプレイしてたから、この世界に転生したわけでしょ?おかげで、お兄ちゃんは恋愛も自由にできないし、ひもじい思いさせちゃってるし…」
こんななんちゃって平安時代の和風ファンタジーじゃなくて、ヨーロッパ系のファンタジーゲームならヒロインにしろ悪役令嬢にしても9割型貴族に転生できる、ヒロインの場合庶民スタートの可能性はあるけど、その跡聖女だったり実は貴族だった率は高いから、結局いい思いをできてた可能性は高い。
そんな私の思いを察して、兄は言う。
「美緒のせいじゃないよ。むしろ美緒の霊能力のおかげで死んだ後に、第二の人生を得られたんだ。今世ではなんか僕も霊力ついたし。何ならそのおかげで、孤児だった僕らが神社で拾ってもらえたんじゃないか。」
「でも、もし死ぬ前にプレイしてたのが、中世ヨーロッパ風のゲームだったら、貴族に生まれて、豪華な生活ができて楽できてたかもしれないし」
「そもそも、メインのキャラに転生できず孤児だった時点で、西洋世界に転生しても貴族や一般庶民に転生できたか大分怪しいけどね。それにほら…断罪される側だとシャレにならないし。」
「気を使わなくていいよ、精進料理ばっかで物足りないくせに…」
男側が身分高ければ、肉も食べれたし。
今だって、この時代にしてはいい生活をしている方だと思うけど、滅多に外出許可されないし、育ち盛りの兄がお寺のような精進料理ばっか食べてるのはやっぱ心が痛い!
その上貴族なら女性選びたい放題。
想いの相手に言い寄ることすらできず、推しだと言い聞かせて明日嫁ぐなんて拷問の極み。
どうせ叶うわけのない高嶺の花の存在に見惚れるだけだなんて!!
兄なら上を目指せるのに!!!
でも、兄はそんなことは気に求めていないようで、優しく笑った。
「西洋の貴族になんかに生まれ変わったら、領地の仕事とか大変そうじゃないか。僕は神社で働かせてもらってるだけで満足だよ」
「意地張って、優しいこと言わないでよ!本当はカツ丼とか牛丼食べたいくせに!」
「うん、カツ丼も牛丼も親子丼も、西洋世界じゃどのみち食べらんないね。」
「じゃあステーキ」
「それは揺れるね。でもないものねだりだよ。」
「わかってる、でもせめて何か、人生変わるようなイベントでもあればお兄ちゃんも……」
「もう食べ物の話はやめよう、おなかすいてきた。」
「そうだね。ごめん。」
夕食前のこの時間に、食べ物の話はするべきではありませんでした。
まだ掃除するべきところはたくさん残っているというのに、食べれもしない食べ物の話をするのは、拷問でしかなかった。
しかし、まだまだ掃除する場所が残っている。
この状況で無言で作業するのはやはり疲れるので、他の話題を振ってみることにした。
ふと顔をあげると、フヨフヨと空中に浮かぶ白い何かが見えた私は、それを話題に上げてみることにした。
「また霊が飛んでる。」
「ほんとだ、ここ最近多かったけど、今日は特に多いね。明日桜花様が入内するからかな?」
「霊力のない桜花様の結婚に霊がざわつくかな?」
「言われてみれば…おかしいね。でも神社の娘さんだと、なんか感じるものあるのかな?」
「それか…別の場所で何かトラブルがあったか…なんか原作になかったの?こういうイベント」
「そりゃ、桜花様がトラブル解決していくゲームだからね。でもルートによって事件違うから、どのトラブルが該当してるのかわからないよ。全キャラ攻略してないし…」
正規の帝ルートとか、シークレットキャラとか、まだイベント回収しきれてないし…
そもそも、桜花様自体には霊感無いから、そういう情報はなかったから、心当たりはないんだよね。
「まぁ、人型じゃなくてデフォルメっぽい幽霊ばっかだから、害はないと思うけど…こういう時って良くないことの前触れだったりするんだよね」
「よくないことって?」
なんて兄に質問された直後、本殿の方から、障子が思いっきりスパーンと音を立てて開く。
「お父様なんて、嫌ですわ!」
そしてその直後、桜花様の怒号が聞こえてきた。
まさに人生が変わるような……イベントの匂いがした私たち兄妹は、箒を投げ捨てて野次馬するために本殿の方に駆け出していくのでした。
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