第39話 まさかの・・・

 翌日。授業が終わり、放課後になった。生徒会の仕事のためにアネットは生徒会室へ向かう。この日も問題は特に起きていなかった。クラーク令嬢こと花恋と移動の時にすれ違ったが、もうアネットを見ることはなく、彼女の友達と楽しそうに話をしていた。アネットは複雑な表情でそれを見ていた。仲良くなれるかもと思っていたので割り切れないところがあるのだろう。

 生徒会室へ向かう途中でジネットと会う。彼はアネットを見かけると駆け寄ってきた。


「アネット嬢。良かった。会いたかった。」

「ジネットさん。どうされたんですか?」

「いや、クラーク令嬢にまた絡まれるんじゃないかと思ってな。心配していたんだ。」

「大丈夫ですよ。昨日お話した通り、彼女は時戻り前の記憶を持っていません。けど色々あったようでして、時戻り前とは性格が全く違います。ですからもう気にしなくてよさそうです。」

「そうか。昨日話しこんでいた内容は聞いても良いのか?」

「・・・ごめんなさい。プライベートな話も含まれるので伏せさせてください。」

「そうか・・・。残念だがしょうがない。まあ君に危険が及ばないようで良かったよ。」


 そう言うとジネットは生徒会室へ向けて歩き出した。アネットも横に並んで歩く。歩きながらジネットが口を開いた。


「そうだ。改めて昨日のことでお礼を言わせてくれ。君のおかげで父や兄と話すことができた。2人共俺を愛してくれていた。俺に自由に生きてほしいとのことだ。」

「そうなんですね。2人共素敵な方なんですね。」

「ああ。俺にはもったいないくらいの家族だ。だから研鑽は積むが、当主になることに拘らず視野を広く持つことにした。それにもっと気になることに注力したいしな。」

「気になること・・・ですか?」

「ああ・・・。」

 

 ジネットはアネットの数歩前に行き、振り返った。そしてアネットを見つめる。アネットは不思議そうに首を傾げた。ジネットは顔を赤くして黙っていたが、やがて何かを決意したのか口をひらいた。


「君だ。アネット嬢。」

「・・・はい?」

「昨日から君のことが気になってしまってな。誰かに惚れるなんて一生ないと思っていたが、どうやらそうらしい。」

「え・・・・ええええええええええええ!!」

(あら、直球。)


 アネットはジネットの言葉に驚いて叫んでしまう。周りにいた生徒達が何事かとこちらを見ている。だが、ジネットの表情は真剣だった。


「アネット嬢に好きな人はいるのか?」

「ええ・・・と。気になる人ならいます。」

「そうか。気になる人なんだな。なら、その人に負けないようにしよう。」

「ほ・・・本気なんですか。」

「ああ。あの時の最後の質問をここで使わせてほしい。俺にアプローチされるのは迷惑か?あの時必要以上に近寄らないと言ったが、それを撤回してもいいか?」

「ええ・・・と。迷惑では・・・ない・・・です・・・けど。ちょっと混乱していて。」


 アネットはよほど意外だったのが、顔を真っ赤にして俯いてしまう。そんなアネットに対し、ジネットは微笑んだ。


「なに。何も変わらない。生徒会活動はいつもどおりだ。ただ俺は君にアプローチし続ける。よかったら受け入れてくれればいいし、他の人が良ければきっぱり断ってくれればいい。それだけの話しだ。」

「でも今すぐには・・・。」

「もちろん今すぐになんて言わないさ。そう言うと振られてしまうからな。2人を比較してくれればいい。」

「2人じゃない!!3人だ!!」

「「!?」」


 突然の言葉にアネットとジネットが声のした方へ向く。そこにはガーランドがいた。ガーランドはアネットに向けて指をさす。


「ガーランドさん!?」

「話は聞かせてもらった。それならば俺も参戦させてもらおう!!」

「!?!?」

(あらあら。)


 予想外の言葉にアネットは完全に混乱してガーランドを見る。ガーランドはまっすぐ2人に近づいていく。ジネットは呆れた表情で彼を見た。


「ランロットか。どうしたんだ急に。そういうのに興味はないと思っていたが。」

「何。簡単なことだ。俺はセレナーデの魔法に惚れ込んでいた。だが、予想以上に生徒会が暇で魔法について教わる機会がない。そこで気づいたのだ!!それなら彼女と付き合えば、一緒にいる時間が増え、魔法を一緒に高めあうことができるとな!!」

「少々不謹慎じゃないか?魔法が理由なんて。」

「何。理由なんてなんでも良いじゃないか。それに俺が叩きのめされた日に言われた言葉に痺れたのも事実だ!!それがきっかけでセレナーデ嬢のことを考える日が多いからな!!」

(それ、私なんだけどね。)

「まあ、決めるのは彼女だ。俺としては自分が出来ることを頑張るだけだ。」


 そう言って、混乱しているアネットの手を取り、指先に口づけを落とす。予想外の行動にアネットの顔は再び真っ赤になった。


「あ、ずるい!!俺もする!!」

「ずるいとかじゃない。気軽にアネット嬢に触るな。」

「独占欲かあ?なんか変わったじゃないか。」

「なに。自分に正直になっただけだ。こっちは真剣なんだ。」

「俺だって真剣だ。なあセレナーデ嬢。俺もアネット嬢って呼んでいいか!?」

「は・・・はあ。」

「よし!!なら俺もランロットと呼んでくれ!!これで俺も五分だ。負けんぞ!!」

「俺だって負けるつもりはない。さあアネット嬢行こうか。」

「あ、俺だって行くぞ。さあアネット嬢!!2人で!!行くぞ!!」


 アネットを挟んでジネットとランロットが睨み合っている。だが、その中心にいるアネットは顔を真っ赤にしたまま、ジネットとランロットを繰り返し見る。周辺にいた生徒達は遠巻きにアネット達の様子を見て話している。明日にはアネットが噂の中心になるのは間違いないだろう。


「お2人の気持ちはわかりましたが・・・。か・・。」

「「か?」」

「か、かかかか考えさせてください〜!!」


 限界が訪れたのだろう。そう叫ぶと、アネットは逃げるようにその場から走り出した。ジネットとガーランドは呆気にとられてその場に取り残される。私は走るアネットに笑いながら話しかける。


(良かったわね。アネット。ザク、ジネット、そしてランロット。よりどりみどりじゃない。これが逆ハーレムなのかしら。)

(なんですか逆ハーレムって!!まさか昨日話したことが本当になるなんて・・・。助けてくださいノゾミさん!!)

(駄目。いい青春じゃない。楽しみなさい人生を。)

「そ、そんなあ〜!!」


 アネットの叫びが辺りに響き渡る。私はアネットの中で爆笑していた。ともあれ、アネットが独り身になる未来はなさそうだ。実はアネットが一喜一憂する姿を見るのも私の楽しみの1つだと言ったら怒られるだろうか。だがこれぞ青春。アネットには2度目の人生を思い切り楽しんでもらうとしよう。


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