第34話 七人+一匹

 出発当日の早朝、ギルド前は冒険者たちの活気に満ちていた。ミルとマムル、リンティ、シアナは、今回の護衛任務の集合場所であるギルド前で、ヤーマンと合流した。


「おはようございます、皆さん。集まっていただきありがとうございます」


ヤーマンが皆に挨拶し、今回一緒に任務に就く他のメンバーを紹介した。

ヤーマンの隣には、もう一人の調査員らしき青年が立っていた。


「こちらは、私の助手であるエンリコです。主に記録と調査の補助を担当します」


ヤーマンに紹介され、大荷物を背負ったエンリコは少し緊張した面持ちで「ど、どうも、エンリコです」と頭を下げた。


そして、前衛を務める、見るからに屈強な冒険者が二名いた。

一人は大柄な男性で、手に巨大な戦鎚を持っている。見た目は厳ついが、どこか温厚そうな雰囲気を漂わせていた。


もう一人は熊の獣人だ。濃い茶色の毛皮に覆われ、人間の男性よりもさらにがっしりとした体格。両手には金属製のガントレットを嵌めている。


「そして、今回の護衛の前衛を務めてくれる、イーノさんとディディさんです」

ヤーマンは二人を紹介した。


「戦鎚使いのイーノだ。前衛は任せておけ」

イーノは低く響くような声で自己紹介した。


「ガントレット使いのディディだ。よろしくな」

熊の獣人、ディディは体格に似合わず、落ち着いた口調で挨拶した。


「リンティ・エルフィンです。後衛の魔法使いです。よろしくお願いします」

リンティが代表して挨拶した。


「ミルです! こっちはマムルです! 後衛から銃でサポートします! よろしくお願いします!」

ミルも元気に自己紹介する。ミルの肩からマムルも「マムルです! よろしくお願いしまーす!」と挨拶する。


シアナが続いた。

「治療師のシアナです。皆さんの怪我や病気のケアをさせていただきます。よろしくお願いします」


今回の先遣調査護衛任務のメンバーは、調査員のヤーマンとエンリコ、前衛のイーノとディディ、後衛兼攻撃役のミルとマムル、そして治療師のシアナの七人+一匹。こうして全員が顔を揃えた。


ヤーマンは簡単なブリーフィングの後、隊列を決めた。

「隊列は、イーノさんとディディさんが先頭で道を開き、護衛対象である私とエンリコがその間に入ります。そして、後衛として、ミルさん、リンティさん、シアナさんが後ろについてください」


これは、戦闘が起きた場合に前衛の二人が敵を受け止め、ミルとリンティが後方から攻撃や魔法でサポートし、シアナが回復にあたる、という役割分担を想定したものだった。


一同は隊列を組み、トンネルワームが新しく穴を開けた場所を目指し、ダイガーツの街を出発した。


目的地までは鉱山内の既存の坑道を通る。道中の安全は確保済みと聞いてはいたが、やはり鉱山。魔物が出没する可能性はゼロではない。


警戒しながら進んでいくと、案の定、魔物との戦闘が発生した。

現れたのは、鱗が硬いスケルタや素早い動きのトリックプテラなど、鉱山特有の魔物たちだった。


しかし、前衛のイーノとディディはさすが経験豊富なベテランだった。イーノは巨大な戦鎚を振り回し、スケルタの鱗を物ともしない。

ディディは素早いフットワークとガントレットを嵌めた拳でトリックプテラを殴りつけ、その素早い動きを封じる。二人は息の合った連携で、現れる魔物を次々と難なく倒していく。


ミルは冥色のライフルを構え、いつでも攻撃できるように準備していた。しかし、前衛の二人があまりにも強力で、後衛の出番はほとんどなかった。


魔物が倒される度に、ミルは純粋な気持ちで二人に称賛を送った。

「わあ! すごーい! イーノさん、ディディさん、かっこいい!」


ミルの屈託のない称賛に、イーノとディディは少し照れたようだったが、気を良くして顔に笑みを浮かべた。


「がっはっは! 大したことねえよ、お嬢ちゃん! 俺たちの本領発揮だぜ!」

イーノは豪快に笑った。


「まあ、これくらいはな」

ディディも控えめに頷いた。


数回の戦闘を経験したが、いずれもイーノとディディのおかげで安全に突破できた。ミルは新しいライフルの性能を試す機会があまりなかったのは少し残念だったが、それよりも、ベテラン冒険者の実力を間近で見られたこと、そして頼りになる仲間がいることの心強さを感じていた。


一日かけて坑道を進み、目的の場所である、トンネルワームが新しく穴を開けた横穴にようやく到着した。その穴は滑らかで、人工的に掘られた坑道とは明らかに異なっていた。


「ここが、トンネルワームが掘った新しい穴か……」


ヤーマンは穴を見上げて言った。穴の奥は暗闇に閉ざされ、未知の世界が広がっているようだった。


「今日はここで野営し、明日、先遣調査に入ります。穴の近くにベースキャンプを設置しましょう」


ヤーマンの指示を受け、一同は横穴の近くにベースキャンプを設営した。テントを張り、焚火を囲む。


未知の空間への入り口を目の前にして、ミルは期待と緊張、そして少しの不安を感じていた。しかし、頼りになる仲間たちと一緒なら、きっとどんな困難も乗り越えられる。ミルはそう信じていた

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