第33話 夢のような依頼

 ミュージックレストラン「アンワィンドアルペジオ」でのアルバイトと、時折受ける簡単なクエストのおかげで、ミルとマムル、リンティのダイガーツでの生活は、少しずつ安定してきた。スベンへのライフルの改造費も支払い終え、新しい防具も揃えた。


ある日の夜、アルバイトから帰ってきたミルを、リンティが興奮した様子で出迎えた。


「ミル! お帰りなさい! 見て! すごく珍しいクエストが出てるわよ!」


リンティはそう言って、一枚の依頼書をミルに見せた。それは、普段の依頼書とは違い、装丁も立派で、重要度の高い依頼であることを示唆している。


依頼は「未登録空間の先遣調査護衛任務」。内容は、トンネルワームがあけた新しい穴の先に、今まで知られていなかった未登録の広い空間が出現したらしい。その空間の危険度や、どんな資源があるのかを調査するため、先遣調査員二名の護衛任務が募集されている、というものだ。


「トンネルワームがあけた穴の先? 未登録の空間!?」


ミルは驚いた。トンネルワームは温厚で保護対象の魔物だが、彼らが掘り進んだ先には、まだ誰も足を踏み入れたことのない未知の領域が広がっている可能性があるのだ。


「すごいでしょ!? まさに、冒険者にとって夢のような依頼じゃない!」


リンティは目を輝かせた。報酬も、依頼の難易度と珍しさに見合って、非常に高額だ。一人銀貨50枚。募集人数は、前衛二名、後衛二名、治療師一名の合計五名体制。移動に一日、調査に一日を予定しているらしい。


「一人銀貨50枚!? すごい報酬だね!」


ミルは思わず声を上げた。これだけあれば、しばらくの生活費だけでなく、さらに良い装備に投資できるかもしれない。


「でしょ? しかも、募集人数が私たちにぴったりなの! 前衛二名、後衛二名、治療師一名! 私が後衛、ミルが後衛も兼ねた攻撃役で、他の三人は前衛と治療師ね!」

リンティはすっかり、このクエストに参加する気になっているようだ。


「私たちに応募できるかな?」

「もちろんよ! ギルド公認の依頼だし、私たちもちゃんと登録冒険者なんだから!」

リンティは自信満々に言った。


翌日、ミルとマムル、リンティはギルド支所へ行き、その先遣調査護衛任務に応募した。ギルドの職員は、ミルがまだ新米冒険者であることに少し難色を示したようだったが、リンティが自身の魔法使いとしての実力と、ミルのライフルを使った戦闘能力を説明し、承諾を得ることができた。


ギルドの一室に通され、今回の依頼主である先遣調査員、ヤーマンから詳しい説明を受けることになった。


案内された部屋に入ると、すでに一人、依頼主らしき人物が座っていた。眼鏡をかけた、学者風の青年だ。彼は、おそらく先遣調査員のヤーマンだろう。


「はじめまして、ヤーマンと申します。今回の先遣調査のリーダーを務めます。よろしくお願いします」

ヤーマンは穏やかな口調で自己紹介をした。


「リンティ・エルフィンです。こちらはミルと相棒のマムルです」

リンティも自己紹介をした。ミルも少し緊張しながら頭を下げた。

「ミルです。よろしくお願いします!」

マムルも「マムルです! よろしくお願いしまーす!」と挨拶した。


ヤーマンはミルの若さに少し驚いたようだったが、ギルド受付の判断や、気後れしない真剣な瞳を見て、特に何も言わなかった。


ヤーマンは、今回のクエストについて、改めて説明してくれた。


「トンネルワームが掘り進んだ先に、偶然、巨大な空間を発見しました。この空間が今までなぜ知られていなかったのか、中に何があるのか、資源や危険はないかなど、様々なことを調査し、後の調査隊に引き継ぐことが今回の目的です」


ヤーマンの説明に、ミルはワクワクした。未知の空間の調査なんて、冒険者の醍醐味だ。


「護衛の冒険者さんたちには、私たちの安全を確保してもらうことになります。道中の安全は、ギルドの方でも確認済みですが、未開地での調査は何が起こるか予測できません。もし、調査中に危険と判断した場合は、即撤退することになっていますので、その際は護衛の方にも指示に従っていただきます」


ヤーマンは慎重な姿勢を見せた。未知の空間だからこそ、安全を最優先するということだ。


「出発は明後日の朝、ギルド前集合です。護衛の前衛二名の方とはすでに顔合わせを済ませておりますが、残りの調査員を含めて、当日の朝に紹介します」


前衛二名は、もう決まっているらしい。どんな人たちだろう? また新しい冒険者と会えることに、ミルは少し胸が高鳴った。


ヤーマンとの打ち合わせが一段落したところで、扉が開き、一人の女性が入ってきた。


「失礼します。ヤーマンさん、お待たせしました。今回の護衛兼治療師として参加させていただきます、シアナです」

現れたのは、少し年上に見える、落ち着いた雰囲気の女性だった。彼女が、募集されていた治療師だろう。


「こちらは、今回後衛を務めてくれる冒険者、リンティさんとミルさんです」

ヤーマンに紹介され、シアナはミルたちに優しく微笑みかけた。


「はじめまして、シアナです。よろしくお願いしますね。お若いですが、冒険者さんですか?」

シアナの口調は明るく、親しみやすい雰囲気だ。


「はい、ミルです! こっちはマムルです! よろしくお願いします!」

ミルは元気に挨拶した。マムルも「シアナ! よろしくねー!」と声を上げた。


「リンティ・エルフィンです。よろしくお願いします」

リンティも自己紹介をした。


「治療師としては、薬での治療と応急処置で、皆さんのサポートをさせていただきます。未知の場所での活動ですから、私の役目も重要になるでしょう」


シアナは自身の役割について説明した。ヒーラーのセストさんのように、治癒魔法で怪我を治せるわけではないが、薬の知識や応急処置のスキルを持つ、頼りになる存在だった。


新しいメンバーのシアナとも顔合わせができ、今回の護衛パーティは、ほぼ顔ぶれが決まった。ヤーマン、リンティ、ミル、マムル、そしてシアナ。残るは、前衛を務める二人の冒険者だ。どんな人たちだろうか?


明後日の出発に向けて、ミルは期待と緊張を胸に、残りの時間を準備に費やすことになった。未知の空間の先遣調査護衛任務。これまでの冒険とはスケールも難易度も桁違いのクエストだ。だが、高額な報酬と新しい冒険への好奇心が、ミルの背中を押した。

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