第14話 街と宿屋
巨大な山をくり抜いて作られた採掘街ダイガーツに到着した一行は、そのまま街の中央にあるギルド支所へ向かった。
街の門をくぐると、そこにはミルの生まれ育ったグレスの街とは似ても似つかない光景が広がっていた。
石造りの建物が立ち並び、街路は石畳で舗装されている。行き交うのは、がっしりとした体格で長い髭を蓄えたドワーフたち、あるいは獣人の姿の者がほとんどだ。人間の姿は珍しい。
「わあ……すごい……」
ミルは目を丸くして、キョロキョロと辺りを見回した。
マムルもミルの髪から顔を出し、物珍しそうに周囲を眺めている。
「ほんとだ! お髭がいっぱいの人たちだねぇ!」
リンティも普段の高飛車な態度はどこへやら、好奇心旺盛な少女に戻って、きょろきょろと辺りを見回している。
「へぇ、ドワーフの街って、こんな感じなんだ……なんだか、全部が丈夫そうね!」
街の喧騒はグレスの街よりもはるかに大きく、石を加工する音や、ドワーフたちの低い笑い声が響いていた。匂いも、土や鉄、そして何かの香辛料のようなものが混ざり合って、独特だった。
ダントに案内されながら、ミルとマムル、リンティの三人はダイガーツのギルド支所に到着した。
グレスの街の酒場に併設された簡素な出張所とは違い、ダイガーツのギルドは、より専門的な機関らしい雰囲気が漂っていた。
受付で護衛クエストの完了報告を済ませた。ダントを無事ダイガーツまで護衛できたことが確認され、クエスト達成となった。
報酬の受け取り手続きに進んだ。今回のクエスト報酬は銀貨20枚。エプキニスから得られたコア4個は、ここで買い取ってもらい銀貨8枚になった。合計で銀貨28枚だ。
「今回の取り分は、事前に決めていた通りね」と、リンティが言った。
護衛クエスト受注時に、報酬は参加した冒険者で均等に分けることを確認していたのだ。ただし、魔物から得たコアは、討伐者に帰属させることもできるが、今回は皆で分けることになっていた。
「クエスト報酬20枚とコアの買取金8枚で合計28枚ね。4人で割るから、一人あたり銀貨7枚よ」
リンティはそう言って、バイス、リエット、ミル、そして自分の分の銀貨をそれぞれ数え、各自のギルドカードに入金した。
ミルは自分のギルドカードに残高が増えていくのを見て、嬉しくなった。一度のクエストでこんなにたくさん稼げるなんて、と感動した。
ダントがミルのギルドカードを見て、満足そうに頷いた。
「これで、お前さんも少しは資金ができたな。ドワーフ鉱山で魔鉱石を探すのには、多少の元手が必要だからな」
報酬の受け渡しが終わり、今回の護衛パーティは解散となった。
「ダントさん、今回はありがとうございました! 無事ダイガーツまで来れてよかったです!」
ミルは深々と頭を下げた。マムルも一緒に挨拶した。
「ダントさん、お世話になりましたー!」
「うむ。若いながら、よくやってくれた。感謝する」
ダントはそう言って、ミルに街の地図をくれた。
「この街は初めてだろう。分かりにくいかもしれないから、これを持っておけ。宿を探すなら、この地図にある『鉄の安らぎ』をお勧めする。手頃な値段で冒険者の利用も多いため、情報も手に入りやすい」
ダントはそう言って、地図上の宿屋の場所を指差した。
「ありがとうございます! 『鉄の安らぎ』ですね! 行ってみます!」
ミルは地図を受け取り、感謝を伝えた。
「それじゃあ、バイスさん、リエットさん、ありがとうございました! お世話になりました!」
ミルはバイスとリエットにもお礼を言った。
「ああ、気にすんなよ、ミル! お前もマムルも、よく頑張ったぜ! これからも冒険、楽しめよな!」
バイスはミルの肩を叩いてくれた。
「ミルさん、マムルちゃん。またどこかで会えたら嬉しいわ。気をつけてね」
リエットは優しく微笑んでくれた。
ダント、バイス、リエットと別れ、ミルとマムル、リンティの三人は、ダントに教えてもらった宿屋「鉄の安らぎ」を目指した。
ダントから貰った地図を頼りに、ミルは街を歩いた。石畳の道は迷路のように入り組んでおり、慣れないミルには少し分かりづらかった。リンティも地図を見ながら唸っていた。
「うーん、この道で合ってるのかしら? ドワーフの街は、作りが複雑ね……」
「大丈夫かなぁ? 迷子にならないかなぁ?」
マムルが不安そうに呟いた。
なんとか地図を頼りに進むと、やがて、ダントが言っていた宿屋「鉄の安らぎ」に到着した。入り口には鉄の看板が掲げられており、いかにもドワーフの街の宿屋といった雰囲気だった。
宿屋の中に入ると、木の床と石壁の質素な造りだったが、清潔で暖かそうだった。先客の冒険者たちが酒を飲んだり話したりして賑わっていた。
受付で部屋を予約しようとしたところで、リンティが立ち止まった。
「ねぇ、ミル。部屋、どうする? 別々にする? それとも同じ部屋にする?」
ミルの手持ちの銀貨は、今回の報酬で増えたとはいえ、まだ潤沢というわけではない。ドワーフ鉱山での活動資金も必要だ。
「えっと……別々にする?」
ミルが提案したが、リンティはすぐに顔をしかめた。
「ええ!? 別々にするの!? ダメよ! せっかく一緒に旅してるのに! 一緒の部屋の方が楽しいじゃない!」
リンティは駄々をこねる子供のように言った。
「でも、リンティもお金があるのに……」
「お金の問題じゃないわよ! 効率も悪いじゃない! それに、別々にするより同じ部屋の方が、少しだけど安くなるわよ? 賢く節約するのも冒険者の鉄則よ!」
リンティは力説し、最後は節約という言葉を持ち出してきた。どうやら、本心はミルやマムルと離れたくないだけらしい。
「ふふ、リンティ、寂しがり屋さんなんだねぇ」
マムルがミルの髪の中からリンティを見て、クスクスと笑った。
「なっ!? 寂しがり屋なんかじゃないわよ! ただ、効率を考えて、合理的判断をしているだけよ!」
リンティは顔を赤くして言い訳をするが、その様子は、マムルにからかわれて照れているようにしか見えなかった。
ミルは、そんなリンティの様子を見て、クスッと笑ってしまった。
「うん、分かったよ。じゃあ、同じ部屋にしよう!」
「やったー!」
リンティはパッと顔を輝かせた。
「もう! マムルったら! からかわないでちょうだい!」
リンティは照れながらマムルを追いかけようとした。マムルはミルの髪の中へ隠れてしまい、リンティは捕まえられず、拗ねた顔をした。
受付で同室の部屋を予約した。部屋代は別々にするより確かに安かった。宿の主人に部屋へ案内してもらう途中も、リンティはまだ少しマムルに拗ねているようだった。
ドワーフの採掘街ダイガーツでの、ミルとマムル、そしてリンティの新たな冒険が、今、始まろうとしていた。
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