今日、君が傘を忘れた

第2話 紙の切れ端のメモ

　彼女は走り出した。

　僕に失望したかのように一度も振り返らずに。

　僕は雨がしとしとと降る中自問自答をした。

――なぜ昨日の紙切れのことを忘れていた。

　紙切れ。

　それは、昨日の授業中宮坂が渡してきた紙のことだった。

　その紙にはこう書いてあった。

　『秋元くん。

　私のこと好きなんでしょ？

　毎日視線感じてるの、わかるよ。

　私も秋元くんのこと、好き。

　だから……名前で呼び合おう？

　次から会うときは、私のこと――名前で呼んでね』

　プリントの切れ端にびっしりと書かれた走り書きのような伝言。

　僕の好きな人は僕のことが好きだった。

　その瞬間、僕は宮坂あかねと両思いだったことを確信して心の中で舞い上がった。

　昨日のことを忘れて俺は……宮坂あかねのことを苗字で呼んでしまった。

　それが彼女を傷つけたのだろうか。

　僕にはわかりきらないことだった。

　今の僕にできることは彼女を追いかけること。

　彼女に追いかけて一生懸命謝罪をしてお許しをいただくこと。

　それしか今の僕にはできない。そう確信をした。

　僕は、彼女のことが好きなんだ――

　心の何処かで彼女を守ってやりたいそういう本能が疼いていた。