第4章:君を語るために、生きていく
彼女の死を、言葉にして他人に話すことは、ずっとできなかった。
それは、喪失の痛みを繰り返すことでもあったし、
なにより、自分の罪を人前にさらけ出すようで、怖かった。
けれど、いつまでも自分のなかだけに閉じ込めておくには、
真尋はあまりに、確かに、ここにいた。
ある日、放課後の図書室で、彼女のことを知っていた後輩に話しかけられた。
「先輩って、真尋さんと仲良かったんですよね……」
俺は曖昧に笑って、誤魔化した。
でも、その子は遠慮がちに続けた。
「なんか、真尋さんって……いつも誰かを見つめてるみたいな人で。
ちょっと不思議な感じがしたけど、綺麗なひとでした」
綺麗、という言葉に、胸がきゅっと痛んだ。
その一言が、真尋の“いた証”のように思えた。
俺は少しずつ、彼女のことを話すようになった。
思い出すたびに、言葉は途切れたし、何度も泣きそうになったけど。
それでも、誰かに伝えることが、
彼女をこの世界に少しだけ繋ぎとめているような気がした。
彼女の話をするたびに、
人は「そうだったんだね」と優しく受け止めてくれた。
誰も、俺を責めなかった。
でも――
俺自身が、まだ自分を赦していなかった。
ノートに書いた言葉たちは、
まるで彼女への遅すぎた返事のようだった。
それでも、書き続けることで、ようやく息ができた。
あの日の電話。
出られなかった後悔。
怒ったまま、彼女を突き放した自分。
全部、消えないけれど――
君のことを、俺の言葉で語ること。
それが、きっと俺に与えられた“償い”なのだと思う。
もう一度、彼女が笑ってくれる未来はこない。
でも、彼女の記憶が、誰かの心に残る未来は、
まだ、つくることができる。
悲しみは、簡単には癒えない。
だけど、君がこの世界に残した優しさを、
俺が覚えている限り、それは生き続ける。
だから俺は、話す。書く。生きる。
君を語るために。
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