第5話「そのころ〈聖女の英雄〉は」
それは、モミトがゴーレムの元にたどり着くほんの一時間前のことだった。
「ギャハハハハハハ!見たかよ、あのクズ無能の顔、笑えるぜ!」
ライラックは上機嫌だった。
自分達の所属するパーティ内での一番の無能こと、モミトを追放できたからである。
「あはは、でもやりすぎだったんじゃないか?あそこまでやったらギルドに睨まれるかもしれないし」
「仕方がないんじゃないの?あいつ、あそこまでやらないと辞めるのに納得しないでしょうし。力づくでわからせるってのはいい手よ」
「そうですね。私としても、手を煩わされて不快だったので助かりました。あんな愚図に回復魔法をかけていた自分に腹が立ちます。古参だったということで我慢していましたが」
「ギャハハ、ああ、ずっとあの無能にイライラさせられてたからなあ。本当にせいせいするぜ」
元々、〈聖女の英雄〉は同郷のライラックとモミトの二人で作ったパーティだった。
そして、ガードナーら三人が加わっていき、モミトを取り除いて今のパーティになった。
はっきりいえば、目障りだったのである。
碌に戦闘もできないくせに、冒険者として活動しようとする、その浅ましさ。
モミトが冒険者として活動する目的を知っているからこそ、ライラックにとってモミトはひたすらに不愉快な存在だった。
「なあ、モミトも抜けたし、改めて新しいメンバーを入れないか?」
「おお、いいじゃねえかガードナー、あのゴミが抜けたから二人入れれるもんなあ」
ガードナーの提案にライラックは機嫌よくうなずく。
パーティは最大六名までと決まっており、あと二人まで入れることが可能だ。
「そうね、どんな人がいいかしら」
「斥候が入ってくれるといいかもしれませんね。索敵はモミトを囮にして先行するのが基本でしたから」
「あと、前衛のアタッカーも欲しくない?モミトが一応前線にいたけど何の役にも立たないから不快だったのよね!」
冒険者は、どこまでいっても自己責任がつきまとう。
冒険者に弱い奴は不要だ。弱者が死のうとどうでもいい。ダンジョン内での死亡は自己責任として処理されるのだから。
「まあ、それは今日のクエストが終わってから考えるか」
「「「賛成!」」」
彼らは、自分達の成功を疑っていなかった。
◇
今回〈聖女の英雄〉が引き受けたクエストは南門の門番である。
彼らが住まう、迷宮都市オズワルドには東西南北に四つの門がある。
その中でも、南門は迷宮のすぐ近くにあるため、冒険者が見張ることになっているのだ。
まれに、モンスターが迷宮から出てくるため、その対処も兼ねてのことだ。
さて、この仕事の難易度ではあるが……ぶっちゃけ楽だ。
基本的な業務は、衛兵に任せておけばいい。
唯一対処しなくてはいけない、モンスターが迷宮から出てくることはまれ。
そのくせ雇用主が領主だけあって、報酬はかなり高い。
割のいい仕事だと、ライラックたちは思い込んでいた。
「おい、なんだよあれは?」
最初に気付いたのは、双眼鏡で外を見ていたライラックだった。
それは、身の丈十メートルほどもあるゴーレムだった。
ダンジョンからはい出してきた個体である。
ダンジョンは、大いなる恵みをもたらす存在だが、時折モンスターが出てくることがある。
大抵は出てくる前に冒険者たちによって処理されるのだが、まれに冒険者の目を盗んで出てくることがあった。
そのため、無尽蔵の資源を産む恵みでありながら、ダンジョンより数十メートルほど離れたところに街を設置し、ダンジョンから出てくるモンスターは冒険者が対処していた。
今日の幸運に恵まれたのは、〈聖女の英雄〉の四人だった。
「ゴーレムが出るなんてなあ、これまでにあったっけか?」
ライラックは双眼鏡でゴーレムを見ながら首をかしげる。
そもそも、あの迷宮――『愚者の頭骨』にゴーレムが出るという記録はない。
魔法生物ばかり出てくる『賢者の墓標』や、鉱物系のモンスターしか出ない『星屑の在り処』とは違うのだ。
「……ないと思います」
「とりあえず、マニュアル通りにやるか。モンスターには違いねえだろ」
それ自体はよくあることで、だからライラックたちは門番として、ルーティーンワークとして大砲型の魔道具を操作する。
「目標前方五十メートル、発射!」
「発射了解!」
命中すれば家屋すら容易く吹き飛ばす炎弾が飛翔し、着弾する。
ダンジョンからモンスターが漏れるのは月に一度ほどだが、これをまともに喰らって生きていたモンスターはいない。
だから、門番はいつも通り、命中した確認をするために望遠鏡を覗き込んで。
「……え?」
土煙を抜けて、無傷で、歩き続けるゴーレムを見た。
「も、目標無傷……どうなってやがるんだ?」
門番に貸与される魔道具は、最高品質のものだ。
当たればAランクのモンスターであろうと無傷ではいられないはずなのに。
「まさか、Aランクの上?Sランクだってのか?」
だからこそ、南門の警護を請け負えるのはAランク以上の身とされているのだ。
「フレア、セイラ!《雷来拳》を使う!ガードナー、索敵を代わりにやってくれ!」
「「「了解!」」」
ガードナーはライラックから
【拳士】と【雷魔術】という二つのギフトを持つ、百万人に一人の天才であるライラックだからこそできる芸当で。
威力は、先程の大砲よりさらに上。
土煙のみならず、余波で地面がえぐれてクレーターができている。
これほどの攻撃を食らって、耐えられるはずがないとライラックは考えて。
「も、目標……無傷、です」
表面が軽く焦げていて。
ただ、それだけだ。
「オリハルコンかなんかでできてやがんのか?」
ライラックの推測は正しい。
オリハルコンゴーレムは、ライラックたちを無視して、まっすぐに突き進み。
「お、おい、やめろ」
「とまれ、止まりやがれ!」
門の前まで、到達した。
そこで、ゴーレムは変形をはじめる。
「ま――」
胴体の体積を減らし、右腕を肥大させ、即席のハンマーを作り出し。
門へと振り下ろし、たたきつけた。
圧倒的質量と硬度によって。
鋼鉄の門は、あっさりと粉砕された。
「ライラック、もう無理だ!逃げるぞ!」
「なっ、そうしたらクエスト失敗になるだろうが!」
「言ってる場合か!」
ライラックは、固く拳を握りしめた。
(俺は天才なのに、あのクズ無能を追い出したのに、その最初のクエストで失敗だと?ありえない、あっていいはずがない!)
「クソがあ!」
ライラックたちは、絶叫しながら逃走する。
それから数分後、ゴーレムは街に到達し。
オズワルドは壊滅状態にまで追い込まれるのだった。
◇◇◇
ここまで読んでくださってありがとうございます!
「続きが気になる」「無様でざまぁ」と思ったら、評価☆☆☆、フォローなどお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます