第3話 似たもの同士

「あ。王子だ」


 サラさんが、アル・サーレスのファンの中の愛称を呟く。


 この男には生意気ながらもファンがいる。それもたくさんいる。


 男が嫌いな私でも整っていると認めざるを得ない金髪青年。歳は確か23歳。


 強くて格好良くてファンサも面倒がらずにやる。それ故に、若い女性を中心に人気がある。


「ミユさん! ご病気ですか!? 顔色が優れないです!」


 いや、さっきまでサラさんのおかげで良くなってきていたいたんだよ! お前がきたから、また悪くなったんだよ!


 そう怒鳴り散らしてやりたいが、喉が開かない。

 安全な場所だと思っていた会社を、こうも早く特定されたショックによって、得意の逃げ足もこいつには通用しないのだと絶望していたから。


 そんな情けない私をフォローしてくれたのは、やはりサラさんだった。


「あの、トップクラスの冒険者の方に対して大変失礼なのですが、ここは関係者しか入れないように結界を張っていたはずです。もしかして、壊しちゃいました?」


「結界? あぁ。あの弱いやつですか。ミユさんのことが心配だったのでぶっ壊しました」


「……」


 あ。

 これは地雷踏んだな。


 その「弱いやつ」は、サラさんが張ってくれた結界だ。


 創業して間もない頃、何かと恨みを買いやすいこの本拠地を、強力なセキュリティがほしいよねと2人で話していた時のこと。


 外部に頼むと結構金がかかるなぁと頭を抱えていた私に、サラさんは「私に任せてください」と決意に満ち溢れた表情で言った。


 魔法使いとしての能力もある彼女は、3日間かけて結界を張ったのだ。


 試しに飲み屋で知り合ったおじさんに触らせてみた。

 怪我しない程度に、人差し指でツンとした程度にだ。


 すると、「バチンッッッ」と破裂音が鳴り、おじさんの指は軽い火傷を負った。


 魔法に関してはズブの素人の私でも、凄い結界ということだけは分かった。


 ちなみに、そのおじさんというのが、今でもつながりがある情報家である。


 しょっちゅう情報交換をせがまれて鬱陶しいが、この時の申し訳なさがあるから無碍にもできずにいる。


 さて。


 その結界を「弱いやつ」と言われたサラさんの表情はどうなっているのか。


 恐る恐る見る。

 激怒。

 美人さんの本気の怒った顔は迫力が凄い。


「……へぇ。さすが王子様ですね」


 しかし、口調は優しい。

 表情とセリフが合っていないのが、嵐の前の静けさを感じさせる。


「そんなこと、どうでもいいんだよ。ミユさん! 本気で具合が悪いんなら僕を頼ると良い。頼りになる薬屋を知っているんだ」


「え、えっと……」


 どうしたら良いのか分からずに固まってしまう私。


「それには及びません。部下である私が責任を持って介抱するので」


「でも……」


「うるさい!!! ここはシャチョーと私達の場所だ!!! 部外者は出ていけ!!!」


 我慢に我慢を重ねていたのであろうサラさんは、大声で言う。


「だいたい、事前にアポも取らずに来るなんて常識がない! 冒険者だからって何でも許されると思うなよ! シャチョーと関わりたかったら正規の手順を取れ! 話はそこからだ!」


 私もアポを取らずに突撃取材をしているから他人のことは言えないのだが、サラさんはその辺はしっかりしているからそう叱責する権利はある。


「……それもそうだ。少し突っ走りすぎたかもしれない。出直してくるよ」


 サラさんの誠実さが伝わったのか、意外とおとなしく引き下がるアル・サーレス。


 しかし、ただでは終わらないのが、この男。


 帰り際、私にこう言ったのだ。


「またお会いしましょうね。ミユさん」


 そうだ。


 誠に残念ながら、こいつとはこれからも何度も会うことになるだろう。


 私(マスゴミ)が、ターゲットを決めたらスクープを撮るまで決して張り付くのと同様、アル・サーレスも私というターゲットを逃さないのだろう。


 そう思えば、私達は似た者同士なのかもしれない。


 似ているのは、どうしようもない部分だけだけど。

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