伝えることなき伝達者

八坂卯野 (旧鈴ノ木 鈴ノ子)

記すだけ、誰のためでなく。ただ正しくあるために、残しゆくために。

 指先がタップダンスをトントントンと、華麗に舞っては踊りゆく。

 トンが想いを宿したら助走をつけて走り出し、やがてシュポンと飛び立った。


 蝶のように羽ばたいて、鳥のように滑らかに、紙飛行機のように軽々と。

 風速から音速へ、やがて光速へと加速して、数多の流星が宇宙を駆け巡る。


 私は宇宙の観測手。

 この地は終の住処の惑星で、電子の海辺に居を構え、幾千万の流星を望遠鏡で見つめゆく。


 流星や彗星の駆け抜けてゆく微振動、それは電波となって放たれる。屋根上に置かれた電波塔、幸と不幸に満たされたモールスコードを受信して、古よりの観測機、刹那的な事柄をテレグラフテープに刻んでは、忘れぬように残しゆく。


 役目を終えた電波達、天空より舞い落ちて、地上の海と溶け合いながら、星の砂へと成ってゆく。


 私は浜辺を歩くたび、鳴き砂の声に耳を欹て聴きながら、森羅万象の事柄に想いを馳せて過ごしゆき、テレグラフテープを紐解いて、時のペンにてノートへとつらつらつらと記しゆく。

 

 誰に報せることもない、記録を綴りて纏めては、年譜の書架へと納めてゆく。人の営み行く年月、紡がれた言葉も行く年月、時代の変遷を辿りても、想心の芯は変わらない。


 綴りに意味を見出すことはなく、けれど、正しきことだと理解して、終の住処で今日もまた、つらつらつらと記しゆく。


 私は宇宙の観測手、伝えることなき伝達者。きっとあなたの想いも綴り、書架へと並べることでしょう。

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