シロツメクサ

飽く秋

第1話

きっと、100万本は針を飲んだ。

集合時間に遅れた。

集合場所を忘れた。

宿題を忘れた。

課題をなくした。

そして、みいちゃんとの約束を破った。


みいちゃん。私が小学2年生の頃に喋り出した、うさぎのぬいぐるみ。

元々はただのぬいぐるみだった。

やり忘れた夏休みの宿題を泣きながらやってたら、慰めてくれたのが最初の会話。

当時、ぼーっとしてたせいか、友達がいなかった私は、みいちゃんの存在をすぐに受け入れた。

はじめての友達であるみいちゃんを、私は溺愛した。ある夏の日は学校の帰り道に咲いていた花で作った冠を渡して、喜ぶみいちゃんの頭に被せてやった。

私が宿題を忘れても失くしても、一度だけみいちゃんを失くした日すら怒らなかった、優しい優しいみいちゃんを、私はどこに行く時も連れて行くようになった。

なのに、あの日、みいちゃんはただのぬいぐるみに戻った。

中学生2年生の秋、ついに私に友達ができたのだ。

私の「変」なところを「面白い」と言ってくれたその子と、私はいつも一緒に居るようになった。

休日も、その子と遊びに行くようになって、みいちゃんを忘れる日が増えた。

みいちゃんの頭にはホコリが積もった。

だからきっと、みいちゃんは怒ってしまったのだ。

落として汚してしまったので綺麗にしようと洗濯機でそのまま回した時も、みいちゃんは怒らなかった。

でも、私が適当にあしらってもみいちゃんは話しかけてくれたのに、他の子と遊ぶうちに存在を忘れた、なんて、そりゃ怒るよね。

あの夏の日、みいちゃんの頭に乗せた花はシロツメクサ。

花言葉は約束。約束は、あの時交わした、「ずっと一緒」。

みいちゃんの頭の上で枯れたシロツメクサの花言葉は、「私を思って」。

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シロツメクサ 飽く秋 @akuaki00512

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