第5話 光と影

取材を受けることにした。

雑誌記者の山田さんは、三十代半ばの女性だった。美佳のアパートで二時間ほど話をした。

「美佳さんの活動は、現代社会の消費主義に対するアンチテーゼですね」

山田さんはそう言ったが、美佳にはよくわからなかった。

「私はただ、皆さんからいただいたものを大切にしているだけです」

「でも、それがとても珍しいことなんです。今の時代、物は簡単に買えて、簡単に捨てられる。でも美佳さんは、他人が不要だと思ったものに新しい価値を見出している」

記事は一ヶ月後に掲載された。

「『何もいらないから全部くれ』現代の贈与経済を体現する女性」

そんなタイトルだった。

記事が出ると、美佳のフォロワー数は一気に五千人を超えた。毎日たくさんの贈り物が届くようになった。

でも、変化はそれだけではなかった。

「テレビに出演しませんか?」

「講演会をお願いできませんか?」

「本を書きませんか?」

様々な依頼が舞い込んだ。

美佳は困惑した。自分はただ、毎日を少しでも楽しく過ごしたくて始めたことだった。それが、いつの間にか「活動」と呼ばれるようになっていた。

そんな中、一通の厳しいメッセージが届いた。

『偽善者だ。結局、注目を集めたいだけだろう。本当に何もいらないなら、SNSなんてやるな』

美佳はショックを受けた。

でも、似たようなメッセージが他にも届いた。

『最初は良いと思っていたけど、最近は商業的な匂いがする』

『純粋な気持ちじゃなくなったね』

美佳は自分の投稿を見返した。

確かに、最初の頃と比べて、投稿の頻度が上がっていた。もらったものの写真を丁寧に撮って、感謝のメッセージも長くなっていた。

それは、たくさんの人に見てもらいたいという気持ちがあったからかもしれない。

美佳は混乱した。

自分は変わってしまったのだろうか?最初の純粋な気持ちを失ってしまったのだろうか?

その夜、美佳は長い間考えた。

そして、一つの結論に達した。

SNSの更新を止めよう。

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