第2話 最初の贈り物
翌朝、美佳は自分のスマートフォンを見て驚いた。
投稿に三つのコメントがついていた。
「面白い発想ですね。私も何もいらない人間です」
「ネタですか?本気ですか?」
「うちの猫の写真送りましょうか?癒されますよ」
美佳は三番目のコメントに返信した。
「ありがとうございます。猫の写真、ぜひお願いします」
一時間後、DMに猫の写真が届いた。茶トラの丸々とした猫が、日向でのんびりと毛づくろいをしている写真だった。
「ありがとうございます」
美佳は返信しながら、なぜか少し心が軽くなったのを感じた。
その日の夕方、アパートのインターホンが鳴った。
「宅配便です」
美佳は首をかしげた。何も注文していない。
玄関を開けると、小さな箱を持った配達員が立っていた。
「田中美佳様でしょうか?」
「はい」
「こちら、お預かりしました」
差出人を見ると、知らない名前だった。
部屋に戻って箱を開けると、中には手紙と小さな多肉植物が入っていた。
『SNSを見ました。私も最近、何もかもがどうでもよくなってしまって。でも、この子(植物)だけは捨てられませんでした。よかったら育ててもらえませんか?名前はまだありません。お世話は簡単です。週に一回、少しお水をあげるだけです。よろしくお願いします。 匿名希望より』
美佳は小さな多肉植物を手のひらに乗せた。葉っぱが肉厚で、触ると少し冷たかった。
「よろしくね」
独り言を言ってから、美佳ははっとした。いつの間にか、自分が微笑んでいた。
SNSに写真を投稿した。
「最初の贈り物をいただきました。小さな多肉植物です。名前を考え中です。大切に育てます。ありがとうございました。#何もいらないから全部くれ」
その投稿を見た人から、また新しいコメントが届いた。
「うちにも要らない植物があります。送ってもいいですか?」
「古い本がたくさんあります。読書はお好きですか?」
「手作りのお菓子を作りすぎました。食べていただけませんか?」
美佳は一つ一つのコメントに丁寧に返信した。
三日後、美佳の部屋には小さな植物が三つ、古い小説が五冊、手作りクッキーの缶詰が一つ置かれていた。
どれも値段のつかないような、ささやかなものばかりだった。でも、なぜか美佳の心は満たされていた。
毎朝、植物に水をやる。午後は本を読む。夕方はクッキーと紅茶で一息つく。
単調だった日々に、小さなリズムが生まれていた。
そして美佳は気づいた。
自分は本当に「何もいらない」と思っていたけれど、実際に何かをもらうと、それを大切にしたくなる。捨てたくなくなる。
矛盾していた。でも、その矛盾が心地よかった。
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