(ルーク×ミチル)「風邪かもしれない」

 コホンコホンと可愛らしい咳が聞こえる。

 ルークが耳を澄ませて聞いていると、マスクをかけたミチルが現れた。


「ミチル? どうしたの?」


「うん……なんか、咳が出ちゃって」


 ミチルはその顔の下半分をマスクで隠しながら答えた。

 病気かもしれない、とルークは慌ててソファから立ち上がる。


「大丈夫? ミチル、熱ある?」


 ルークがその手を握るが、特別熱いとは感じなかった。

 ミチルも笑って首を振る。


「ないない。咳が出るだけで、あとは元気」


「ほんとに?」


 おでこに手を当ててみても、熱はなさそうだった。

 それでルークは少し安心する。


「ね、ないでしょ?」


 ミチルは笑っているが、その口元が見えないので笑顔が儚く見える。

 そう思ってしまうと、重病なのに心配をかけまいとしているようにも見えた。



 

「でもミチル、これから熱出る、かもしれないよ?」


 ルークが再度心配すると、ミチルはうーんと考えた後、閃いたように答えた。


「最近風が強くて、家に砂がよく入るからじゃないかなあ?」


 ルークの家は砂漠の中にある。生まれた時からここで暮らすルークにはままあることでも、ミチルはそうもいかない。

 そしてミチルのその結論は、更にルークを追いつめるのだった。


「ああ、砂漠の誇り高き砂、ミチルにとって良くない? ごめんね」


「ええっ? ルーくんが謝る必要なくない?」


 ますます眉を下げるルークにミチルは面食らった。心配させたくなかっただけなのに、余計にルークを落ち込ませてしまった。


「ううん、砂漠の砂、ぼくの……ラーウスの誇り。でも、ミチルに合わない……悲しい……」


「いやいやいや、違うよ? 普段は大丈夫よ? 今日だけ、今日だけ風が強くてだね?」


 まるで怒られて落ち込んだワンコのよう。

 シュンとなってしまったルークに、ミチルはオロオロしながら弁解した。


「ほんと……?」


 キュウン……と鳴き声が聞こえるような、ワンワンポーズ!

 か、かわゆい! ミチルの心臓は弾け飛ぶ。


 こんな純真なルークを悲しませてはならない!

 ミチルは意を決して仮病を使うことにした。



 

「あ、ああ、ルークぅ……」


「ミチル?」


 よろめくミチルをルークがしっかりと抱きかかえる。


「やっぱりオレ、風邪だと思うよぉ……砂埃が喉にひっかかるんじゃなくて、風邪だったんだよぉ」


 ルークが悲しまない方が大事!


「ああ、ミチル、大変。ベッドで横になろ?」


 そう言いながらルークは実に軽やかにミチルをお姫様抱っこする。


「ありがと、ルークくぅん……♡」


 風が強い日は風邪を引くしかなくなったミチル。

 だが、それはそれでルークと甘い時間が過ごせる。


 ごめんね、ルーク♡

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