王立学園 幽霊事件―②
「特例で、すぐに魔法士検定を受けられることになったんだ」
シャルルの
「父上も大臣ヅラして報告会に
ソファに落ちついたシャルルは、思い出して、くすくすと笑う。
シャルルの父親は財務大臣である。シャルルが魔法士になることを快く思っていない。
「魔法士検定はたしか、年に1度、8月に
もの知りのバンジャマンが言った。
「高校生でも受けられるのか?」
ほとんど魔法の適性がないドリアンが疑問を口にした。
「年齢制限はないよ。国家資格だから、身元保証は必要だが」
魔法学の教師、ウジェーヌが答えた。
「へえ〜」
みな、なんとなく反応がうすい。
どう
「それだけ喜ぶということは、シャルルくんは、ずっと魔法士検定を受けたかったのね?」
ほとんど親しくもないはずのきららが、さくっと聞いた。
シャルルが、きららをちらりと見た。
「うん」
シャルルはこくんとうなずいた。
「うん、ぼくは、魔法士になりたかったんだ」
シャルルは、静かに、はっきりと答えた。
中等部のころからの友人たちにとっても初耳だった。
シャルルは、親しい友人たちにすら、そんな
だから、少年たちはとても驚いた。
けれど、その驚きよりも深く、シャルルの短いことばは、彼らの胸を打った。
シャルルは、ドール王国民が建国の祭礼で着る「
紋は、伯爵家ならふつうは家紋をつけるところだが、シャルルのは、ドール王国の象徴である
戦場から、直接、ソワレ家に転がりこんだシャルルは、実家に帰っていない。
衣装はソワレ家からの提供である。
アッシュグレーの髪は、あごの下でさっぱりと切りそろえられ、あいかわらずの貴公子ぶりであった。
見なれた友人の姿だった。
ただ、以前と明らかに何かが変わっていた。
「そうなんだ。よかったわね、シャルルくん」
きららが無邪気に言った。
「受かるといいな!」
アリスティドが笑顔で言った。
「難関らしいが、試験対策は間に合いそうか」
バンジャマンが心配した。
「応援している」
ドリアンがはげました。
「良い結果が出るよう、祈っております」
エルがひかえめに言った。
「お兄さまにあれだけべったりくっついて習っているのだから、落ちるわけないわ」
リュンヌが、すまし顔で言った。
「あぁ、なーんだ、リュンリュン、家ではやたらぼくにツンツンしてくると思ったら、先生を取られてやきもちをやいていたのか」
シャルルが納得したように言った。
「シャルルくんは、明日の朝いちばんに追い出……、送り出すよ」
ウジェーヌがリュンヌに笑いかけた。
「ひどすぎない……?」
シャルルが助けを求めて友人たちを見たが、
「当然だろう」
とドリアンが冷たく答え、
「しかたないよ」
ほかの友人3人も、ドリアンの味方をした。
***
「そう言えば、幽霊の話がまだすんでなかった。エル、聞かせてくれないか」
アリスティドが、ふと思い出した。
ウジェーヌが提供された紅茶に口をつけ、おや、これは、というふうに、わずかに目をみはる。
シャルルは、自分好みにミルクをたっぷり注いでいる。
「先月の
エルも席について、紅茶を味わった。
(われながらじょうずに
エルは満足した。
「魔物は本能的に光の
バンジャマンが、己の不明を恥じた。
「きらら、〈門〉にどこか不自然なところはなかったのかい」
アリスティドがきららに問いかけた。
「いま思い出したけれど、あのあと、司祭さまからも同じ質問をされたわ。そのときは、特に何も気づきませんでした、とわたしは答えたのね。あんな大きな〈門〉は初めて見たし、閉じるだけで必死だったから。でもそうね……、あえて言うとすれば……、人工物のような? いつもの〈門〉が、ほつれや破れみたいな穴だとすると、あれは人の手を使って掘ったように、どこか意図的な形をしていたかもしれない」
きららは自信なさげに答えた。
ウジェーヌのティーカップが、かしゃんと音を立てた。
みな驚いて、年長の貴公子の方を見た。
「失礼。魔法学上、とても興味深い意見だったもので」
ウジェーヌが、おだやかに言った。
シャルルが、
「先生は光魔法も闇魔法も使えるんだよ」
と、えらそうにつけ足した。
「あいにく、光魔法のほうは
「えっ、ソワレ先生、光魔法が使えるのですか!? それなら今からでもわたしと一緒にお勉強しませんか?」
きららが、まんざら冗談でもないようすで誘う。
「今からリュンリュンと離れてルミヌ教団で? ムリムリ」
シャルルが顔の前で手を振った。
「うん、無理だね!」
と、アリスティドが断言する。
「無理だろう」
バンジャマンも同意する。
「無理だな」
ドリアンも小さくため息をつく。
「無理でしょうね」
エルも苦笑いを浮かべた。
「きみたち、いったいわたしのことをどんな目で見ているんだい?」
ウジェーヌがあきれ顔をする。
少年5人の頭に同時に浮かんだその4文字の単語を、口にする勇気のあるものはいなかった。
シスコン。
「さて、そこで、
エルが、話をもどした。
「なぜ……」
リュンヌがかすれた声でつぶやいた。
ひどく青ざめている。
「申し訳ありません。ご令嬢にお聞かせするお話ではなかったようです」
エルがあわてて
「いいえ。――いいえ、いいの、続けて。わたくしにも、紅茶をいただける?
リュンヌが、口元にひきつった笑みを浮かべた。
「……結局、たまたま礼拝堂で祈りをささげていた男子生徒が、運悪く巻きこまれたのだろうということになったらしいです」
エルが、リュンヌに心配そうな視線を送りながら、話を続けた。
リュンヌの紅茶は、まるで
「その生徒の幽霊が出ているわけか」
バンジャマンが確認した。
「大蛇騒ぎのあと、学園は休校になりましたので、生徒たちのあいだにこの情報はまだ出回っていません。うわさの出どころは、工事関係者です。調査がおわり、礼拝堂の取り壊しがはじまってから、幽霊が目撃されるようになりました」
エルが説明した。
「すまないが」
ふたりがけのソファにリュンヌと並んで座っていたドリアンに、ウジェーヌが声をかけた。
「いえ」
ドリアンはおとなしく席をゆずった。
「おかしいな」
アリスティドが首をかしげた。
「どうして、その生徒は、礼拝堂にいたんだ」
「お祈りだろう? もしくは、ひとりになりたかったとか」
シャルルが言う。
「そうか」
ドリアンが気づいた。
「あの日、病気で休んでいたものや、シャルルのように学外に出ていたもの以外、つまりほとんどすべての生徒は、講堂に集まっていたはずだ! アーブル子爵の講演会に参加するために」
「興味のない子もいたのでは?」
個人の
「それはないだろう。あんな特別な機会を逃そうとするヘンクツな生徒なんて考えられない」
バンジャマンが否定する。
「そうだ。ならば、どうしてその中学生は、あの日、あの時、礼拝堂にいたんだ? これは、ちょっとしたミステリーだよ」
アリスティドの疑問は、この場にいた者たちの疑問となった。
ただふたり――、ソワレ兄妹を除いて。
――――――――――――――――――――――
【脚注】運悪く巻き込まれた男子生徒
第5章 月は真昼に②をご参照ください
https://kakuyomu.jp/works/16818622176221417372/episodes/16818622177595349136
「こちらに渡って、すぐそばにいた小さき者を、一匹食べたきりだ。
うまかった。」
↑このくだりです。蛇の被害者は1名いたのです。
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【登場人物紹介・簡易版】
きらら……ヒロイン①
異世界転移・光の乙女
リュンヌ……ヒロイン②
負け戻り令嬢・人生2度め
アリスティド(A)……王太子
バンジャマン(B)……眼鏡
シャルル(C)……魔法使い
ドリアン(D)……剣士
エル……A王太子の側仕え
ウジェーヌ……Cの魔法の師・ヒロイン②の兄・シスコン
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💫次回更新予定💫
2025年10月30日 木曜日 午前6時46分
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