第八話・擬人化した器物も百合の夢を見るのか?

 その日──湯琉 ユリは、チョコレートを食べながら。

 さまざまな召喚転移に使える、汎用トンネルの管理者と話し合っていた。

「器物の擬人化ですか? やったコトはありませんけれど……理論的には可能だと思います……モノに強い言霊が宿っていれば」


「それじゃあやってみてーっ、あたしが許可するから」

「許可されても、そう簡単には」


 管理者が言うには、擬人化できるモノとできないモノがあって、さらには器物にもオスとメスがあるらしい。


 ユリが言った。

「じゃあ、擬人化するモノを集めてきたら、やってくれる?」

「まっ、集まったら」

「わかったマツリ、擬人化可能なものを集めるよーっ」

「承知しました、ユリさま」

 玉依たまより マツリは無意識のクセで、ユリに警察的な敬礼をした。


  ◇◇◇◇◇◇


 ユリとマツリは最初に、百合研究所の食堂に行って厨房ちゅうぼうをウロウロした。

「包丁なんてどう?」

「刃物系はどうですかね? オスっぽくて少し危険な気配もしますが」

「そっか、食べ物とか調味料もオスかメスか、判別できないしーっ……食べ物は擬人化しても腐るしぃ」

「絹ごし豆腐とかは、女性的ですけれどね……豆腐が百合かと問われると、ちょっと」

「コンニャクはどう?」

「完全にオスです」


  ◇◇◇◇◇◇


 二人は医務室にやって来てメス的で百合化しそうなモノを探す。

「女医の白衣コートなんてどう?」

「いいんじゃないですか……百合っぽくて」

「医療器具とか、薬剤は判別が難しいわね……第一、擬人化するかどうか」

「実験室にある、試験管は?」

「形状から見て……オスですね」

「フラスコとかは?」

「メスっぽいですけれど……アレが百合かと聞かれたら?」


  ◇◇◇◇◇◇


 その後も二人は歩き回って、メスに擬人化しやすく百合になりそうなモノを探した。

「生花は枯れてババイになるのが早いから、持ってくるのは、やめてくれって管理者から言われた」

「農具とか工具も……どんな擬人化するか、わからないと」


  ◇◇◇◇◇◇


 数種類の物品を箱に入れて、トンネル責任者の所に二人は持っていった。

 管理者は、持ってきた物品を一つ一つ手にして判別する。

「ずいぶんと、集めましたね……とりあえずは、やってみますが……生き物は却下です」

 トンネルの中に物品を置いて、スイッチを入れると稲妻が走り霧が漂う。

 霧が晴れるとそこに、置いた状態の消しゴムが残っていた。

「使った消しゴムはダメでしたね……念がこもっていない」


 次々と試すが、擬人化しなかったり、器物怪の妖怪化するモノがほとんどだった。

 最後になって、女医が使っていた白衣コートがトンネルに入れられ、スイッチが入った。

 稲妻が走ると白衣コートは燃え上がった。

「根性が足りない! ダメじゃん白衣コートの擬人化……一番期待していたのに」


 すべての物品の擬人化が失敗して、意気消沈する管理者とマツリ。

 ユリが穿いていた女性下着のパンツを生脱ぎして、管理者に渡して言った。

「今朝穿いてきたパンツ……最後はそれで、試してみてーぃ」


 パンツがトンネル内に置かれ、スイッチが入れられる。

 稲妻と霧の中で、何かが動く気配がした。

 そして、霧の中からパンツ一丁の女が現れた。

「やったぁ! 擬人化したぞ! でも百合じゃないと成功したとは」

 トンネルから出てきた、パンツ姿の女はマツリに近づくと、微笑みながらマツリの唇を奪う。

「うふふっ、可愛い」

 妖艶ようえんなキスをしている、二人を見て。

 ノーパンのユリは歓喜する。

「やったぁぁ、あたしのパンツが擬人化して、エロ百合が誕生した!」


 また一歩、百合島2は百合の薬園に近づいた。

 

  ◆◆◆◆◆◆


 その夜──誰もいない汎用トンネルの部屋で、勝手に配線が入れ替わり、稼動したトンネルから何者かが現れた。

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