第一章を通して、静かで繊細な筆致のなかに、強い想いがこもった物語でした。
詩乃という少女の心の揺らぎと成長、そして“人として生きること”を取り戻そうとする姿がとても丁寧に描かれていて、読むほどに引き込まれました。
日常のやさしさと、過去から続く影の重さ。その両方が対比されるからこそ、怒りや哀しみの描写が胸に刺さります。
中尉との絆、喪失、そして決意――
とくに最終話では、感情が静かに爆発するような場面が続き、気づけば涙が浮かんでいました。
ただの復讐劇ではなく、詩乃という少女の魂の軌跡として、とても大切な物語だと思います。
大東亜戦争が1942年に終結した世界。
市井のひとびと日々の生活を営む2040年代を舞台に、裏社会の産物である主人公女子が個人的恨(はん)を動力に国家レベルの謀略へと巻き込まれていく(のではないかと思われる)ハードミステリーです。
はっきりいって、web小説のレベルではありません。暗殺者スキルを持ちJKがわちゃわちゃするだけのお話しをお望みの方は踵を返した方がいい。ちゃんとした覚悟を持って読み進めていただければ、その先にあるなにかに触れることができるかも知れない。そんな期待を抱かせてくれます。
この作品がエタらないことを切に願う次第です。
その女は、赤い絨毯を濡らすように歩いてきた。
ポーランド・ワルシャワ、選ばれし者しか入れぬ会員制サロンに。
透けるヴェールの奥で揺れる瞳は、静かに燃えていた。
正体不明、ただ一つ確かなのは、
彼女の目的は「真実」を暴くこと。
それも、最も醜く、最も見たくない世界の闇を。
一方、満州・花影台。
小さなケーキを囲むはずの誕生日に、玄関先で家族は脅される。
笑顔の裏に隠された「過去」の扉が、いま開きかけている。
雨は、止まない。
そして、日常は、もう戻らない。
商店街の片隅では、制服を洗えず学校を休んだ少女が、
もう一人の母親を、もう一度立たせようとしていた。
泣いている背中に手を添えるその姿に、誰もが目を奪われる。
なぜなら彼女は、どこにいても、誰よりも真っすぐだから。
だが、次の瞬間――
裏路地で、暴力が振るわれていた。
誰かが声をあげなければ、誰かが止めなければ、
傷ついた人間たちは、ずっと声を上げられないまま、潰されていく。
だから、少女は踏み出す。
制服のまま、拳を握りしめて。
それが、どれほど重い意味を持つかを知りながら。
これはただの「強さ」の物語じゃない。
これは、優しさが力を持ち始めた時代の、始まりの物語。