第7話 逃げちゃダメだ・・・
「お嬢様、こちら例のものでございます。」
「何その口調・・・というか例のものって?」
「それは開けてみてからのお楽しみでございます。」
「ねぇキモいからやめてそれ。変に声作ってるせいで余計にキモいし。」
「ハイ・・・。」
6月も終わり7月になった今日この頃。学校から帰って着替えを済ませた妹に俺はとあるものを渡していた。
い、一応この口調なのにも理由はあるんだからね!ただのキモいやつじゃないんだからね!・・・俺は一体誰と話しているんだろう・・・。
「・・・チョコケーキ?私頼んでたっけ。」
「ほら、収益化記念配信の時言ってたろ。スパチャは俺の趣味とお前のデザートになるって。」
「あぁそういう。急に例のものって言われても分かんないよ・・・。ん、美味しい。」
「そりゃ良かった。ちょっと遠くまで買いに行った甲斐があるってもんだ。リスナーに感謝するんだぞ。」
「ファンネームで呼んであげなよ・・・まぁありがとうって言ってたって配信かなんかで伝えといて。」
「あいよー。・・・ところで少し相談があるんだけど。」
「どうしたの?」
「ほら・・・あれだよ。俺がやりたくないやつ。」
「・・・あーボイス販売のこと?ってかなんでそんな遠回しな言い方を・・・。」
だってやりたくないんだものはやりたくないんだもん・・・。でも数日前に事務所からお願いされちゃったからやるしかないんだよ!・・・まぁ断っても良いって言われたんだけどね。流石に要望の声が一定数いるし企業Vな以上いつかはやるんだし早い内になれておこうという思考。後、少し生々しい言い方をするなら金と他人からの評価が欲しい(白目)。
「さっきのエセ執事口調聞いてどう思ったよ。」
「え?そりゃキモいって思ったけど。」
「そんなこと言うなよ・・・いややっぱ言ってくれ。」
「えっもしかして罵って欲しいの?兄さんいつからそんなものに目覚めて・・・。」
「違う違うそうじゃない。自分じゃ自分の録音したボイスがどうとか判断するの難しいから手伝って欲しいの!忖度抜きで!」
マネさんとかに聞いてもらうのも考えたけど流石に恥ずかしいしあんまり積極的に否定的な意見を出してくれるとは思えなかったんだよな・・・。
「そ、そういうこと?びっくりした・・・もう少しまともなコミュニケーションとれないの・・・?」
「ごめんなさい・・・。」
「まぁ分かったよ。どうせ兄さんのことだしシチュエーションも私に任せるつもりなんでしょ?」
「か、考えはしたんだけどな?こういう経験がなかったしそれにノリノリで考えてくれてた可愛い妹がいたし?兄として妹のしたいことはさせてあげたい的な?」
「なんでそんな言い訳がましい言い方するの・・・。やっぱりやめようかな・・・。」
「ちょっと待ってごめんってぇ!」
人に頼み事をするときは素直にお願いしよう。俺との約束だぞ!
「あのさ・・・なんでそんな声だすかなぁ。」
「これでも結構頑張って声作ってるんですけど!?」
「いやだって・・・どう聞いても悪役の表の顔みたいな気持ち悪さと胡散臭さが・・・。」
「ヒドっ!?」
「感想を正直に言えって言ったのは兄さんでしょ・・・。」
「それはそうだけど・・・。」
だからと言っていざ言われるとなると中々に心に来るものがある・・・。
「というかそうだよ。なんで変に声作ろうとするの?兄さん素が良いんだからわざわざ声作ろうとしなくて良いって。」
「そんなもんなのかね・・・。」
「うーん・・・ほら、好きな人に向かって実際に喋るみたいな感じでさ。自然で良いの自然で。」
「好きな人?」
この場合多分恋愛的な意味のあれだとは思うんだが・・・いかんせんその感情を俺は知らない。好きな人か・・・。あ、目の前にいるじゃん。いつも通りね・・・よし。
「――――――・・・こんな感じ?」
「・・・やれば出来るじゃん。それでいいのそれで。」
「やればって言われても普通に言ってるだけなんだけどなぁ。・・・ん?どうしたそんな顔して。」
「いや・・・兄さんの好きな人ってどんな人なのかなって。」
「今のはお前のこと考えながら言ったけど。」
「・・・・・・・・・・・・はぁ。」
「なんでため息!?」
「何でもない。本当に兄さんが他人と交際する気がないってことだけは分かった。」
「おう、ないぞ。」
「断言するなバカ。いい加減身を固めなよ。まったくもう・・・。」
そう言いながらどこか嬉しそうな顔をしている、そう言うのはきっと野暮だろう。まったくこのブラコンめ・・・。
その後は特に何かを言われることもなくトントン拍子で進んでいき・・・。
「・・・うん。いいんじゃない?」
「終わったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・。」
やっぱしんどいよ。誰が好きであんな恥ずかしい台詞を言わなければいけないんだ・・・。本当に需要あるんだろうな?これで全く売れないとか言われたら泣くぞ?アラサーのおっさんがみっともなく泣いてしまわれるぞ?
「少なくとも欲しいって声はあるから心配しないで大丈夫だと思うよ。」
「だから簡単に兄の思考を読むんじゃない。」
「だからみっともなく泣こうとしないで。」
「なんでそこまで読めるんだよ!」
何度でも断言して見せよう。俺の妹は間違いなくブラコンだと!そうじゃなかったらこんなに読めるわけないだろうが!
「どうせ私がブラコンとかそんなこと考えてるんでしょ。」
「俺は怖いよ自分の妹が・・・。」
その日の内にボイスを提出しに行ったら今週中にはボイスの販売が始まるとのこと。えぇ・・・?仕事早いとかのレベルじゃないよ?うちの事務所よく有能って言われるけど流石にこれは度が過ぎてるだろ・・・。マネさん曰く「さっさと出して今月のマンスリーボイスにします。来月も頼みましたよ?」とのこと。あの・・・しれっと次回まで確定させないでくださいよ・・・。え?企業Vなんだから会社の意向には従えって?その通りですねハイ・・・。
販売開始から数日が経過した。SNSを見る感じ概ね高評価で何より。ただこの自分のあのボイスの感想を見ることに対する妙にぞわっとする感覚になれる日は来るのだろうか・・・。
_____________________________________
NEOLIVE総合スレ その7
156:名無しの権兵衛
今気付いたけど廃人ってボイス出してたんだな
157:名無しの権兵衛
そうやで
ちょうど今週の月曜から販売始まってる
158:名無しの権兵衛
男のボイスなんて買うやついるのか・・・?
159:名無しの権兵衛
まぁスレ民みたいなおっさんには分からない話だと思うが買いたくなる女性陣は結構いるんだぞ
160:名無しの権兵衛
なにおう!こちとらまだ20代前半の若者じゃい!
161:名無しの権兵衛
知ってるか
それから数年経つとアラサーって言われるんやで
162:名無しの権兵衛
やめろ言うなぁ!
163:名無しの権兵衛 ID:hakooshiman
なお収益の使い道
_____________________________________
黒切漣@ボイス販売、始めました@kurogiri_ren
配信内で言ったように収益の一部が妹のデザートになったことをここで報告する
追伸:妹曰く「ありがとう」とのこと
(写真)
_____________________________________
164:名無しの権兵衛
軽く調べたけどこのチョコケーキ一個5000円くらいのそこそこ良いやつでは?
165:名無しの権兵衛
なんならもう一個のマスカットもこの時期はまだ高いぞ
普通に数千円とかいくし
166:名無しの権兵衛
なんかスレで話題上がったからボイスの感想XXに投稿してるやついたから見たけど案外好評なのな
167:名無しの権兵衛
まー廃人声は良いし別に意外ってほどじゃない
168:名無しの権兵衛
一方その頃サリーとアイリーンはカラオケに行っていたのである
_____________________________________
来栖愛梨@カラオケデート!@kurusu_airi
サリーとカラオケデート行ってきた!
歌声独り占めできて大変満足です
_____________________________________
狭霧紗良@5万人ありがとう!@sagiri_sara
来栖先輩とカラオケ行きました
個人的には100点取れて大満足
_____________________________________
169:名無しの権兵衛
アイリーンウッキウキで草
170:名無しの権兵衛
アイリーンで思ったけどサリーってあだ名つけたのって自分が王女にアイリーンってつけられたからじゃ?
171:名無しの権兵衛
巻き込みたかったんじゃね?知らんけど
アイリーンって言われるの嫌って言ってるし
172:名無しの権兵衛
今でもアイリーンって初めて呼ばれたときのあの戸惑った顔が思い出せる
173:名無しの権兵衛
結局公認になるとこまでサリーのと一緒なんだよなぁ
174:名無しの権兵衛
寧ろそれを知っててサリーが合わせた説
あると思います
175:名無しの権兵衛 ID:hakooshiman
ん?
_____________________________________
狭霧紗良@5万人ありがとう!@sagiri_sara
あっ、そうそう黒切さん(@kurogiri_ren)のボイス幸せでした
来月も待ってます
_____________________________________
黒切漣@ボイス販売、始めました@kurogiri_ren
ハイ・・・
_____________________________________
来栖愛梨@カラオケデート!@kurusu_airi
私の隣で男の話をするなぁ!
_____________________________________
176:名無しの権兵衛
草
177:名無しの権兵衛
あっ・・・
178:名無しの権兵衛
なんだろう、確信めいたものを感じる
179:名無しの権兵衛
来るぞ遊馬!
180:名無しの権兵衛 ID:eternalfan
ワイの推しを何たぶらかしとんじゃあ!
181:名無しの権兵衛
そもきっかけはコラボ雑談だから特に違和感はないのでは・・・
182:名無しの権兵衛
角が生えてるだけの馬にそんなことが分かるわけなかろうて
183:名無しの権兵衛
なんかもうこれがデフォになってない・・・?大丈夫?
_____________________________________
レビューの星の数500行きました。圧倒的感謝。
応援数(ハート)ももうちょいで1000行きそう。そんなわけで今回もよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます