勇者になりたかったのに魔王に転生!?ピンチの中『覚醒』チートスキルで可愛い美女メイドと共に成り上がる。~ついで美少女四天王達と世直し始めます~
中山 墨
第1話 引きこもりのおっさん、異世界に転生する
「見慣れた天井だな」
今日も変わらない目の前の景色に眉を潜めながら、寝台に大の字になってぼそりと呟く。無駄にカッコつけて、っぽい言葉を呟いてみたけど、空しいだけだった。
「総哉! あんた、いつまで寝てんだい? このボケカスが! 朝食できてんだからさっさと階段降りてきな! 味噌汁が覚めるだろがタコ!」
鬼母が下の階から鬼の角を大きくして吠えている。
仕方あるまい。俺は、左腕をお凸に付ける。視界が暗くなり、カーテンを閉めた窓から覗く陽光が顔を照らすのを遮った。
朝なんか来なきゃいい。俺は、夜行性なんだ。午後8時を過ぎれば、俺が待ち焦がれる仲間との
何のゲームをやってるかって?そのゲームの名を
まあ、それが長く続くオンラインゲームの宿命である。色々話が脱線することがあるが、それを差し引いても、ユーザーの間では、物語が面白いと評判であった。加えて、プレイヤー同士でのチャット機能が豊富で、そのネット内の会話が楽しいと好評でもあった。
その物語の面白さに魅せられ、俺は寝食忘れてゲームに没頭した。気づけば、通学していた大学の単位が足りず、両親にこっ酷く怒られた。そのまま大学を中退したが、後悔は無い。
俺の生きる世界は、眼前に広がるTVの中にあった。最初鬼母は反対し、俺をタコ殴りにしたが、それに屈する俺ではなかった。やがて、諦められて現在に至る。
それでも、午前6時30分の定められた時間に、朝食に出向かなければドタドタと階段を上がってきて、まるでポルターガイストの如く俺の部屋のドアノブをガチャガチャと回して、扉をこじ開け、某アニメのように画面一杯に拳骨の文字が浮かび上がる。
母親としての体裁を保つ為のささやかな抵抗なのだろう。べ、べつに痛くも痒くもないが、これからも親と良好な関係でいる為に、こちらが折れてやることにした。
本当は、電脳世界での激闘を終えたその身を休ませてやりたいのだが仕方あるまい。
寝台から跳ね起き、下の階に向かった。そこには、椅子にどっしり座り、新聞を広げて、難しい顔をする鬼母の姿があった。
「私はこの後、仕事に行くけど。あんた、朝飯の片付けくらいやっといてくんない? 引きこもりのあんたでもそれくらい出来るでしょ?」
「ああ、当たり前だ。任せろ!」
俺は、拳を作り、胸をどんと叩く。そんな俺の姿を鬼母は怪訝な顔で見つめる。『何イキってんだ、こいつ?』という心の声が聞こえてきそうだが、無視して味噌汁を啜る。
「ご馳走様でした」
パンと音が鳴る程に手を合わせ足早にリビングを出て、階段を上がる。朝食を共にするという鬼母との
先程、鬼母も言っていたが、俺は現在、職についておらず、さらに引きこもりである。大学を中退した後からずっとそうだ。だが、勘違いしてもらっては困る。俺は、自身の部屋に籠りっきりではなく、屋内を自由に移動することが出来る。そればかりか、家事の手伝いもして、あのやたら沸点の低い鬼母に貢献しているのだ。
俺は、寝台の中で、腕を組み、誇らしげにニマっと笑ってみたが、空しくなったのですぐやめた。そして、再度片腕をお凸に付けてぼんやりと天井を見上げる。
外出を恐ろしく感じるようになったのは何時頃からだったろうか?正確に数えてないが、恐らく10年は屋内から出たことはない。試したことはあったが、前に出す足先が震え、眩暈がした。世界がぐにゃっと捻じ曲がり、立つことも困難になる。結局外には一歩も踏み出すことは出来なかった。
いや何を悲観する必要があるか?
ああ、この世界は俺を中心に回っているのだと気持ちよく錯覚できる。俺は寝転がりながら右手を真っすぐ伸ばし天井に設置された照明を掴もうとする。しかし、当然だが、空しく空ぶる。
何にも深く考える必要はないか。あの電脳世界では俺は
その後、何も考えずに爆睡した。夕食は、あの鬼母とは顔を合わせず、自室で食べる。さて、只今の時刻19時25分。俺の輝かしい
その前に軽く風呂でも入ってこようかな。
俺は、鬼母と鉢合わせないように、そろりと浴室へ足を向けた。手前の洗面室で服を脱ぐ。自慢じやないが、とても立派でふくよかな体だ。腹太鼓のようにポンと腹を鳴らす。そして浴室に入る。いつもは、軽いシャワーで終わらせるのだが、今日はゆっくり湯舟に浸かりたい気分だった。湯舟に浸かっていると、軽く震えがした。
やべえ、便所いきたい‥‥‥。猛烈に尿意が近くなる。我慢できると高を括っていた。ふっ甘い判断だったかな。
などど、カッコつけていると一気に膀胱が限界が近づいた。
「はうあぁ~!」
奇声を発しながら何とか浴槽から出たが、両手で下半身を押さえ、思うように歩けない。つま先立ちで情けなくちょこちょこ歩きながら、浴室を出ようとした。
その時―――
急に重力を失う。視界が急激に変化し、気づけば洋室の照明を見つめていた。そして、後頭部に鈍い痛みを覚えた。
どうやら、浴室の床に足が滑って壮大にすっ転んだようだ。だが、それを意識する暇もなく俺は、後頭部を強打し、死亡した。
その時、今まで抑えていた膀胱が限界を迎え、一気に
「う、うん?」
意識を取り戻し、ゆっくり目を開ける。そして、異変に気付く。
な、何だ、見慣れた天井‥‥‥じゃない。空だ。一面透き通った青い空だ。ふと横を見ると驚き、思わず悲鳴を上げ、立ち上がった。
俺は今、ふわふわした白雲の上に立っている。こ、これは、もしかしなくても天国というやつか。というか、俺は死んだんだな。死ぬ直前だったので、衣類は何も来ておらず、裸だった。
暫く下半身を両手で隠していると神々しい光を纏い、神と思わしき人物が現れた。
一目で神だと見抜けるような純白の衣を纏いて、輝く金の扇子を手に持ち、只者でなない雰囲気を全身に漂わせた老いぼれ爺だ。
おま、そこは、爆乳の美少女の登場だろ!と酷く落胆したが表情には見せなかった。
「悪かったな。現れたのが、こんな老いぼれじじいで」
え、心の内読まれた?驚き、一瞬声を上げそうになる。だが、目の前の神様は俺の無礼をあまり気にしていない様子で、軽く咳払いしただけだった。
「とりあえず、これを羽織ってくれんか? いつまでも、お主もすっ裸のままでいるのは辛いじゃろう」
神様は、いつの間にか純白のローブを手にし、俺に差し出した。俺はおずおずとそのローブを受け取り、軽く羽織る。絹のように軽く、肌触りが良い代物だった。
「お心遣い感謝いたします」
この爺さんが神様なのは理解できるが、まだ、何が目的でここにいるのか分からない。でも、優しさを感じるし、悪い者ではないのだろう。俺は、精一杯の礼の言葉を述べた。
「ふう、それにしても天空は暑いのお。お主も、そうは思わぬか?」
不意に、神様は扇子を広げると、パタパタと扇ぎ始めた。
そりゃあ、そんな禿げてたらなあ。サイドとインナー部分には、立派な髪が残っていて、白髪が背中まで伸び、後ろで軽く結んでいる。おまけに白く長く伸びた顎髭も重なって、そこだけ見れば、有名なファンタジー小説に描かれる大賢者のように見えなくもない。
だがしかし、サイドとインナー部分から上は、一切草木が無い荒地のようで、容赦ない陽光の紫外線をもろに受け、光り輝いている。
「言っとくけど、心の内は聞こえているからな」
目を細めて、真っ白な顎髭をなでながら、神様はぼそりと呟いた。
はっしまった!この禿げ爺さんが心を読めるのをすっかり忘れていた。神様の険しい表情に強張ったが、目の前の爺さんはふうっと溜息を吐くと、度重なる俺の無礼を何でもないかのように、話を切り出した。
「本題に入ろう。お主は、現世界で死んだ。死んだ原因は、うっかり風呂場で足を滑らし、後頭部を強打したこと。何とも呆気なく、間抜けな死に様じゃのう。まあ、死に方などどうでも良い。重要なのは、お主が、転生者として儂に選ばれたことじゃ」
無様な死に方で悪かったな!この爺さんの言葉に一瞬腹を立てたが、続く転生者という単語に俺は興味を持った。
転生者とは、まさかあれか?ひょっとして異世界転生というやつか?
俺の頭の中に浮かんだ疑問にそのまま神様は『うむ』と無言で頷く。まじか!こんなことってあるのか?生前の電脳世界に入り浸る生活に不満があった訳ではない。それでも、もっと他の道もあったのではないかと思案する時もあった。そんな俺の後悔を神様は聞き入れ、チャンスを与えてくれただろうか?
「言っとくけど、そんな大層な理由じゃあない。転生者は毎回、定期的にくじ引きで決まる。お主は運が良かっただけじゃ」
「だから、一々心の内を読むのやめてくれませんか?」
思わず、ツッコんでしまった。しかも、くじ引きって‥‥‥。唖然として阿呆のように口を開けっぱなしにしている俺を他所に、禿げ爺さんは言葉を続ける。
「それで、お主に転生してもらう世界についてじゃ。それは、お主も見知った剣と魔法のある世界」
剣と魔法!この言葉に俺は目を輝かせた。いいね、いいね!異世界転生物らしくなってきた!一人で勝手に盛り上がり、きゃっほーと声を上げるが、神様に白い目で見られたので、やめる。
「も、もしかして、俺が生前没頭していた
異世界転生物は自身がプレイしていたゲームの世界に転生するというのが一つの定番になっている。俺もその例に漏れず、課金しまくって最強になった自分の分身に転生出来るのではないかと期待に胸を膨らませていた。
「残念ながら違う。‥‥‥まあ、似たような世界観ではあるな」
なんだ、違うのか。顎に手を当てて、さらっと俺の期待を裏切る神様の前で、はあっと落胆の溜息を吐いた。神様はそんな俺の顔を見ると、キラっと目を光らせて言葉を付け加える。
「だが、幾つかボーナス得点を与える。転生した者の肉体を限界を超えて、強化してやろう。ゲーム好きなお主が好きそうな強くてニューゲームというやつじゃ。さらに、一つ強力なスキルもお主に授けよう。どうじゃ?」
おお!チートスキル!最高じゃないか!暗い顔が一気に明るくなる。すっかり機嫌が良くなった俺を見て、神様は小さく頷いた。
「ではこれから、チートスキル付与スーパーフィーバータイムを始める!」
当然、カッと目を見開き、両手を上げて禿げ爺さんが唸ると、白雲の下から黄金に光り輝くスロット台がゆっくりと出現し始めた。ふう!、ふう!と掛け声と共に神様がいつの間にか手に持ったマラカスをしゃかしゃかを振っている。随分と陽気なジジイだな。
ていうか、スロット台ってことは、もしかして―――
「‥‥‥スキルって自由に選ばせてくれないの?」
「当たり前じゃ。それじゃ、ちっとつまらんじゃろ?」
神様が俺の目の前に人差し指を立てて、ちっちっちっと指を左右に振る。
う、うぜぇ~‥‥‥。
納得いかない表情を浮かべていた俺を、禿げ爺さんはさらに煽る。
「不満があるのは分かる。以前、この天界に召喚した転生者は皆、自由にスキルを選択させておった。ところが、ある転生者は転生先に所持するスキルを長い間選び悩んでおった。その期間、なんと1週間! あまりの長さに、儂は白雲の上で寝転がり、鼻くそをほじることしかやることがなかった」
と今まさに、鼻くそをほじりながら、目の前の老人は淡々と説明する。
「以下に寛大な儂でも、そこまで待ってやることはできんのじゃ。そこで、その転生者以降は、チャチャっと終わらせる為にお前達に馴染み深い
腹は立ったが、このじじいの言い分は理解出来た。確かに俺がこのじじいの立場なら、その相手にはさっさと決断しろや、ボケ!と頬を平手打ちしたことだろう。腕を組み、渋々だが、じじいの言い訳を了承した。
俺は、改めてスロット台を眺めてみる。外観は派手な黄金で出来ているが、現実世界で見かける物と仕組みは殆ど同じだった。、しかし、ストップボタンが一つしか見当たらない。
「一つストップボタンを押せば、全ての図柄が一斉に止まる。簡単じゃろう? 始めたければ、その横のスタートレバーを引くんじゃ」
じじいに言われるがままにスタートレバーを引く。すると、三列のリールが高速回転し始めた。そのあまりの速さに俺は驚いた。目はいい方だと自負していたので、自分の好きなスキルを目押しできないかと思案していた。だが、超高速回転するリールを目の前に、それは甘い考えだったと思い知る。
「さあ、総哉選手! 一体どんなスキルを引き当てるのかー!?」
最早、最初の威厳のある大賢者の立ち振る舞いは完全に消え、キャラブレを起こし、ただの面白爺さんと化した神様の姿を横目に見る。
ちょっと黙っててくれないかなあ‥‥‥。内心そう思いながら、黄金のスロット台と睨めっこしていた。目押しできないならもう適当に押すしかないな。高速回転しすぎて、図柄が全く分からないし。全てチートスキルならどれを当てても損にはならないだろう。
「えい!」
勢いよくストップボタンを押す。すると回転するリールが徐々に速度を落とし始める。やがて3つのリールが完全に停止し、一つの図柄を示した。
『覚醒』
そう表示された文字を俺はじっと見つめる。
お、おおぉー!!これはなかなか神スキルを引き当てたんじゃなかろうか?ど、どうなんだ?禿げジジイに聞いてみるか?
「な、なあ、神様! これは中々良いスキルなんじゃないか?」
「うむ、お主は中々の運を持っているようじゃの」
ご満悦で、顎髭を撫でる禿げジジイ。俺は得意気になった。上機嫌で『覚醒』なるスキルの効果を聞いてみる。しかし、質問をしている最中に俺の真下に突如、黄金色の魔法陣が出現した。
「どうやら、時間のようじゃな。さらばじゃ、新たな転生者よ。お主がその卓越した能力を遺憾なく発揮し、生前では果たせなかった宿願を我物とする事を願おう」
自身のキャラ設定を唐突に思い出したかのように、威厳ある神の振りに戻る禿げジジイ。ちょっと待てよ、まだ『覚醒』のスキルについて説明してない!それに宿願て何だよ!
魔法陣が輝きを増し、思わず、目を瞑る。次に目に映ったのは、生前では見たことが無い、知らない漆黒の天井であった。
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