序章ー3:僕の名は

 自分とほぼ同じ身長の草食恐竜に似たモンスターをくわえて帰ってきた、いかつくてデカい青い地竜ドレイクを前にして、僕の心臓はバックバックだった。


 やばいどうしよ逃げたい今すぐここから!


 お母さんの胸に飛び込んで避難したいっ!!


 あっ、お母さんも地竜ドレイクだった。シット!!


 なんてことをあれこれグルグル考えてる間に僕の父親は、僕と、僕を抱える母・ハーリアのすぐそばまで来た。


「・・・・・・よく、成し遂げたな。」


 は?


 父親はその強面な顔とは真逆の、ものすごい穏やかな口調で妻を労った。


「おかえりなさいませ、お前様。」


『お前様』ってことはやっぱりこの人・・・いや竜か。が、僕のこの世界の父に当たるのか。


「狩りに出かけている間に生まれるとは・・・。出生を見届けることができなんだ。」


 父親は遠くを見て、僕が生まれる瞬間を見れなかったことをちょっと悔やんだ。


「ふふっ。この子ったら中々卵から出てきてくれなかったのですよ。なのでじれったくてなってしまってこっちから殻を破ってしまいました。」


赤ん坊ややこの内から外の世界の恐ろしさを知っておるとは・・・。賢き竜に育ちそうだ。」


 父親は僕をハーリアからそっと取り上げ、自分の下まで寄せてきた。


 穏やかながら鋭い眼光に睨まれ、僕は『きゅっ。』と口を結んだ。


「んんっ?泣かぬなこの子。険しい顔して俺を見ておるわい。」


 心ん中じゃ泣き叫びたくてたまらんねんこっちは・・・。


「ははっ。これは将来大物に育つ予感がするのぅ。」


 ならへんよ。


 こちとらうつ病持ちのお豆腐メンタルなんじゃい。なめんなよ!ちっとも誇れるもんじゃないけど・・・。


「うむっ!この子の名が決まった!!『リオル』!お前は『リオル』だ!!」


「響きが大変よき名でございます。一体どのような意味が込められておいでで?」


「勇ましく。それでいて理知ある竜に育ってほしいと願をかけた。オリワ族領領主・ルータスの息子リオルは、賢く勇敢な主君に育つぞぉ!!」


 父・ルータスは僕の首元をくわえて、家来たちに見せつけた。


「良き名でございますなぁ殿!!」


「はっはっ!将来お仕えするのが楽しみでございますなぁ~!」


 いやいや。そんな期待大にされて言われても困ります。


 僕には地竜ドレイクの殿様なんてとてもとても務まる気がないです・・・。


 普通の会社員ですら務まらなかったんですから・・・。


「さて!今宵は宴だ!長く卵を温めていたハーリアのためにステトノスを狩って参った。精を付けて子育てに励むがよい。」


「まぁ。それは大変嬉しゅうございます。」


 そこから僕、『折田 流一るいち』改め、『リオル』の誕生祭が盛大に行われた。


 ハーリアが噛んで与えくれたステトノスは・・・ちょっと美味しかった。馬刺しユッケみたいで。卵欲しかったな・・・。

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