序章:弱小地竜(ドレイク)一族編

序章ー1:ハロー竜生

 んっ、んんっ・・・。


 気付いたら僕は、薄明るい空間の中を覚ました。


 オレンジ色の光が心地いい・・・。


 陽の光なんだろうな。


 遠くで鳥のさえずりの声がくぐもって聞こえる。


 それになんだろう・・・。


 なんだかとっても、暖かい・・・。


 めっちゃ気持ちいいから、このまま寝ちゃおうかなぁ・・・。


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


 って、寝てる場合じゃないやんっ!!!


 僕確か車で事故ったよな!?


 なに呑気に寝ようとしてんねん!?


 うぇっ!?


 よくよく感じたらここ・・・すんごいドロドロするやんかっ!!!


 まっ、まさか・・・!!!どっかの貯水池に車落ちてもうたっ!?!?


 最悪っ!!!


 あ~なんでわき見運転なんかしちゃったんやろ・・・。


 昨日の睡眠導入剤切れてなかったかなぁ~・・・。


 会社になんて説明すりゃいいんだよ・・・。


「よそ見運転してドブ池にハマってしまいました。」って?


 絶対呆れられるかどやされるわ・・・。


 あ~でも・・・事故って大ケガしたら会社休めるか。


 そうしたら嫌でも休暇が取れる。


 これは神様からの啓示か・・・。


「もうお前は限界だからこうでもして休め。」って。


 じゃあ有り難く使わせてもらうとするかな・・・。


 あっ。


 車全損じゃん・・・。


 ど~しよ・・・まだローン100万近く残ってんのに・・・。


 新しい車も買わなきゃだし、そのローンも上乗せされるとすれば・・・。


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


 なんか眠くなってきたから、このままここで最期を迎えようかな・・・。


 はぁ~・・・。


 最期を迎えるのが、埼玉の山ん中の貯水池なんて・・・ホント、何だったんだろうなぁ~・・・。


 僕の人生・・・。


 でもまぁいいや。


 これでようやく・・・楽になれる。


 そう思った僕は、ドロドロの液体で満たされた車の中でゆっくり目をつむって、心を落ち着かせた。


 にしてもこの車・・・こんなにすべすべしてたっけ・・・?


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


 外から『ゴン!ゴン!』と断続的な音がして、僕は『ぱちっ!』と目を覚ました。


 え、なに?


 救助が来たってこと?


 それにしては早くないか?


 だって僕がここで起きてから、まだ1分くらいしか経ってないか?


 訝しんだその時、車の壁ごしに長い爪のようなシルエットが見えて、ドキっとした僕は首を後ろに引っ込ませた。


 と、次の瞬間、車の壁がまるで紙みたいに破かれて、僕は中の液体と一緒に外に投げ出された。


『ゴホッ・・・!!ゴホッ・・・!!』


 たっ、助かった・・・のか?


 中に溜まってた液体のせいで視界不良になった僕は、手で目をこすって救助してくれた人にお礼を言おうとした。


 そこで目に飛び込んだのは・・・。


 僕を穏やかな目で見る、全長15、6mはあるかと思う巨大なトカゲだった。


 なっ・・・なになになに!?!?!?


 急いで逃げようとした僕だったが、どういうことか走ることができない。


 恐怖で足が覚束ないわけじゃない。


 使のだ。


「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 前を見ると、自分と近くにいたトカゲに、まるで控えるように何匹もの大トカゲがいて、まるで歓声を上げるかのように吠えていた。


 なっ、何なんだよここ!?


 はっ、早く逃げ・・・え?


 その時僕は近くにあった産湯みたいな巨大な洗面器に自分の姿を映した。


 真っ赤な身体に三角形の頭。四本指に生えかけの爪に、ヘビのような目。


 僕は自分の置かれた状況をようやく理解した。


 僕・・・ドラゴンに転生しちゃった・・・。

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