第48話 13の夜

 私は次の休み時間にタケと、アッ君に誘われてた、駄菓子屋に行った。

 駄菓子屋に行くのは簡単だった。3組、つまり自分の教室の窓から外に出て、破れた金網をくぐって外に出れば隣の路地だった。



 既にみんな集まっていた。


「雨夜、おまえ、サッカー部来いや。楽しいで!」

 と、アッ君は私に言った。



 話を聞くと、いわゆる岡本軍団の殆どがサッカー部だった。


 しかも、3組のもうひとりの担任の池田という男の先生が担任だった。


 私はいつしか同じクラスの人よりも、サッカー部のメンバーとつるむようになっていた。


 放課後…。


 岡本軍団の数人がプールサイドの校舎裏に溜まっていた。


 原付きを動かそうとしていたのだ。

 壊れていたのか解らないけど、エンジンをかけようとみんな必死になっていた。



 夜。



 学園に戻っても私は隠れて煙草を吸うようになっていた。


 少し前に部屋替えがあり、尾崎君、田中君、鈴木君と同じ部屋になっていた。


 就寝後、階段の踊場の窓を開けて私はよく、煙草を吸った。


「何してるん?」


 いきなり声をかけられてびっくりした私は吸いかけの煙草を窓から捨てた。


 職員かと思ったら尾崎君だった。私はホッとして再び煙草を取り出して火を点けた。


「俺もちょうだいや。」

 と尾崎君は言った。


 尾崎君もサッカー部で学年が1コ下だったから岡本軍団には直接関係はなかったが、校舎裏の原付きのことを知っていて、煙草を吸いながら話していたら


「乗りたいなぁ。」

 という話になり

「原チャ探しに行こうか。」

 と、私は尾崎君を誘った。

「そんなもん何処にあんねんな。」

 と、尾崎君。

 私は

「どっかその辺探索してみよーや。」

 と、言った。



 結局、1階の階段の踊場の窓から外の塀を越えて脱出した。


 この前のような脱走ではないけど、ちょっとした冒険だった。

 バレたらヤバい!



 何分か歩いた。


 盗み方の知らない私達は、片っ端からハンドルロックのかかっていない原付きのキック部分を蹴りながら汗だくになりながら

「ハアハア」

 言いながら動く原付きを探した。





 どれくらい歩いたか解らない。

 TVとか色々捨ててありそうなトコでハンドルロックのかかっていない白い原付きを見つけた。


 私が、何度もキック部分を蹴っていたら…



 ぶぉ~ん…!!ブォーン!!ブーン!!

 と、音をたててエンジンが静寂を裂いた。


 私と、尾崎君はびっくりして辺りを見回したが、誰もいない。


「かかった!エンジンがかかったで!」

 まるで、クララが…クララが立った!みたいに言った

 私達は、たまたま、〇結してある原付きを見つけたのだった。


 私は、緊張のあまり、ハンドルを持って立ったままでシートに座っていない状態だったことを忘れていて、右手でアクセルを回してしまった。



 ブーン!!


 と原付きだけが走っていき、原付きは壁にぶつかって倒れた。


「ぎゃはは。雨夜君なにやってん!!アホちゃう~」

 と、尾崎君は大爆笑。


 原付きは壁にぶつかったショックでエンジンが止まっていた。


 今度は尾崎君がエンジンをかけた。

 そして、私は尾崎君の運転する原付きの後ろにまたがり、学園の近くまで戻ってきた。


 途中、カブに乗った警察に見つかった。

「うわっ!!ゴキ単や!!尾崎、頼むで。逃げてや。」

 と、私。

「そんな無茶言わんといてぇや。さっき初めて乗ったばっかりやで。」


 ゴキ単とは、ゴキブリみたいに急に出てくるバイクの警察だからゴキ単。


 私達は、原付きの初めてのスピード感と、警察の恐怖で涙をちょちょぎらせながら逃げた。



 逃げ切った私達は、学園の近くにある袋小路になった、人の来ないような空き地に原付きを隠すことにした。


「なぁ…。これ、どないしてエンジン切るん?」

 と、尾崎君。

「え…!?……さぁ…。」

 と、私。




 当然である。鍵のついていない原付きなのだから。

 慣れている人はマフラーの煙りが出るトコを塞いで止めるのだが、私達はまだ知らなかった。



「あ…、そうや!さっき壁にぶつけたら止まったし、なんか衝撃を与えたら止まるんちゃうん?」

 と、私。


 尾崎君は

「そうか…。頭えぇーなぁ。さすが雨夜君や。」


 頭が良いとは到底思えない発言だが…笑


 ガシャン!!


 尾崎君は原付きを倒した。


 ブ…ブ…ブ…ブ…ブ…



 止まりそうで、止まらない…。



「衝撃が足らんのんちゃう?」

 と、私。



 ガシャン…



 止まらない…。



「もっと衝撃与えなあかんわ。」


 と、私


 ガシャン…。


 ドガっ!


 止まらないから、蹴ったり、踏んだり……。



 ぷすん…プス…。


 …

 …。


「あ…。止まった。」

 と、私。


「壊れてんちゃう?」

 と尾崎君。

「大丈夫やろ。今日はもう帰っとこうや。」

 と、私。

「そやな。」

 と、尾崎君。


 私達は、学園を、出てきた時と同じように今度は入っていった。

 部屋に戻ると、私達が出たままになっていたから幸い見回りはなかったようだ。

 バレなかった。


 尾崎豊の『15の夜』ならぬ、私達の『13の夜』はこうしてはじまった!


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