第30章 世界市場への第一歩、そして職人の部屋
システムの案内通りに、すぐにプレイヤー画面を開き、《ワールドマーケット》のタブをクリックする。職業ショップのランキングの横にある【自分の店を開く】のボタンを選択した。
【まずは、店舗の名前を入力してください。
その後、販売する商品ジャンルを音声でお伝えください。
登録された商品はシステムにより自動で判別され、製作されたアイテムを自身のショップウィンドウにドラッグすることで販売可能になります。
販売時には価格の設定も行えます】
指示通りに、まずは決めた店名を入力する。続いて、「靴と回復用ハーブの販売を行います」と、はっきりと声に出して宣言した。
【おめでとうございます!
あなたの店舗が《ワールドマーケット》に登録されました!
これからは製作した商品を世界中のプレイヤーへ販売することが可能です。
他のショップの商品も自由に購入できます】
その瞬間、画面から色とりどりの蝶が舞い上がり、私の周りをふわりと囲んでから消えていった。どうやらこれは、店舗開設の成功を祝う演出らしい。
店の登録も済ませたところで、いよいよ靴の製作に取りかかる時が来た。
私は作業部屋へと足を踏み入れる。メアリーとベアトリクスも後をついてきて、中の様子に目を丸くしている。
「ここが……トーマス師匠と君が靴を作っていた場所なんだね」
「あの棚にあるの、素材?」
初めて見る部屋に、ふたりは興味津々であちこちに視線を走らせ、質問を次々に投げかけてくる。
私は部屋の中央にある作業台にある素材を指さしながら、それぞれの使い方を簡単に説明していった。もちろん、ふたりに作業を強いるつもりはないが、素材について少しでも知っておいてもらえれば、何かと役に立つはずだ。
ふと、部屋の壁に並ぶ棚と、棚に収められた箱が目に留まる。もしかすると、その中にはまだ使える皮素材が残っているかもしれない。
説明を一旦止めて、箱のある棚に向かい、一つひとつ作業台へと運び始めた。メアリーとベアトリクスも手伝ってくれる。
いくつかの箱には、NPCたちの名前が書かれている。ふたりも気づいたようで、名前に目をとめた。
「えっ、これ……私の名前?」
「もしかして、中には靴のサイズとか入ってるの?」
ふたりの好奇心はますます高まり、興味津々で私の手元を見守る。
「そう、今から見せるよ」
ナイフを手に取り、箱をひとつずつ開けていく。中には、紙と靴のデザイン図、そしてサイズや足形が描かれた記録が入っていた。
「わぁ……これ、師匠が描いたの? それとも君?」
ベアトリクスが、自分の靴型の図面を見つけて尋ねてきた。
「どちらも大きく関わってるよ。ふたりで作ったものだから」
そう答えながら、さらに残りの箱を調べていく。そして──ほっと胸をなでおろす。
師匠が消えてしまった時、素材まで消えてしまったのではと不安だった。けれど、その心配は杞憂だったようだ。棚の奥には、まだ数足分は作れるだけの革素材がしっかり残っていた。
「よし……これで準備は整った」
深く息を吸い、目の前の作業台に手を置く。
今こそ、職人としての第一歩を踏み出す時だ。
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