第15章 初めての「描写」スキルと自動で動く身体

「……“描写の達人”…?」




画面に突然現れたスキル通知に、思わず目を見開いてしまった。




スキル名の隣には「レベル1」と記されている。どうやらこれは成長型のスキルらしく、レベルが上がればさらに新しい効果が解放されるということだろうか。




「でも……“自動で体が動く”って、どういう意味なんだろう?」




説明によれば、自分が思い描いた靴のデザインを想像するだけで、体が勝手に動いて描いてくれるらしい。




――面白そうだ。




興味を抑えきれず、迷わずスキルアイコンをタップした瞬間、身体に奇妙な感覚が走った。




まるで全身がじんわりと痺れ、感覚が遠のくような……




「え、な、なにこれっ?」




そんな戸惑いの中、右手が勝手に動き始め、机の上に置いた鉛筆を握る。そして、画面に今まで見たことのない、まるでクエストのような通知が浮かび上がった。




【【【 スキル《描写の達人》が発動されました!


描写の達人スキルを使用するには、まずデザインしたい靴のイメージを明確に想像してください。


体がより正確に動けるように、以下の質問にお答えください。】】】




▷《NPCベアトリクス》のリクエストを分析した結果、最適な靴のタイプは「スポーツシューズ」であると判断されました。


このタイプの靴をデザインしますか?




▷ はい


▷ いいえ




▷ 使用する革素材として「牛革カーフレザー」が最適であると推奨されました。


この素材を使用しますか?




▷ はい


▷ いいえ




「え、ええと……すごいな、このゲーム。こんなに細かくサポートしてくれるのか……」




最初の質問に関しては、自分もすでに「ベアトリクスにはピンク色のスポーツシューズが合うだろう」と思っていたので、迷わず「はい」を選択。




革の種類に関しては、正直まだ詳しい知識はない。けれど、システムの判断を信じることにして、こちらも「はい」を選んだ。




【【【 回答が確定されました 】】】




「……あっ、身体が!」




まるで糸で操られる人形のように、自分の身体が勝手に動き始めた。




しかも――驚いたことに、机の上に置いた白紙の用紙に、信じられないほど滑らかに靴のデザインを描き始めたのだ。




「うそ……これ、本当に私の手……?」




まず描き出されたのは、ソール(靴底)の部分。柔らかいカーブを描きながら、滑らかなアウトラインを引いていく。しかし、上部との接合部分だけは一旦空けている。




「……なんでこの部分だけ残したんだろう?」




そう思った次の瞬間――まるでその疑問に応えるかのように、残されたスペースに小さな丸を描き、そこを起点にソールと本体部分を繋げていく。




「……な、なにこれ、すごい……!」




定規を使い、長さと幅を測定しながら、スポーティで軽快なラインが次々と描かれていく。目の前で繰り広げられるその動きは、まるで熟練の職人技を見ているかのようだった。




そしてわずか数分で――ベアトリクスの理想にぴったりの、ピンク色のハート柄スポーツシューズのデザインが、見事に完成した。




【【【 スキル《描写の達人》を使用しました


※現在、このスキルは1日1回のみ使用可能です。


次回の使用可能まで:23時間59分 】】】




「そ、そうだよね……こんな便利なスキル、使い放題なわけないよね……」




それでも――たった一度の使用で、ここまで完璧なデザインができたことに、胸が高鳴る。




「……すごい。このスキルがあれば、私でも靴職人になれるかもしれない」




自然と、心の奥から湧き上がる自信があった。




そして何より――NPCと真剣に向き合い、共に靴を作るというこの世界の体験が、どこまでも現実味を帯びて感じられた。

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