第1話 覚醒

(ん……)


 何か頭の中がクリアになっていく感覚を覚えながら私――寺坂 翼――は目を覚ました。

 ?目を覚ました?


(え?あれ、え?)


 ……どうして?

 だけど私が何かを考えようとしたときだった。


「!ゴボボボボ!」

(な、何これ!!く、苦しい!!)


 何か、水のような何かが口の中に入ってきて息苦しさを感じる。呼吸ができない。

 私はとにかくこの苦しさから逃れるべく手足を滅茶苦茶に振り回して暴れた。

 すると手が何か硬いものにあたる。


(!)


 水で目が開けられない中、私は必死にを 殴りまくる。


(開いて!開いて!開いて!!)


 それが功を奏したのか、何かは割れて私は勢いよく前に流された。

 投げ出された私は両腕をついて体を起こし咳き込む。


 「ゴホッ!ゴホッ!ガハ!ゲホッ!!ゲホォッ!!」


 体の中にある全ての水を吐き出すように勢いよく咳き込む。

 やがてやっと呼吸が落ち着いてきて私は空気をめいいっぱい体に取り込む。

 「ハーッ……ハーッ……ハーッ……ふぅ……」

 呼吸が落ち着いたところでようやく冷静さをとり戻した私はおかしなことに気づく。


 (……なんで私、呼吸できてるの?)


 私はあのとき確かに自分の意識が遠のいていく感覚がはっきりとあって、そして確かに死んだ。そのはずなのに。

 

「……」


 生き返った?

 わけがわからず困惑する私の手が無意識に頬に触れたとき、信じられない感覚が走る。


「……ッ!」

(う、嘘!?)

 

 思わずペタペタと自分の顔を触る。

 なぜなら包帯の感触ではなく、少し濡れているが皮膚の感触があったからだ。

 もっと触ってみるとそもそも包帯が巻かれていなかった。

 なんで……


(どうして……どうして……!?)


 ふと横を見てみると大きな鏡があった。そこに映っていたのは――


「……え?」


 元の私の顔があった。肩まで切りそろえたショートの黒髪で目つきが悪くて避けられがちだった――

 火事で火傷を負ったはずの、私の顔が――。

 かのように綺麗さっぱりと消失していた。

 おそるおそる喉に手をあてて声をだしてみる。


「あー、あー……」


 よく電話越しだと男子と間違えられる声もそのままだった。

 だが着ていたものは違った。

 患者服を着ていたはずなのに、今の私には暗く濃い銀色を基調にした赤いラインが走るまるでコスプレ服のようなボディスーツを身につけていた。

 首を動かせば自分がいるのも病室ではなく、どこかの廃墟のような場所であった。   また、後ろを向くと割れたガラスつきの楕円形ケースがあった

 どうやら私がさっきまでいたのが前面ガラス張りの楕円形ケースの中だったということがわかった。

 もっとも今の私は液体の入ったケースの中にいたせいで、髪も全身も濡れていたが。


「何が、どうなってるの……?」


 自分の姿と場所がわかっても結局、今の状況が何なのかわからないまま困惑しつつ立ち上がり、顔に張りつく髪についた水滴を払うように頭を振ってとばし、髪を後ろに流す。

 もう一度周りを見てみると、どこかの廃墟だった。あちこち壁がボロくて埃が積もってて、しかもなんだかカビくさい。

 よく見てみると上に続く階段もあった。


「ん?」


 ケースも含めてどう見てもまともなとこじゃなさそうだと思っていると、ボロボロの机の上に何かが光っているのに気づいた。

 近づいてみるとそれは黒い宝石のようで、パワーストーンのオニキスにもにていた。

 確かずっと前に恵令奈から教えてもらったエメラルドカットの形になっていた。


「これ、なんだろ」


 思わず手に取ってしげしげと眺めていると、ふと上の方から扉の鍵が開くような音が聞こえ、人の足音も聞こえてきた。


(やばッ!)


  別に隠れる必要はないはず。でも私はなんとなく、今は隠れた方がいいと考えて近くにあった三段重ねの箱の裏に身を潜めた。

 足音はどんどん近くなり、私のいるところまで何者かが降りてくる。

 すると息を呑む声がして、何人かの話声が聞こえてきた。


「おいッ!どうなってんだ!?誰がアトラスを持ち去った!」

「俺に言われたってわからん!」

「本部!こちら回収班、緊急事態です!!」


 焦った声が聞こえる中、私はこっそり相手の姿を見やると軍服を着た男女が数人いた。


(自衛隊の人?何でここに?っていうか……)


 さっきアトラスって単語が聞こえてきたんだけど、ひょっとして私?

 なんだかここにいちゃまずい気がしてこっそりこの場を離れようとしたが――。

 うっかりひじが木箱に当たり、しかも積み方が悪かったせいなのか派手な音をたてて崩れる。


(あ!)


 自衛隊の人たちが全員私の方へ振り向く。

 そして手にしていた銃をかまえた。


「うわああああああ!!」


 私は思わず飛び上がって驚く。

 が、次の瞬間。


「ッ!!」


 頭部を天井にぶつけてしまった。


「いったああ~~!!」


 あまりの痛みに目をつむって頭頂部を抑えてうずくまる。滅茶苦茶痛い。

 痛みが薄れてきたときにふと前を見ると自衛隊の人たちが困惑した――というよりあっけにとられた――表情で私を見ていた。

 一瞬疑問に思ったがすぐにこれはチャンスと理解した。

 私は急いで階段まで走った。


「おい待て!」


 後ろからの静止にかまわず階段を駆け上がり、目の前にある扉に突っ込んで外に出る。

 外に出た私の目に軍車両や他の自衛隊隊員が見えたがかまわず突っ走った。


 ***

 <Side:???>

「ふう……」


 とある施設のトレーニングルームから1人の青味がかった銀髪の少女が現れた。

 年の瀬は10代後半の少女は首に巻いたタオルで汗を拭う。

 一見すると普通の少女にしか見え無いが特異な点として両手が銀色の義手であったことだ。


「お疲れさまでーす!西条さん!」


 元気のいい声に銀髪の少女――フレイヤ・N・西条さいじょう――が緑色の瞳を向けると、前髪を切りそろえた白い髪を腰までのばした西条より年上に見える女性――明未来 樹理あみら じゅり――がスポーツドリンクをもって小走りに近づいてきた。


「はい、どうぞ」

「……ありがとう。」 


 人当たりのいい笑顔を浮かべドリンクを手渡す樹理に対しフレイヤは無表情で素っ気なく返して受けとる。


「じゃあ、私行くから」

「あ!まってください、色々お話したいことが……」


 樹理は何かを話そうとするが、フレイヤは黙って自室へ向かってしまう。


「あはは……はあ……」

(また話せませんでしたね……) 


 ため息をつく。

 すると後ろから声をかけられる。


「樹理、またやってるのね」

「あ、朱音さん。美青さんも」


 声をかけたのは印南えなみ 朱音。

 強気な印象を与えるつり目にツインテールにした赤みがかかった茶髪。どことなく勝ち気な印象を与える。


「ホント毎日毎日、よくも飽きもせず声かけるわねえ。無愛想よ、あいつ」

「大丈夫です!今はまだダメでも、きっといつか仲良くなれますって!」

「……どっから出てくんのよそんな自信」

「まあまあ、樹理だって自分なりに頑張ってるんだから」


 呆れたように返す朱音に美青はなだめるように言う。

 そんな朱音とは対照的に美青は茶髪をポニーテールにしつつもアーモンド型の目をしていて大人しく控えめな印象を受ける。

 ちなみに2人は姉妹だ。


「あ、そうだ。2人ともこのあと予定あります?」

「あたしは別にないけど」

「私も。なんで?」

「いや~実は2人にちょっと私のトレーニングにつきあってもらおうとおもって。いいですか?」

「あたしはいいわよ。美青は?」

「う~ん、ごめんなさい今日はパスかな」

「わかりました。じゃあ美青さんはまた今度と言うことで。それじゃあ!」


 去って行く樹理を見送りながら、朱音はふと心の中で呟く。


(あいつ、いつも笑顔ね……)


 ***


 あの後、なおも追ってくる自衛隊の人たちをなんとか振り切って山の麓まで降りてきた。というかあのなにかの施設みたいなの、山にあったのか。

 これからどうしようと考えていたとき、親切なおじさんが軽トラで通りかかって、街まで送ってもらえた。

 おまけに「そんな格好、新手のファッションかも知れんが悪目立ちするぞ」といって

 捨てるつもりだった古着のジーンズと半袖Tシャツをもらった。サイズもぴったりだった。

 ちなみにボディスーツは古着が入っていた紙袋の中だ。

 と、またここで私はおかしなことに気づく。


「あれ、あのとき私、あんまり息あがってない?」


 以前の私はあまり運動が得意でなく体力も低かった。なにせちょっと走っただけで息があがってしまうのだ。

 でも今の私は全然疲れも何もなかった。

 また疑問が増えてしまったがあれこれ考えても今はわからないので、なんとかして情報を集めなければと思い直す。

 っていうか――


(しまった……)


 廃墟内でのドタバタで持ってきてしまい今は首にかけているペンダントに触れる。


(明らかに勝手にもっていっちゃダメな奴だよね……これ、どうしよう……)


 そう思い悩みながらながら座っていたバス亭近くにあったイスから立ち上がったときだった。

 いきなり爆発と灰色の煙が舞う。

 ウーーーというサイレンの音が響き渡る。

 やがて煙の中から全長12mぐらいの大きなコモドドラゴンのような怪物が現れ、咆哮をあげ、人々を襲い始める。

 人々の悲鳴が聞こえる中、私はもう何がなんだかわからなくなっていた。

 とにかく危険を感じた私は他の人たちに交じって避難する。


 (一体どうなってるの!?)


 そして次にアナウンスが聞こえる。


『フォーリナー出現。フォーリナー出現。直ちに避難してください』

「!」

(フォーリナーって……どこかで聞いたことが……)


 記憶の本棚を探ろうと思案しようとしたとき、頭上を何かがとおる音が聞こえて、驚いて顔をあげると――。

 青みが掛かった銀髪に青い鎧を着たクールな少女と、グレーの下地に黒い模様が入った白い長髪の軽やかやかそうな少女の姿を見た。2人の少女達は巨大なコモドドラゴンに攻撃を開始した。


(あの2人もどこかで見たような……)


 私がそう既視感を抱いたときだった。


「おい見ろ!ヴァナディスだ、ヴァナディスの戦姫が来たてくれたぞ!」

「よっしゃ、もう安心だ!」

「頑張れ!ヴァナディス!!」


 走りながら口々に叫ぶ人たち。

 そして私も人々の言葉に、ついに既視感の正体に気づく。


(え、ヴァナディス!それにあの2人ってフレイヤに、樹理!?)

 

 私は思わず少女達を見つめた。なぜなら――


(まさかここ、暁暗戦姫ヴァナディスの世界なの!?)


 私が過去に見たアニメのキャラクターと世界だったから。


 ――――

 7/22ちょっと加筆修正、ヒロインの一人の名前をソフィーから樹理に変更。

7/30加筆修正。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おれたたエンドの変身ヒロインアニメに転生したんだけど… レイザーZ @Ia68jt7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ