模倣騎士、企業
昨日、一度断られた柊 雷吾の元へ、再び向かう照人たち。今回は綾が自信満々に言い放った。
「ワタシ、あーいう男子、得意だから任せて?」
「得意って、どういう……」と照人がツッコむ暇もなく、綾は支援科ラウンジのドアをノックし、ずかずかと入っていく。
中にいた柊は、戦術書の山に囲まれたソファで一人読書中。
顔を上げた瞬間、綾の姿を見て「うっ」と露骨に体を引いた。
「よっ、柊くん。ワタシらさ、クラン作るんだけど〜入ってみない?」
「はっ⁉ ……何でそうなるんだ。唐突すぎるだろ……!」
綾は腕を組んでにんまり。
「戦術家なんでしょ? 実力はガチだし。あとはさ〜、ノリ。ノリ大事っしょ?」
柊の顔が見る間に真っ赤になる。
「っ……おま、距離! 女子が近いのほんと無理なんだけど! てか、ギャル!? ギャルとかさあ……!!」「うわっ近い近い近い……!」
「ほら、やっぱ照れてる~。かわい~」と綾が追い打ち。
「やめろおおおおお!!!」
顔を覆って絶叫する柊。
「そ、それだから女子は苦手なんだ……! ギャルなんて、ギャルなんて」
思わず叫んでしまった自分の発言に、さらに顔を真っ赤に染める柊。
照人と天野が思わず吹き出す。
「ちょっと〜柊くんさ、戦術家になったくせに、まさかクラン入る度胸もナイわけぇ?」
読書していた柊がピクリと反応する。
顔を上げ、予想どおり綾を見た瞬間に「うっ」と目を逸らす。
「……は? ないわけねーだろ、んなもん……!」
(声がちょっと裏返ってる)
綾はニヤニヤ顔で詰め寄る。
「じゃあ、なに? ワタシらのクランに入る自信もあるってこと? ふふ〜ん?」
柊は目を伏せながら顔を赤らめる。
「……バカにしてんのか……? 俺がどれだけ準備して、どれだけ理論詰めてきたと思ってんだ……!」
「つまり、自信はある。と」
天野がぼそりとフォロー。
柊は勢いで立ち上がり、指をビシッと差し出す。
「あるに決まってんだろ!! なめんな!!!」
その勢いにちょっと空気が止まる。
そして綾が言う。
「ふーん? じゃあ、けってーい。笑って、戦う場所。柊くんみたいなタイプ、必要だと思うよ」
柊は沈黙する。
「ぁあ、ああっ!?入ってやるよ! あとからギャグだったとか言っても許さねぇからな……!」
(明らかに“まんざらでもない”顔)
照人が苦笑いしながら言う。
「最初からまじめに誘ってるんだって。ようこそ、うちのクランへ、戦術家さん」
柊は少し照れたように鼻を鳴らして、
「……ま、ギャルに頼られたら断れねぇってのもあるけどな」とつぶやく。
綾が聞き逃さずすかさず突っ込む。
「今、なんか言った〜?」
「な、なにも言ってねぇぇぇぇぇ!!!」
照人が笑いながら言った。
「……効果あったのか、なかったのか、微妙だな」
天野も微笑む。
「でも、ここまで顔真っ赤になるなら――たぶん、満更でもないんじゃない?」
柊は、顔をそむけたまま――ほんの少し、口元を緩めた。
寮のカフェスペース。5人が顔をそろえたテーブルの上には、設立申請の書類。
照人がぐっとペンを握りしめる。
「……これで派生職5人。ようやく――俺たちのクラン、スタートだな」
天野が静かにうなずきながらも微笑む。
「ここからが本番だな。《本気でふざけて、本気で勝つ》んだろ? 俺たちのやり方で」
「あたし、爆発担当なんで☆ 出番きたら、ちゃんと呼んでよね〜」
綾が明るくピース。
「……なるべく前線に出ない作戦にしてれ。見つからない形で働くのが理想だ」
赤坂が手帳を睨みながらひと言。
「作戦なら俺に任せろ。無駄を削って、勝てる動きにする……から。…その、邪魔すんなよ?」
柊はそっぽ向きながらも、ちょっとだけニヤけてる。
「……いいじゃん。完璧なバランスじゃね?」
照人はそんなメンバーを順番に見回して、軽く笑う。
「さて……問題はクラン名だな」
天野が腕を組むと、重厚な鎧が小さく音を立てた。
「俺は“ミーム商会”推しだったんだけど」
照人がにやにやとした顔で出すと、すぐさま綾が反応する。
「商会ってなに? 商売すんの? え、うちら、なんか売るの? あたし炎とかしか出ないんだけど」
「いや売らねぇけど、“カンパニー”って感じ? ノリ的に」
「だったらさ〜、“メガファイヤーズ”とかどう? 派手だし、爆発っぽいし!」
「やだやだ、絶対爆発前提じゃん……!」
赤坂が小さく椅子に身を沈める。
「そんなクラン入ってるって知られたら、人前に出たくなくなる……」
「“超絶勝利戦略集団”ってのはどうだ。“ちょーせんしゅう”。“挑戦集”とも掛かってる……完璧なネーミングだろ」
柊が唐突に口を挟む。
「……長いし、噛みそう」
綾が即切り。
「てか、雷吾って意外とネーミング厨なんだね〜。意識高!」
「う、うるせぇ!」
柊が顔を赤くしてそっぽを向く。
「お前らみたいにふざけた案よりマシだろ!?」
「ふざけてないよ〜? ちゃんとテーマあるし? あたし、戦闘芸術派だし?」
天野が苦笑しつつ、場をまとめるように口を開いた。
「それぞれの職業もバラバラで、個性も強い。でも目指すのは“面白くて強い”だろ。そこだけは一致してる」
「そうそう。“勝つためにふざける”って本気で言える奴ら」
照人が頷く。
「……だから、最初に言った“ミームカンパニー”っての、やっぱアリじゃね?」
「うーん、聞けば聞くほど悪くないかも」
綾が首をかしげつつ、納得しかける。
「“ミーム”って、ネタだけじゃなくてさ、文化とか流行のことでもあるし?」
「しかも、俺たちが広めたい“ふざけた強さ”って、まさに流行らせたいしな」
照人がにやりと笑った。
柊は唇を尖らせつつも、やがて小さく呟いた。
「……まあ、ダサくはない」
「……目立たなければ、どんな名前でもいいです……」
赤坂はあきらめたように目を伏せた。
「決まりだな」
天野が、再び申請書を手に取る。
「クラン名、《ミームカンパニー》。初期メンバー5名で、まずはFランクからスタートだ」
「うちら、もう少し仲間集めるんだよね?」
綾が念押しする。
「もちろん。多すぎても困るけど、あと2〜3人は欲しいな」
照人は答えながら、すでに次の戦いを見据えていた。
「でさ、次はリーダー決めじゃん?」
綾・フォルシアが頬杖をつきつつ、スマホでスイーツの写真を撮っている。
「ワタシ、リーダー向いてないんだけどさ〜、副リーダーとか秘書っぽくない? “美人秘書”って呼んでよくない?」
「誰が呼ぶかよ……」
柊雷吾が低く唸る。
「じゃあ俺は参謀と書紀を兼任してやる。戦術家だからな。脳筋どもとは違うんだよ」
「今、自分で“脳筋ども”って言ったな?」
天野縁が目を細めながら、ゆっくりハルバードを立てかけ直す。
「まぁまぁ」
照人が笑いながら手を挙げた。
「リーダーは俺でいいだろ?」
「異議なーし」
綾が即答。
「てか、あんた以外、リーダーって顔してないし」
「それな。俺がやったら、たぶん全員お昼寝タイムになる」
天野が笑って頷いた。
「天野は副リーダーで文句ないよな」
照人が軽く視線を送ると、
「“縁の下の力持ち”って名前だしな」
と、天野は肩をすくめた。
「立場的にも合ってると思うよ」
「……あの」
控えめに手を挙げたのは、赤坂 忍。
「それ、俺は…」
全員が一瞬黙る。
「ごめん! 忘れてた!!」
綾が素直に手を合わせた。
「そこは否定して…ほしい…」
赤坂はうなだれた。
「いやいや、お前はむしろ認知されないのが強みだろ?」
照人がフォローを入れる。
「罠師なんて、影から全体をコントロールしてナンボだし」
「そうだそうだ!」
綾が笑って肩をすくめた。
「……それ、フォロー……?」
赤坂はカップに口をつけながら目を逸らした。
「じゃ、まとめるぞ」
照人が椅子に背を預けながら、指を折る。
「リーダー:俺、照人。副リーダー:天野。
秘書:綾。参謀兼書紀:柊。影:赤坂」
「影って何……?……影って、職業じゃないですよね……」
赤坂がまたうつむくが、誰もそれには答えなかった。
「――よし、“ミームカンパニー”、始動だ」
照人がにやりと笑い、視線をメンバーへ巡らせる。視線の先には、それぞれに頼れる仲間たち。
ふざけて、でも本気で。
ここからが、彼らの物語の本当のスタートだった。
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